第15話 お姉ちゃんにお呼ばれされたんですが......?
そのまま夜ご飯(という名の仲直りおめでとう会)をして、私はようやく自分の部屋に戻った。鞄を置いて、制服を着替えて、ひと息つく。ベットに座ってぼーっと壁を見たとき、ふと、今日のことが思い出された。
(あ、付き合ったんだ。お姉ちゃんと)
思えば今日は私の人生の中で一番濃厚な日だった。朝から神様の呪いを受け、でもそのお陰でお姉ちゃんと付き合えた。そんなこと、あるだろうか?いや、ない。こんなこと、絶対にない。そういえばお姉ちゃんのことでいっぱいいっぱいで神様の呪いのことなんか、すっかり忘れていた。私、呪いを受けたんだ。
「お姉ちゃん、す......っ、ごほ、ごほっ、ごほ、ん、!」
ダメだ、やっぱり言えなかった。整理するなら呪いは主に二つ、自分の本音が言えなくなる(言おうとすると喉に激しい痛みが走る)ものと、相手が話したときにのみ相手の本音がわかってしまうもの。どちらもややこしい呪いだけれど、日常生活にそこまでの被害はないだろう。お姉ちゃんには自分の本音が言えないのは話してあるけれど、相手の本音がわかるのは言っていない。これは言うべきなのだろうか。いや、でも「あなたと会話したらあなたの本音がわかります」なんて言われて、会話しようと思うか?いや、思わない、絶対に。よし、これは秘密事項だ。私だけの秘密......。なんて思って覚悟を決めたとき、ドアのノック音が聞こえた。
「はいっ、って、お姉ちゃん!?」
そこには、お風呂上がりのお姉ちゃんが立っていた。
(お風呂上がりのお姉ちゃん!?週に一回、見れるかどうかの希少さなのに......!)
「美孤、お風呂上がった。次、いいよ」
お姉ちゃんはタオルで髪を拭きながらそう言った。
「あ、うん!わかった!呼びに来てくれて、ありがとう」
「うん。あと......」
お姉ちゃんは私を真っ直ぐ見据えて言った。
「お風呂上がったら、私の部屋来て」
じゃ、待ってるから。そう言ってお姉ちゃんは、私の部屋から帰っていった。私は自分の着替えを持って、お風呂に向かった。
服を脱ぐ。
(お姉ちゃんの部屋に行く?)
シャワーを浴びる。
(お姉ちゃんの部屋に行く?)
湯船に浸かる。
(お姉ちゃんの部屋に行く?......いやいやいやいや、ありえないでしょ!?)
私が?お姉ちゃんの部屋に?中学二年生以来入っていないお姉ちゃんの部屋に?え、え、何着ていけばいいの?髪型は?化粧は?ちょっと待って、まずなんで呼ばれたの~!?!?と、頭を混乱させているとき、ふと思った。
(でも、お姉ちゃんが喋ったのに、本音、聞こえてこなかった)
そういえば昼休みに話したときも、放課後も、全部が全部お姉ちゃんの本音が聞こえてくる訳じゃなかった。本音は至って断片的だった。全ての会話に適応されるわけでは無さそうだ。なら、この呪いにはまだ私の気がついていない何かがあると言うことなのだろうか。私はまたひとつ、考えることが増えてしまって、お湯に深く潜り込んだ。
「顔よし、髪よし、服よし、笑顔よし。うん、完璧......?」
いつもより丁寧に体を洗い、いつもより丁寧に髪の毛を乾かして、私は鏡の前に立っていた。いつでもお姉ちゃんに見られていいとは思って準備していたけれど、いざ見られるとなると、すさまじく緊張してしまう。
(ああ、このパジャマで大丈夫かな......?何か香水つけていった方がいい?いやでも、お風呂上がりなのにおしゃれなんてしてたら不自然......?)
そんなこんなしている間に時間が9時を回りそうだったので、私は覚悟を決めて自分の部屋から出た。そうしてお姉ちゃんの部屋の扉の前に行く。
(こ、ここに、お姉ちゃんが......!ああ、なんて言って入ればいいんだっけ?普通の姉妹って、部屋にはいるとき何て言うの?いや、今は恋人だから、そっちの方向で考えるべきかな?ああ、そんなこんなしている間に時間が......ええい、もう、どうにでもなれ!)
私は深呼吸を数回したあとに、半ばやけくそになって扉をノックした。
「お、お姉ちゃん!美孤です。......入っても、いいですか?」
と、声をかけると部屋の中から「どうぞ」と声がしたので私は息をのんで部屋に入った。
大きな本棚、シンプルな勉強机、綺麗に整えられたベット。その上に、お姉ちゃんは座っていた。
「遅い、やっと来たか。ほら、部屋入れよ」
「あ、うん」
私はお姉ちゃんに言われるがまま、おずおずと部屋に入った。
「ここ、隣座って」
そう言って指差された場所は、お姉ちゃんの隣だった。私は一瞬戸惑ったが、お姉ちゃんを待たす訳にもいかないので、そのまま一人分空けてベットに座った。
(あれ、ここからどう喋るんだっけ......?)
普通の姉妹って、ここからなんて話すんだっけ?あれ、恋人か?え、?恋人同士って普段何話すの?あれ、ドラマとかってどうしてたっけ。あんなに妄想のなかでお姉ちゃんと話してきたのに、いざとなると何も出てこない......!なんて冷や汗を流し始めた時、お姉ちゃんから声をかけられた。
「美孤」
お姉ちゃんから、正面から、まっすぐと声を掛けられた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます