魔法使いは絶滅する事にしました

ふもと かかし

プロローグ

第1話 こうしてウォザディーは隔離された

 人類と魔族との長きに渡る戦いは、勇者ヤーカン、聖女ギムテアそして魔法使いウォザディーが魔王を討ち滅ぼした事によって終結した。


 盛大な凱旋パーティーが開かれ、各国のお偉いさん方から上っ面だけの賛辞の言葉を頂き三人は内心はどうあれ顔に笑顔を貼り付けてやり過ごしていく。論功行賞の場で元々貴族であるヤーカンとギムテアは相当の金額を頂き、唯一平民のウォザディーは叙爵して貴族の仲間入りを果たした。

 更に、国境沿いの王領を三分割して各領地として与えられたのであった。


〜〜〜

「ミフオサ男爵か……変な感じだな」

 領地へと向かう馬車の中でウォザディーは呟く。

「あれ? 止まるのか」

 馬車が止まったのだが違和感がある。初日に到着する訳が無いし、まだ日は高いので宿を取るにしては早過ぎるのであったからだ。

「ミフオサ卿、降りて下さい」

 護衛の騎士が声を掛けて来たのでウォザディーは馬車を降りるとそこは森の中ではないか。


「ここは? 休憩には適しない場所みたいですが」

「ルイシネ樹海の入り口付近に当たります。殿下のご命令で暫くこの小屋に身を隠して頂きたい」

 騎士は申し訳なさそうに目の前の寂れた木こり小屋を指し示す。

「分かりました。いつまでここにいれば良いのですか」

「食料の備蓄が一週間分なのでそんなに長い間では無いかと思います」

 ウォザディーは帰ろうとする騎士や御者に別れを告げると小屋へ入っていく。中はちょっとした居間と倉庫兼仮眠室があるだけで、家具も魔法具も碌に揃っていない。

 彼が魔法使いでなかったらここで一週間生活するのは過酷だっただろう。


「秘密裏に殺されるのかな」

 そもそも一週間も生かしておく事は考えてないのかもしれない。ウォザディーが孤児院にいた時に読んだ本にあった話を思い出す。平民出の英雄が民衆の支持を集めてしまい、それを恐れた王や貴族達によって暗殺される話である。

「ヤーカンとギムテアは大丈夫かな。まあ二人は元々貴族だから問題無いかな」

 長い歴史の中で平民が功を立て爵位を得る事は何度か有った。しかし新興貴族家は長続きしないのだ。そもそもが領地経営や政治の事など学んでいない上に、周りの貴族家のやっかみ等で除け者にされる。更には甘い言葉で騙そうとする者ばかりが寄って来て最終的には没落してしまうのだから。


「面倒事に巻き込まれて惨めな思いをするくらいなら、一思いに殺される方がマシかな」

 覚悟を決めたウォザディーはせめて最後の時までに一歩でも魔法の深淵に迫ろうと研究に没頭していく。

 魔王の使う魔法は威力こそウォザディーより弱かったが、濃さの様な物が有って厄介だった事が頭から離れない。そこでウォザディーは魔法にはまだ未知の領域があるとの考えに至っていたのだ。


「…………サ卿、ミフオサ卿!」

 研究に没頭していたウォザディーを呼ぶ声が聞こえた。

「あれ? 貴方なのですか」

 ウォザディーは騎士が暗殺をするなど思ってもいなかったので驚く。

「はい私ですよ。申し訳ありませんが、まだここにいて頂かないとならなくなった為に食料などをお持ちしました」

「へっ、食料?」

 殺されるというのは、どうやらウォザディーの勘違いだった様で従者らしき者がせっせと倉庫に物を運んでいる。


 仕事を終えた従者達は、馬車に乗り込み森から離れて行ってしまう。しかし、騎士だけはこの場に残ったままなのだ。

「貴方は帰らなくて良かったのですか」

「私は護衛としてここに残れとの命を受けておりますので」

 それからは騎士との共同生活となった。騎士は1週間毎に来る食材運搬の馬車を利用して入れ替わっていく。基本的にウォザディーは魔法の研究に没頭しているので、護衛騎士とは必要最低限しか会話をしない。そんな状態で1週間過ごしても仲が良くなる筈もない。


 次第に他人の目というものが、煩わしく感じられるようになっていく。そうなると、護衛というものも只の監視に思えてしまう。言うなれば、監獄にでも囚われているみたいである。

 易壁として来てしまうのも仕方のない事だろう。


「何故、俺は見張りをつけられて生活をしないといけないのかな?」

「見張りなどとは心外ですね。私は護衛としてこちらに赴任して来ているのですよ」

 もう幾人の騎士が入れ替わったかも数えるのも馬鹿らしくなってきた頃、ウォザディーは現在の状態を皮肉交じりに聞いてみた。だが答えは他の今まで来た騎士とさして変わりがない。

「またそれか! 人を攫って来ておいて、こんな小屋に軟禁状態で見張りじゃ無いだって?」

「ええ、御身の事を考えての殿下の判断ですので何卒ご辛抱を」

 やはり騎士から明確な理由を聞く事は出来なかった。苛立ちはあったものの、魔法の研鑽に関しては寝食以外の時間をフルに使って心置きなくやれている。だから、今の生活が嫌な訳ではない。ただ少し、モヤモヤとするだけだ。


 結局、ウォザディーはこの小屋での生活を、3年近く続ける事になる。更に、その後に自作した家での生活も合わせると実に30年もの間、彼はこの森で過ごしたのであった。

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