第19話 取り消しの代償
お姉ちゃんの提案で、私達は学校に行く前にあの神社に寄ることにした。私はお姉ちゃんに何か危害が加わらないかと不安でたまらなかったが、お姉ちゃんが「大大丈夫だ」と言った以上はそれ以上何も言うことが出来ず、渋々お姉ちゃんに着いて行くことしか出来なかった。しばらくお姉ちゃんと歩いて行くと、道の横に神社はすぐに現れた。私達は鳥居をくぐり、その敷地内に入った。
神社は昨日と何も変わらず、ただキツネの銅像と賽銭箱がこじんまりとあるだけだった。お姉ちゃんは周囲を軽く見渡した後に、私の方を向いた。
「いつもここで何をしてるんだ?」
「な、何って、ただのお参りしかしてないよ……?」
「じゃあなんでその美孤が言う神様なんかが……」
お姉ちゃんが頭を悩ませている間に、私はもう一度その賽銭箱を見た。昨日と何も変わっていない、ただの賽銭箱だ。ただ昨日と違うところがあるとすれば、それは本殿を閉じている縄が切れていないところぐらい……とそこで、違和感に気が付いた。
(縄がない……)
そこで私は昨日までは確かにあったはずの縄が、今日はないことに気が付いた。昨日までは確かに本殿を守るように縄が結ばれており、その縄は確かに私の目の前で切れた。切れたから、神様が出てきたのに。それがない、ということは……。
「美孤、なにか気が付いたのか?」
お姉ちゃんが近づいてきて、私は今気が付いたことを話した。
「き、昨日まであったはずの縄が、ないの。確かに昨日まであって、私の目の前で切れたのに……」
「それは、縄が切れたことに気が付いた神主か誰かが回収したんじゃないのか?」
「あ、ありえない。だってここには神主さんどころか私以外の人が出入りした気配なんてないのに……」
「そんなこと言ったら、じゃあ誰が縄を……」
と、私とお姉ちゃんが頭を抱えた瞬間だった。
「その縄やったら煩わしおして取ったけど?」
「……!?」
後ろから聞き覚えのある声がして振り向くと、そこには昨日の神様がひょうひょうとした態度で立っていた。
「……か、神様!?」
「こんにちは、お前さん。昨日ぶりやな」
神様はにこにこしながらこちらに来ると私、の方ではなくてお姉ちゃんの方に近づいた。
「ほぉ、これがお前さんの好きな人。へぇ、意外にかわいらしいなぁ」
「お、お姉ちゃんに近づかないでください!」
私が神様に近づこうとすると、お姉ちゃんが私を止めた。
「……へぇ、お前が美孤に呪いをかけた神様って人?」
「人とちがうけどなぁ」
「昨日は、といううか、最近まで美孤……、妹がお世話になったようで」
「気にせんでええで。お代はこれから払うてもらう予定なんでね」
「ああ、お代?ここの神社は参拝するのに金が必要なのかよ」
「そらあお宅の妹はんが願うたものを叶えようって言うんやさかい、それなりのお代は貰わへんとね」
「うちの妹が叶えてくれとでもお前に言ったのか?」
「願うた時点で叶えてくれ言うたものと同然とちがうかいな?」
「そりゃあ暴論だぜ、神様」
おおよそ初対面とは思えな勢いで白熱するお姉ちゃんと神様に、私は肝を冷やした。神様も神様だが、そんな神様に堂々と真正面から口論するお姉ちゃんに果たして惚れるべきなのか恐れるべきなのか悩みどころである。いくら私の為とは言え、お姉ちゃんがそこまで体を張らなくてもいいし、何ならお姉ちゃんは忘れていないだろうか。相手は神様だということを、人間が太刀打ちできない神聖なキツネ様であることを。もし気に触れてしまったら、もしかしたら、お姉ちゃんにも呪いがかけられてしまうかもしれないことに、お姉ちゃんは気が付いているのだろうか?
「とにかく……」
お姉ちゃんは今までの話をまとめるように、言葉を進めた。
「美孤の呪いは何とかならないのか?願いはもう叶えなくてもいい、だから美孤の呪いを解いてくれよ、神様なら出来るだろ?」
その言葉に、神様は首を振る。
「そら出来ひん相談やな、人間。なんやって願いはもう叶えてもうた。神の世界に取り消しやらないのやで。間違いでも、望みではなくとも、願うてもうた願いの代償は払うてもらうのが筋や」
お姉ちゃんは神様をに睨む。
「その出来ない相談を、代償払うから叶えてもらいたいって言っているのが分からないのか?お前が神様だから出来ると思ってこっちは言ってるんだけど」
そこで私の思考が一時停止した。私は今のお姉ちゃんの言葉を少し考えた。
私が昨日願ったのは
「私を見て、お姉ちゃん」
その願いの代償が呪いと<
(そ、そんなのって……!)
その時、神様がにやり、と笑って見せた。
「ふうん、おもろいこと考えるな、人間」
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