第65話 マリア・フロンダール

マリア・フロンダールはフロンダール領の領都にある自宅で部屋に閉じこもっていた。


「は~・・・。閉じこもっていても解決しないのはわかっているけど、どうすればいいんでしょうか。」


マリアは今まで順風満帆な人生を歩んできた。下級貴族の子爵家のフロンダール家と上級貴族の公爵家、ストライク家との婚約、しかもラッキーとは友人関係だった。


そして、天職の儀で激レアの聖女の素質を授かった。婚約者のラッキーも今までにない素質を授かってマリアの人生は今後も幸せな人生を歩んでいくはずだった。


マリアの人生は、ラッキーが追放されてから大きく変わった。


ラッキーが追放された事で、婚約は破棄。いや正確に言えば婚約者がラッキー、新しく公爵家の養子になったメルトに変わった。


メルトの見た目や雰囲気、言動を聞いていたマリアは、いやいやではあったが、子爵家の為に、マリアはこの婚約を受ける予定でいた。


ただ、すぐには決心がつかなかったので、聖女の勉強の為、マリアは日々教会で過ごして婚約者問題を先送りにしていた。


教会での生活はとても楽しく、能力も徐々に上昇していき、治癒魔法も覚えてと、忙しく過ごす事で嫌な事は忘れていたのだが、


なかなか婚約の事が進まない事にイライラしたメルトが教会に乗り込んできた。


聖女としての務めがあるからと帰ってもらうように伝えたが、メルトは言う事をきかず、無理矢理マリアを連れ去ろうとした。


しかも、どさくさに紛れて胸を触ったりお尻を触ったりしてきた。それに耐えられなかったマリアはメルトを突き飛ばし、


「あなたと婚約するつもりはありません!」


ときっぱり言い放った。


言ってしまった・・・と思ったが、何度考えてもメルトと婚約、結婚は無理だと思ったマリアは、その場を逃げ出した。


教会には戻れないと思ったマリアは、そのまま王都を出て、自分の家がある領都フロンダールに向かい、そして今に至っている。


「お父様には迷惑を掛けてるのはわかってる。でも、やっぱりメルト様は無理だわ。何回考え直しても鳥肌がたつぐらい気持ち悪いもの・・・」


フロンダールに戻ったマリアは部屋に閉じこもってしまった。マリアの父親であるユリウスは話しを聞いて頭を痛めたが、マリアの状況も理解できる為、どうすれば良いか日々悩んでいた。


マリアの父親は、ストライク公爵からも今回の件を言われており、マリアが体調を崩した為、部屋で療養していると伝えていた。もちろん、いつまでもそんな言い訳が通用しない事はフロンダール子爵もストライク公爵もわかっていた。


「は〜。シルフィーに手紙を送ったけど失敗したわね。とにかくこの事を誰かに話したくて手紙を書いたけどあれじゃ心配してるよね・・・。」


マリアは誰かにこの事を伝える事で、気持ちを整理しようと思い、仲の良いシルフィーへ手紙を送っていた。


詳細を詳しく書いた訳ではないが、王都にいたけど、困った事が起きてフロンダールに戻っている。今は何も手につかない程病んでいる。助けてほしい。と・・・


手紙を書いてる時は、何も思わなかったが出した後で、シルフィーに迷惑をかけてしまうと思い、後悔していた。


「ラッキー様・・・。今どこにいるのでしょうか?いつもみたいに、話しを聞いてくれればこんな悩みも解決するのに・・・。会いたいな。」


マリアはラッキーの事を考えていた。マリアとラッキーの出会いはお互いが10歳の頃になる。親が社交界に参加している所で、マリアはラッキーに出会った。初めて社交界に参加したマリアはどうすればいいか父親に引っ付いてオロオロしていた。


ラッキーは公爵家の嫡男という事で周りには人が溢れていた。父親からは、公爵家と仲良くなる為に積極的に声を掛けろ。と言われていたが、緊張して話かける事ができなかった。


そして、一人でいる所に声を掛けてくれたのがラッキーだった。マリアは今でもその時の事を覚えていた。貴族の子供から絡まれていた所を助けてくれたのだ。


「あの時はどうしよどうしよって思ってた時にラッキー様が初めて声を掛けてくれたんだっけ。うれしかったな~・・・。あれから私が困った時は、いつでも助けてくれる優しくてかっこいい人・・・。もう会えないのかな・・・。」


そんな事を呟きながら、ふと部屋の窓から外を眺めると、門を抜けて入ってくる二人組が見えた。


「えっ!?」


マリアは目を擦り、見えているのが幻じゃないと思い、


「シルフィーと・・・ラッキー様!?でも、どうして!?」


手紙を送った友人と共に現れたのは、会いたいと願っていたラッキーだった。


「ラッキー様。ラッキー様。ラッキー様。」


ラッキーのいきなりの出現に頭が混乱するマリアだが、いてもたってもいられなくなり、身だしなみを整えるのも忘れて、ドアをバタンと開けて玄関へと急いで向かうのだった。

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