ブルーセックス&マネーアンライト

鏑木レイジ

第1話ブレイク・ドラッグ・バー

《獅子と牡牛とに同じ掟を持ち出すのは暴圧だ》

        ウィリアム・ブレイク「天国と地獄の結婚」より


 酒場の影。

 陰りのある美女が一人。

 俺は、とりあえず、カウンターに座って、セックスのことを考えていた。

 ポケットには、くしゃくしゃになった諭吉。

 くたびれた黒いオーバーコートに身を包み、俺は、ウィリアム・ブレイクの詩を読んでいた。

 快感。

 はたから見れば、奇妙に見える。それも快感。

 演ずるように、生きている。

 夢の中で、《獅子と牡牛が結婚する。》

 そんなビジョンが、瞼の裏によぎる。

 詩集を閉じた。

 すると、陰りのある美女が、俺の隣に来た。

 青い瞳、狂おしいまでに漂う、ベルガモッドの香水の香り、汗のまじる、ブレンド感覚のカクテル。女の飲む酒。

「ワンダー・ホワイ」

 と女が言った。

 ウィスキーを飲む。カウンターテーブルにグラスを置く。目を閉じる。

 しばらく無言のまま。

 目を開ける。

 隣には、ワンダフルな、ビューティープリンセス。

 一瞬、俺のなかに、女を裸にするビジョンが灯った。

 すぐに消えた。

 そして、俺と女はたわいのない会話をした。

「あなた、お金持ち?」

「……」

 俺は会話の間に挟まれたその言葉で、興ざめした。

 静かに椅子から立ち上がって、会計を済ませ、BARを出た。

【ブレイク・ドラッグ・バー】

 BARの名前だった。

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