雪山で乙女はどーんって輝かす

からいれたす。

(ΦωΦ)

「俺、この雪山登山が成功したらあいつにプロポーズするんだ」

「バカです、あんたはバカです。へし折りたいそのフラグ」

 フ、フラグじゃねーし。自分を奮い立たせるためのものだし。


 そして、今に至るわけなんだけれども。


「あんなこと言うから、私が足を滑らせてしまったんですよ」

「人のせいにするな。ドジッたお前を助けようとして巻き込まれた俺の立場がおかしくなる」


 状況は芳しくないが、生きるための方法を模索するしかないだろう。


「でも、すいません。ふたりとも怪我はなくってよかったですけど」

「そうだな。ヘルメットがなかったら即死だったけどな」

「また、アホなことを……」


「それでも滑落中にクレバスにも雪崩にも引っかからなかったのは幸いだった。ザイル――アンザイレンの関係上、一心同体ではあったからな」

 気を失っている間に体温を奪われるということもなく、意識を保てていたのも大きい。ただ、この視界不良ではルートに復帰するのが難しいのは確かだ。


「装備確認したか? こっちは圏外のスマホ、腕時計、ゴーグル、アイゼン、ピッケル、ヘルメットといった装備してたものは無事だがバックパックのロストが痛い。とりあえずスマホで救難信号出してからスリープに入れて節電する。そっちは電源落としとけ」

「こちらも同じようなものです。あと視界不良と気温低下がやばいですね」


「とりあえずの問題は装備の類がまったくないことと、日没まであまり時間がないことだな」

「服はあるじゃないですか、普通のTLVEだったら脱げていてもおかしくないですよ」

「あたま大丈夫か?」

「語弊ありませんか? そうですね。せめてスカートさえあれば」


「ん? ええっと、なんだって? 傷がどうしたって」

「スカーじゃないですって。ミニスカ」

「ふむ、やはり脳がやられたか」

「正常です、残念そうにおでこ触らないでくれます?」


 うん、なんでソレが欲しいのかは判然としないのだが、あるんだよなぁ。ただなあ……。しかたない。


「ここだけの話だが、オレの恋人のものなら身につけているが……」

「えっ、おもわぬところで変態と遭難しました」


 すっごい勢いよく離れたが、2メートルも離れたら相手がみえんな、これは。


「あんまり動くなどこが崖かわからんからな。まぁこれはお守りとして持ってきたんだよ」

「先輩の恋人も大概ですね」

「腹巻き代わりにしてる、ウエストがゴムのやつで良かった」

「えっ、きもっ」


 もうちょっと近くにきて話しませんかね?

 吹雪いちゃって、視界悪いんだからさぁ。まったく見えなくなっちゃうから。あと話すのに声張らないといけなくてつらいから。


「とりあえず、何に使うかは知らんが脱ぐよ」

「えー人肌のスカートとか嫌じゃないですか?」

「しらねーよ。そんな特異なシチュエーションは経験したことねーよ」

「その言葉、そっくりそのままお返しします」

 ごもっともで。


「そうだな。無理に渡す必要はないからな」

「いや、ください、人肌でいいから! 直ぐ全裸になってください」

「全裸の意義とは。寒くて死ぬだろ」

「雪山といえば全裸ですっ」

 ドヤ顔の意味が分らん。てか見たいのかよ?


「もしかして、それってあれか? 凍死寸前の低体温症状態になると、外気温との差が小さくなって熱く感じて、わりと薄着で凍死体が発見されることがあるというヤツだろ。だからといって全裸にはならんだろ。あたおかじゃないんだから」


