第3話 愛知の旅2
小柄な少女に椅子に座らせ、それに対し机を挟んで対面する形で部長と大空が並んで椅子に座った。
自信ありげな部長は、胸に手を当てて口を開く。
「私がこの旅研究部の部長である花咲桜(はなさきさくら)。十七歳。趣味は旅。恋人も旅。最近の目標は旅の動画で旅費を得ること……それから、スリーサイズは88―61―90。」
「えっえっと……私は蒼井涼花(あおいすずか)。十六歳。趣味はキャンプ。恋人は居ません。最近の目標はテントを五分以内に建てること……ス、スリーサイズはちょっと前のモノですが92……」
「あのスリーサイズは別に必要ないと思います」
小柄な少女の自己紹介を途中で遮るように大空が口を開いた。すると、ニヤニヤと笑みを浮かべながら部長……桜が口を開いた。
「えー聞きたかったなぁ」
「バカなことを、セクハラで訴えられますよ?」
「うわーその時は大空君に指示されたって涙ながらに訴えてみよう」
「悪質! それ悪質ですね」
「冗談はさておき、君も自己紹介しなさいよ」
「はいはい。俺は大空侑李(おおぞらゆうり)。十六歳。趣味は……なんだろう? 一応美味しいモノを食べること」
「アレ? 趣味の中に旅が入ってないの?」
「……次点で旅と湯めぐりでしょうか?」
「ふーん、料理は入ってないんだ?」
「料理は得意ですが、俺の中ではあくまで美味しいモノを食べるためのプロセスの一つに過ぎないですね」
侑李と桜が話していると、涼花が侑李の顔を凝視し始める。
「……」
「ん? どうしたの蒼井ちゃん? 大空君の顔が普通過ぎて気にくわなかった?」
「ひどいことを行ってくれますね」
「本当のことだから仕方ないでしょう。けど、性格だけは申し分なくいい奴だから……あまり邪険にしてあげないでね」
「性格だけはって他にあるでしょう? いいところ」
「……?」
「黙んないでくださいよ。あるでしょう? ないんですか? まったく?」
「あと強いて言うなら、チキン過ぎて一緒に居ても身の心配は一切ないところかしら?」
「それってまさか俺のいいところですか?」
「そうね。一緒に旅をする上で最高だわ」
「そうですか。ええ、俺はチキンですよ」
「大空君のことはどうでもいいんだけど。蒼井ちゃん、何かあった?」
桜が話を涼花に振った。涼花は少し口篭もりながら口を開く。
「えっと大空君って……普通科一年三組ですか?」
「ん? そうだけど、どうしました?」
「わ、私も普通科一年三組です」
桜はドン引きしたような表情を浮かべる。
「……うあわ。同じクラスの女の子に気付かないなんて」
「いや、え? 同じクラスでした?」
侑李は戸惑いの表情を浮かべ……首を傾げた。
「こんな可愛くておっぱいの大きい可愛い女の子の見覚えがないなんて……女の子に興味ないの? あ、BLなの? だから、今まで私に手を出しても来なかったの? 性の不一致と言う奴ね? ごめんなさい察してあげられなくて……それで相手は誰なの? 渋谷君? 鈴木君?」
「いや、部長。そういうのでは一切ありませんから」
「そうなの? けど蒼井ちゃんのことを知らなかったじゃない」
「それは……そうですけど」
侑李と桜の会話が途切れたところで、桜が口を開く。
「あ、あの……私、昨日転校してきたばかりなので……それで」
「あ……そうそう。そういえば、なんか騒ぎになっていました。はい」
侑李は思い出したようにポンと手を叩いた。
「あのね。転校生なら初めに紹介されているでしょう? 忘れるの早いと思うんだけど」
「た、たぶん、その時は寝ていましたねぇ。夜遅くまで編集していたら眠たくて……」
「そう。動画編集なら仕方ないわね」
侑李の答えを耳にした桜はうんうんと頷いた。
「あの……動画編集ってなんの話なんですか?」
涼花の問いかけに桜は先ほどまで見ていたノートパソコンの画面を見せて答える。
「あぁ。私と大空君はこの部で旅に出かけている時の映像を動画編集してBTubeと言う動画配信サイトにアップしているのよ」
「へぇ、そうなんですか? その動画を見ればこの部がどんなことをしているか分かりますね」
「あぁ確かにそうね。これって新入部員を捕まえる時の資料としていいのかしら?」
桜は顎に手を当てて呟いた。その呟きに対して侑李が渋い表情を浮かべて首を横に振る。
「校則には何も書かれていませんが、一応部活中に撮影した動画を編集して投稿。利益を出していると学校側にバレると面倒なことになるかも知れません。最悪、動画の利益を徴収も。よって他言は無用です」
「まぁ機材はすべて家にあった物を使っているから問題にならないとは思うけど……そうね。蒼井ちゃん……今のはなし。趣味で動画撮影をしているだけよ」
「はぁ、分かりました。その趣味でやっているチャンネル名を教えてもらえますか?」
「ええ、水曜の旅人ってチャンネルよ」
「水曜の旅人ですね。少し見てみます」
「ところで、なんでウチの部に来たの? やっぱり幽霊部員希望?」
「え? 幽霊部員? 何のことですか?」
「じゃあ、何か目的があって来たの? 貴女の趣味はキャンプと言っていたけど、本格的なキャンプがしたいなら他にあったと思うけど……登山部とかの方ががっつりできるわよ?」
桜の問いかけに涼花は視線を左右に揺らす。どこか言いづらそうに口を開く。
「……登山部には昨日行ったのですが。なんと言いますか、結構大変そうなキャンプをやっているようで……私では耐えられないかなぁーと。それから、男の人が多くて……あの」
「そっか。そりゃ登山を目的にキャンプってなると一般人が楽しむ領域を超えているわよねぇ。人畜無害が証明されている大空君ならともかく男達とキャンプは怖いわね」
「ええ。それで……」
涼花は小さく頷いた。横で話を聞いている侑李が「毎回、ディスるのやめて欲しいです」と呟く。
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