紅い蒼茫
そうざ
The Crimson Blue
場所――町の古本屋の店外に設置されたセール品の本棚
書籍タイトル――学英社ハイパーコミックス『紅い蒼茫』
第1巻「何てったって記念すべき第1巻だろ。誰もが先ず俺を手に取るんだ。俺が居なきゃ、この作品はありえねぇんだからなっ。何はなくとも第1巻っ」
第2巻「そやけど、第2巻ちゅーのも結構、重要やで。第1巻を読んだ読者が
第4巻「ちょっと待ってよ。全巻通して一番盛り上がるのって第4巻じゃないかしら。何て言うのかな~、先生も油が乗り切ってる時期って感じぃ?」
第5巻「まあ、何だ
第1巻「だけどよ、正直、先生のやる気が最後まで持続してないってのが専らの評価だぜ。惰性で第5巻まで続いちゃったって言うか。モチベーションの点からすりゃぁ、やっぱ第1巻だなっ」
第2巻「ちゃうちゃう、第1巻の頃はまだまだ先生も思考錯誤の段階やねん。つまりやる気が空回りしとるっちゅー訳や。気力、実力が渾然一体となって発揮され始めたのは第2巻以降やでぇ」
第4巻「そうそう、つまり第4巻が一番面白いって事よね。モチベーション的にもストーリー的にもクライマックスを迎える巻なんだからさ~」
第5巻「解かっていませんねぇ。先生が最も思い入れ深く執筆されたのは第5巻なんですよ。長い連載が無事終了するに至り、先生はやる気なんていう簡単な言葉では表現し切れない感慨に達したのです」
第1巻「だからさっきも言ったろーがっ。先生のモチベーションは第5巻ですっかり下がっちまったんだって。満を持して始まった物語がグダグダのラストシーンの
第4巻「台なしって言えば、第1巻、第2巻の頃ってまだ絵が下手なのよねぇ。お蔭で全体のレベルが下がっちゃってるって言うかぁ~、足を引っ張っちゃってるって言うかぁ~」
第2巻「えぇねんっ、初めの絵柄の方が好きっちゅー意見も仰山あんねんぞっ。そやけど流石に第1巻の絵はしょっぼいわ、あれはないわ」
第1巻「うるせーっ、初々しくて良いじゃねーかっ。味があるんだよ、味がっ。俺は長男みたいなもんなんだから、お前らもっと敬えっ」
第5巻「第1巻兄さん、後ろの方のページに食べ
第1巻「なっ、何だよっ、第2巻だって角の折れたページがあるぞっ」
第2巻「第4巻なんか手垢が目立つで」
第4巻「何よ、失礼ねっ。これは一番多く読まれた証拠よっ、本にとって勲章みたいなもんでしょっ」
第1巻「散々回し読みされて売り飛ばされたって訳だなぁ」
第4巻「放っといてよっ、腐っても初版だわっ」
第5巻「僕も初版ですよ」
第2巻「ワシだって初版やっちゅーねん」
第1巻「俺だって初版だっ」
第2巻「おまけに、ワシら新装版と
第4巻「貴重、貴重っ。新装版じゃ改訂されちゃってる差別用語もそのまま使われてるしねっ」
第1巻「なのに二束三文の売り値が付けられてるのは納得行かねーよなぁ」
第5巻「その理由は間違いなく――」
全巻「第3巻がないからっ!」
第4巻「やっぱり全巻揃わなくちゃ駄目よねぇ」
第2巻「第3巻ちゅーたらワシの次に来る巻やけど、今まで実際に第3巻を見掛けたことないねん」
第1巻「あんまり人気がねぇ巻って事か?」
第5巻「逆の考え方もありますよ。人気があるので中々古書店に売却されないとか」
――数週間後――
第3巻「第3巻と申しますっ。皆さん、どうぞよろしくっ」
全巻「…………」
第3巻「……皆さん、どうかしましたか?」
第4巻「何でそんなに黄ばんでんのよっ!」
第5巻「それに第二版ですよ!」
第2巻「しかも新装版てっ!」
第1巻「お前はストーリーが
紅い蒼茫 そうざ @so-za
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