「あ、おわりました?」

「聞き流すにしてももうちょっと優しさを混ぜろよ」

 おっさんは傷つきやすいんだからな! 復讐しちゃる。


「ほらよ」

「そうそう、このぬくもりの残った先輩の靴下をくんかくんか……ってばか!」

「キレがあるねぇ」


「速く脱げ! 剥くぞこの野郎」

「しかたないなぁ」

 脱ぎたてほやほやのスカートを渡してやる。


「へっへっ。これさえアレばこちらのものです」

 いや~、なんか危ない人に追い剥ぎにあった気分だわ。しかもなんかやべースイッチ入ってる感じだし。とりあえず好きにさせとくか。


 観察していると、いそいそとズボンの上からスカートを穿き、スカートの中に手を突っ込んで高らかに声を上げる。


「ぱぱぱぱっぱ~ぱ~、ドラえ……ゴッ」

「スカートからなにを出そうとした!」

「酷いです、殴ることないじゃないですか~万能なのに~」

「TPOを考えろ!」


「あーあーあー。いまのでバカになりました~」

「これ以上はならんから安心しろ」


 暴走力がすごすぎて制御が難しくないかこいつ。でも気分が沈まないのはこのアホのおかげでもあるのか。微妙な存在だ。


「そもそもなんでそこからだせる風なんだよ」

「乙女の秘密空間からはなんでも、そうなんでもでてきます」

「ちょっとめくって見せてよ」

「詮索は変態です」

 ひどい言いがかりだ。そんなん興味湧くにきまってるじゃん。


「あ、ちなみにパンツは見えませんよ? 残念だった~?」

「ズボンの上から履いてるのになにいってんだ、おまえ」

「えっちな人が覗いても、謎の黒塗りがえっちな人に見えるだけですけどねー。えっちな人に」

 なんだかハラタツなぁ。


「いまは緊急なのでそのなぞ技術にツッコミはしないが」

「えっち。スカートの中にツッコムとかセクハラですよ」

「そうじゃねぇよ。だからズボンはいてるだろうがぁ!」

「この状況で脱げっていうんですか!」


「もう、どうしよう。こいつ頭おかしい」

「心外です」

 こいつが一番えっちだろ。


「もう少し、生存率を上げるものとかないのかよ」

「じゃあ、これです! きゃんぴんぐかーぁぁっぁ~は崖には止まれない~」


「もうちょっと動いてたら俺たちも崖の下だったな」

「ですね」

「どうしてここでだしたんだ」

「ノリですかねぇ」


 出した先は崖だったらしく、そのキャンピングカーは傾いたと思ったら目の前から消えていった。なむー。


「ドーンってしちゃいました」

「ドーンって燃えてるな」

「うっすら赤く見える火が、あたたかそうですね」

「そうだな」

 ははは、笑いも乾くってもんだ。あほだな、うっすら涙目になってるじゃねーか。


「……」

「……」

「大変です。七面鳥や温かい暖炉、幸せなクリスマスの団欒が目の前に浮かんできました」

「おいやめろ、それは、おばーさんが来たらアウトのヤツだぞ」

「あ、消えちゃう、もう一台だしますか?」


「まて、それはマッチじゃない! 平らで安全が確保できそうなところでだせばいいだろ」

「あ、そうですね」

「オーバーテクノロジーがアホの子に使われていてもったいなさすぎる件」

 俺がなんとかしなくっちゃ。


「とりあえず、幸い新雪だし雪を二人分掘って中に入って待機ビバークだ。一瞬でも視界が晴れたら設置場所を確保しよう」

「了解です」


 とはいったものの、状況が良くなる見込みはまったくないな。このまま夜を迎えれば体力的にもたないのは間違いない。いつ救助が来るともしれぬし。


「とりあえず、腹減ったな」

「そうですね、どのくらい時間が経ったんですかねぇ?」

「あれからまだ2時間だな」


「おなかすいたよー、なにか食べられるモノないですかねぇ」

「なにその腹ペコキャラ」

「今すぐ食べないとスカートが維持できないです」

「えっ、スカートってなんかボクの知ってるものと違う概念のなにかなの?」

「はらぺこだよー」

「こいつめんどくせぇ」


 メシもそうだが、まず防寒を確保しないとまずいんだけどなぁ。面倒くさいので適当にあしらっとくか。


「オレの足でも食べるか?」

「アホですか、海賊関係者ですか! それなら私の足も食べてください」

「ふとももがいいな」

「あほ、へんたい、えっち」

 えっと、じっとりした目で見ないでいただいきたい。


「……にしてもだ。ウロボロスっぽい絵しか想像できなくなってきたわ」

「やめましょ。先輩の足は臭いですし」

「ひどス」

 定期的にディスりにくるのやめていただけませんかねぇ。ボクの心が凍死しちゃうから。


「この際だから、雪にぶっ刺さる形でだせないか」

「なるほど、やってみましょうか。ドー」


「まて、ドーンってだすなよ? そっとだぞ」

「いやだなぁ~怖い目で見ないでくださいよぅ」

 ドーンって言おうとしたろうが。なぜ学習しない。


 ということで、周囲の状況は不明だが、これで急場はしのげる。というか快適すぎてやばくないか?

「食料詰まってるし、二人ならキャンピングカーの中で半月ぐらい過ごせますよ。雪があるから水には困りませんし」

「そ、そうだな」


「いや~、滑落死と凍死と餓死と変死の危機でしたね」

「そうだな」

「なんか反応薄いですよ」

「あまりにも雑に助かっちゃいそうなんで、逆に複雑というかなんていうか」


「あ、お風呂入ります?」

「緊張感ねぇなぁ~、はいるけどよ」

 とはいえ、こうなってはもうできることも少ない。周囲を警戒しつつ、救助を待つしかないだろうけどな。


「エンジンと排気ガスに気をつけろよ。凍死を免れたのに一酸化炭素中毒とかやだからな」

「……わ、わかってますって」

「もし、でるときはザイルの確認忘れんなよ」

「わ、わかってるもん」

「もん……って」


 なんか快適に暮らしてしまっていたが、状況に変化が現れたのは10日後だった。


「吹雪が長引いたというのもあるけれども、流石に10日は長かったですね」

「まさに雪隠詰せっちんづめだったからな」

「それでも一緒に暮らして楽しかったまでありますよ」

「そう……だな」


「下山したら一緒に御飯でも食べましょうよ」

「なんか気が抜けちゃったよ」

「乾麺とかスープとかレトルトのものじゃなくて作りますから」

「それも悪くないな」

「約束ですよ、というか今日はそのままお邪魔していいですか」

「おお、かまわんぞ」


 そして、やっと帰ってこれたわけだ。すこぶる健康体で。


「君と生きて再会できるとは思わなかったよ」

「誰と話してるんですか」

「えっと、なんだかごちゃごちゃうるさい女がいてごめんな」


「もしも~し、その抱き枕にプリントされてるお方は?」

「まい恋人たん」

「イマジナリー恋人じゃねーですか! 別れてください」

「おい、まて、ひっぱるな。彼女は繊細なんだよ」


 びりっ。


「のー。俺と彼女の仲を、物理的に引き裂くとかひどいだろ」

「生身にしときなさいよ」

「無茶言うなよ。どこにそんな物好きがいるんだよ」

「私。私。とりあえず苦楽を共にしたことで、先輩で妥協できるメンタリティーになってますから」


「悲惨な吊り橋効果もあったもんだな」

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