DAY WALK SURVIVOR ~バトロワゲーに参加させられたのでデュオで優勝していく事にする~
にゃー
PROLOGUE
W、A、S、Dキーを叩けば足音が、マウスを握れば銃声が、ヘッドホンから聞こえてくる。
TPS――自キャラの背中が見える俯瞰視点なモニターの右上では、残り生存者数を示す数字が4から3に減っていた。わたしを除いて残り二人、どちらも場所は割れてる。見晴らしの良い草原で、身を潜められる場所なんて限られてるし。
正面の木陰に隠れていた一人が撃ってきたけど、その時には既に、わたしは小さな岩の裏に伏せていた。がりがりと銃弾が岩を削る音に紛れて、グレネードのピンを抜く。一秒待って放り込み、二秒かけて宙を舞い、落ちて一秒転がって、きっかり四秒、木の裏側から爆発音。合わせて岩陰から様子を窺えば、相手さんはギリギリで爆風を回避していた。つまり、木の裏から出てきた。
当然撃つ。撃ちまくる。銃に詳しくないわたしでも「変なかたち」って思うような
さあラスト一人、って思ったときには既に、後ろから足音が近づいてきてる。緩やかな丘陵の、頂点を挟んで向こう側から。お互いに視認できておらず、決して分は悪くない。
リロードしながらしゃがみ込んで、動かずに足音を注視する。恐らく頭が見えるだろう、大まかな位置に視線を合わせて。
「――っ!」
すがががが、ともだだだだだ、ともつかない銃声が二つ鳴る。わたしの方が撃ち出しは一瞬早く、当然その分優勢だ。お互いジグザグ動いたりジャンプしたり、はたから見たら滑稽な挙動で、必死に弾を避けながら撃つ。相手の武器はアサルトライフル、こっちの方が撃ち切りが早いのもあって、弾切れはほぼ同時。
あちらさんはショットガンに持ち替えようとしてるけど、こっちの方が切り替えも早い。何せSMG→ハンドガンだからね。マウスの左クリックを連打して、セミオートの拳銃を撃ちまくる。ハンドガンと侮るなかれ、弾は45口径、残りの体力を削り切るには十二分だ。
「――っしゃぁっ!」
結局相手はショットガンを撃つこともできないまま、ドクロを浮かべて倒れて行った。同時に画面にでかでかと表示される『SURVIVE』の文字。
一位、わたしの勝ち。やったぜ。
「最後、突っ込んで来てくれて助かったぁー」
独り言を呟きながら、ヘッドフォンを外して伸びをする。
迎えのヘリに乗って夕焼け空を飛んでいくちょっとしたムービーの後には、見慣れたホーム画面へ戻ってきていた。
「――あ゛ぁ゛っ゛!顔゛が゛良゛い゛っ゛!」
おっと、わたしが好み全開で作った自キャラのあまりの顔の良さに汚い声が出てしまったぜ。この美麗系MMOもびっくりのキャラグラの良さ。それが、わたしがこの[DAY WALK]を始めた理由だったりする。
大勢のプレイヤーが、狭まっていく安全地帯に追われながら最後の一人になるまで戦う、いわゆるバトロワゲー。その中でも[DAY WALK]は、キャラの性能差や特殊能力なんかが何もない、ひたすら銃で撃ち合うことに特化したタイプ。シンプルなゲーム性が割と好評だったりするんだけど……一方でわたしのように、キャラメイクの自由度とクオリティに釣られて始めたって人もそこそこいる。
世界観の説明が一切ないのも合わさって、硬派なFPSガチ勢と自キャラ妄想大好き勢が交差する混沌としたゲーム、それが[DAY WALK]。
そして今、ホーム画面で都市迷彩服を着て静かに佇んでいるのが、わたしの自キャラ、ハウンド・ドッグさん。
見てよこの切れ長で涼しげな眼差し、肩の上で揺れる灰色のショートボブ。ランダムに入れた黒いメッシュが超セクシー。身長はTHE・平均なわたしより頭半分くらい、だけどしゃんと伸びた背筋のお陰で高めに見えるベストな塩梅。たぶんキスとかしやすい身長差だと思う。住んでる次元が違うからできないけど。
「ハウンドさん、しゅき……♡」
孤高の女傭兵さんって設定を脳内で組み上げて、わたしはこのとんでもない美人さんに絶賛ガチ恋中なのだ。
誰に雇われてるとかそんなのは知らん。わたし別に傭兵に詳しいわけじゃないし。なんかカッコ良いからそういうことにしてるだけ。
とにかく猟犬のように俊敏な動きで敵をバンバン始末して、オフの時は女の子を口説いて落として抱きまくる肉食系バリタチお姉さん22歳。わたしの理想をこれでもかと詰め込んだキャラクター。
わたし、レズビアンなので。経験はないけどネコだろうなぁって自覚もあるので。経験はないけど!!!!!
どんな人に抱かれたいかを考えながらキャラ造ったら、こんなお姉さんになっちゃいました。
ちなみにわたしは25歳。でも誰かをお姉さんと呼ぶのに年齢とか関係ないから。わたしがお姉さんだと思えばそれはもうお姉さんだから。
で、
今までに出会った人たち、見てきたどんなアニメや漫画やゲームのキャラクターよりもわたしの好みをドストライクでぶち抜いているハウンドさんに入れ込むのは、当然と言えば当然のこと。自分で造ったんだから、ぶち抜かれないはずがないけど。
「――さてさて。もう一、二戦くらい行っちゃいますかぁ、ハウンドさん」
ハウンドさんと出会ってからかなり独り言が増えた気がするけど、どうせ独り暮らしのワンルーム23時17分に、迷惑がる人なんていない。
マッチング待機ボタンをクリックすれば、ほんの1分も待たないうちに次のゲームへの参加が決定。
ガチャンと一度鳴る大きな金属音で、ゲームが始まる。
……というのに。
「……ぁ、ぁれ……?」
何の脈絡もなく、急激に瞼が重くなる。何故だか、身体の力が抜けていく。寝落ちというにも不自然なその感覚に、けれども抗うことができない。
何かに引っ張られるように薄れていく意識。どうにか瞼を開いて見れば、真っ黒に暗転したPCの画面に、うつらうつらと舟を漕ぐ自分の顔が映っていた。肩にかかる焦げ茶の髪が暗く、まるで闇の中に溶け込むようにぼやけている。
視界が霞んでいる――いや違う、本当に、わたしの身体が溶けている。絵空事のような考えに、なぜか確信を抱きながら。わたし――犬飼 灯美の意識は、そのまま耐え切れずに沈んでいった。
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