第14話 死亡フラグ
風花が朝、俺の家まで迎えにきて、俺が少し待たせて一緒に登校する。
最近定番かしつつある朝の光景。
今日も今日とて、世間話やらハマっている漫画やらの話をしていた。
そして、そんな世間話も程々に、俺は昨日から喉に引っかかり続けている事について聞くことにした。
「昨日のは、どういうつもりだったんだ? 風花」
「昨日のってー?」
「……あいつらの前で付き合ってるって嘘ついたことだよ」
「あぁー、あれかー。うーん、なんとなく! だね! 学校だけの彼氏彼女とか楽しそうだなーって!」
「そうか……って、はぁっ!?!? なにか大事な理由があるとか、そういうのならまだしもなんだよそれ!」
「いやーだってまぁ? ノリっていうか、なんていうか?」
アホもここまでくればなんとやらだ。俺は特大ため息を吐きながら、横で何も考えていなさそうにニコニコしている風花を見た。
相変わらず可愛いのがさらに腹立つ。幼馴染だから耐えられるけど。
隣で風花がぽつりと何かを溢していたが、聞き取れなかった。まぁ大した事ないだろうきっと。
特に気にするわけでもなく、そのまま学校へと向かった。
▲ ▼ ▲
「まぁ、誰かさんがダーリンとか言うから嫉妬したのかもねー」
▲ ▼ ▲
「学校では恋人のふりしなきゃね?」
少し話題に困り、沈黙が続いていた時に風花はそう言った。
「別れたことにすればいい。というかそうしよう」
「えー。まぁ、いいけど、たった数日で別れるような軽い女に私をしたいんだー。へー?」
「いやっ、それは……」
「それはダメでしょー? じゃあこれからも恋人のふり続けなきゃだよねー!」
なぜかキャッキャと騒ぎながら満面の笑みでよろこぶ風花。
まんまと罠に嵌められたような気分になる。こんな馬鹿に。ちくしょう。
「……わかった。それじゃあ、学校では恋人のふりをしてやる。だけど時期が来たらすぐに別れるからな」
「うんうん。もちろんだよー。それに、学校だけだしねっ!」
「はぁ……頼むぞ」
「うんっ! ……あ、校門だ」
風花が指さす方を見ると、確かにウチの高校の校門があった。だけど、なんで今それを……。
「学校じゃ、恋人だよね私たち」
「……不本意だが」
「じゃあ、学校に入った途端恋人のフリしたら、おかしいよね?」
「ん? んん?」
俺が風花の言葉の理解に苦しんでいると、唐突に左腕に感じる衝撃。その衝撃を和らげるように感じたもにゅっとした柔らかさ。
すぐさま風花が元いた場所を見ると忽然と姿を消しており、代わりに俺の腕をぎゅっと抱いたいた。
「じゃあここから恋人のフリしなきゃだよねっ!」
「いや、こ、こんなことしなくてもっ!!」
「……え? 普通のカップルって、こういうことするの当たり前なんだよ?」
知らないのが不思議でたまらないと言った表情をする風花。一瞬風花のその表情から危うく信じそうになったが。
「そんなわけあるかぁぁぁ!!!!!!!! 少なくとも付き合いたてのカップルはしないっ!!!(多分)」
俺は風花を引き剥がそうとなんとか奮闘するが、一向に離れる気配がない。というか剥がれない。
俺は今まで人生に筋トレなんて必要ないとずっと思ってきたが。
自分のあまりの貧弱さに、こういう時があるから筋肉が必要なのだと嫌というほど思い知らされたのだった。
▲ ▼ ▲
結局腕をガッチリと抱かれたまま教室まで連行された。道中、いつもよりすごい視線のナイフがざっくりざっくり刺さりました。
そして、今。現在。
俺は陽キャグループにいた。理由は説明せずとも理解して頂けると思いますが。そうです風花ですはい。
まぁ、それはいいんです。陽キャグループの人たちいい人ばかりだし。優しいし。葉月とか特に。
だけど、だけど……。
さっきからずっと田中マイケルがじっとこっちみてくるんですけどぉ……。
え、俺何かしました? ってくらいにこっちガン見してきてるぅ……。
あ、もしかして……風花と恋人になったから……? いや、恋人って言ってもフリだし……でも、田中マイケルには当然伝わってないよなぁ……。
「つくも、どうした? ぼーっとして」
葉月が昨日やっていたドラマの話を中断しながら俺に聞いてくる。もちろん田中マイケルがガン見してくるんだけど? なんてこと言える訳もなく。
「い、いや、なんでもない」
「そっか、何かあったらいつでも相談乗るからな! あ、で昨日のドラマ──」
しばらく陽キャグループの面々は昨日のドラマの話題で再び盛り上がり、しばらくしてホームルームの始まりを告げる予鈴が鳴った。
風花含め陽キャグループは各々自分の席へと戻っていく。そんな中、田中マイケルだけがなぜか真っ直ぐ俺の方へと歩いてきていた。
俺は気づかないふりをしながら自分の机に戻ろうとするが、いつの間にか後ろから肩を掴まれて「なぁつくも」と声をかけられた。
内心びくりとしながらも、一応校内では風花の彼氏を演じなければいけないという責任感だけを頼りに後ろを振り向いた。
「ど、どうした?」
俺の言葉に返事を返すわけでもなく。田中マイケルは俺の耳元に顔を持ってきてこう言った。
「昼休み、視聴覚室前」
それは人生で最も嬉しくない囁きボイスダントツ一位に入る囁きだった。
田中マイケルはその言葉だけを言い残して去っていった。
俺は来るべき昼休みに向けて、真剣に早退しようか考えたのだった。
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