ACT.12 自動車部の運命

 あらすじ

 部長と生徒会長の戦いが始まった。

 虎美はフェイントモーションといったドリフト技を駆使して菊池から逃げていく。

 しかし、相手は序盤のバトルでは走りの切れ味を押さえていた。



 私には、虎美の練習には疑問が残った。

 なぜドリフトだけをするのか?



「どうして虎美の練習はドリフトだけなんですか? ドリフトを極めて速くなれないはず……」


 

 タイムを削るにはグリップ走行が有利だ。

 ドリフトはギャラリーを魅せるただのパフォーマンスにすぎない。

 それだから、私の走りはグリップ主体としている。

 けど、かなさんはそれに答えた。



「得意分野を伸ばしたかったからだ。バトルで部長に決まった彼女はあんたたち3人の中では一番速い。得意な部分を伸ばしてさらに走りを磨いてほしかったからだ」



「それが理由だったんですか」



 けど、得意分野をさらに伸ばしただけで勝てるのだろうか……。

 相手は遅くないかもしれない。

 この学校の生徒会長で、実力は学校で一番かもしれない。

 走り屋としてのオーラがものすごかった。

 かなりのプレッシャーを感じた。



 虎美……私を倒したあなたが負けたら許さないんだから!



 2台はロングストレートを突っ走る。

 緩い右コーナーを抜けると、またロングストレート。

 


 ケンメリが接近してきて、差はクルマ1台分になっていく。



 せっかく連続コーナーで縮めた距離が水の泡に消えていく。

 コーナーで離しても、直線では縮められる!



 こっから下り坂になり、軽いケンメリの車速が上がっていく。

 かーなーりの苦戦が予想される。

 自動車部はうちが守る!



 2台はシケインへ突入する。

 どちらもグリップ走行で通過した。



 直線からの連続S字セクションに突入する。

 それらを抜けながら、生徒会長は次のことを考えてくる。



「次のヘアピンで仕掛けっばい。あれば発動させっと」



 いよいよ来るか!

 前にいるうちには相手の気持ちが読み取れなかった。



 S字からの右ヘアピン。

 うちはGTOにフェイントモーションをさせて、進入させていく。

 生徒会長のケンメリの方は、刀のように鋭いオーラを発生させていく!



「いくばい……タイの刃流<袈裟一刀両断>!」



 アウト側からうちのGTOを切り裂くようにドリフトしていき、立ち上がりで前に出る!



「ちっ……リードば取られてもた」



 抜かれたショックで舌打ちをした。

 生徒会長を前に出したら、負けるかもしれない

 うちにはそう感じた。



 その後、直線でケンメリに離され、差は0.5台分になった。

 左中速コーナーでのドリフトで縮めるも、その後の右高速コーナーを交えた直線でまた離され、クルマ1台分の差になった。

 


「技ば使うか……ばってん」


 

 覚醒技にはこんなデメリットがある。

 それは体力を激しく消耗することだ。

 いくらうちに体力があるとはいえ、使いすぎると後で身体が故障しやすい身体になる。

 しかもうちは成長途中の10代だ。

 この年齢で使いすぎると、故障を起こす。

 


 これはかなさんから教えてもらった。

 彼女は「覚醒技をたくさん使用するな」と言ってきた際、「バトルが不利になる」と反発したが、説明されたときはやむを得ず、従うことにした。



 そういえば、相手は技をこのバトルで1回しか使用していない。

 体力を温存しているのだろうか?


 

 右中速コーナーを通り、緩い左からのSクランクを通り抜ける。

 差は広がっていく。

 1.3台分の差になった。



「ちっ……!」



 うちは焦り出す。

 このまま離されるなら、どうすればいい?



「どぎゃんすれば逆転できると!? 追い付けると?」



 逆転できる方法が思い付かない。

 絶体絶命だ……。

 あ、今思い付いた!



「かなさんとやったあれば使えば……」


 

 全てのコーナーをドリフトで抜ける練習をしたのだった。

 その走りはうちの得意技だ。

 自分を信じる走りをしよう。



「うちはうちば信じる!」



 それで追いかけてみるか。



 軽いS字からの左ヘアピンに入る。



 フェイントモーションからのサイドブレーキドリフト、次の右ヘアピンは体勢を変えたドリフトで突っ込んでいき、ケンメリに接近していく。



 この後は直線で、距離は離されるものの、2連続シケインでフェイントモーションを使ったドリフトを披露することで差は0.5台分差に追い詰めた。



「なるほど、ドリフトすっこつで差ば縮めてきたと。ばってん、前には出さんつもりや」


 

 右に緩く曲がった高速セクションで差は広がるも、左直角コーナーのドリフトでケンメリに接近し、リアフェンダーの左側に食い込む。

 


「問題は相手のアテーサET-Sとスーパーチャージャーやな……」



 それらをどうにかしなければ……。

 この2つの対策をすれば勝てるかもしれない。

 いよいよあれを使うか……。l



 大戸ノ口の右コーナー。

 4人組と4台のクルマがあった。



 彼らの耳に2台のエンジン音が聞こえてくる。



「来たぞ!」



 リーダーである愛羅が迫ってくる2台の光に注目する。



「ケンメリが先ッス!」



「どう攻めるでありんす!?」



 突如、ラインをクロスするかにようにGTOがアウト側からイン側へ移る!

 そのクルマは氷のように冷たい水色のオーラを纏った!



「氷属性の覚醒技だ!」



 RC Fの男が注目する。

 コーナーの立ち上がりでケンメリのフロントフェンダーに軽く突っ込む!



「肥後虎ノ矛流<クリスタル・ブレイク>!」



 ぶつけられたケンメリは挙動がふらつき、サイド・バイ・サイドで2台は並んだ。



「やるのう、追い詰められた気分たい」



 いつも冷静な生徒会長の表情に焦りが見え始めた。



「スーパーチャージャーの音がせん!? それにトラクションが落ちた感じがすっばい!?」



 なんと、<クリスタル・ブレイク>の効果でスーパーチャージャーとアテーサET-Sが停止したようだ!

 この技は覚醒技の力で相手のクルマのパーツを冷凍させ、機能を停止させる効果を持っているのだ。

 2つを停止させられたケンメリは戦闘力が落ちてしまう!



 そして、左中速コーナーでGTOを前に出してしまう!



「先をとられてもた……これぐらい追い詰められたんははじめてばい!」



 ようやく逆転できた。

 あの生徒会長の前へ出た!

 ここに来るまで何度骨を折ったのだろうか……。

 後はこの体勢を維持すれば……。



「この勝負、勝てるばい!」



 しかし、凍っていたスーパーチャージャーとアテーサET-Sが動き出す。

 効果は一時的だった。

 失った力が戻ってきた。



「あん音は……スーパーチャージャー!? 動き出したと!?」



「私は負けんけん。GTOば刃で切り裂く!」



 再び逆転してくる可能性があるかもしれない。

 


 2連続ヘアピンを通過してドリフトで引き離し、S字からの左コーナーと右コーナーをフェイントモーションで抜けていく。

 差は広がるも、直線が来たらどうしよう。


 

 幸い、曲線は続く。

 連続左コーナーと3連続S字区間、左高速ヘアピンを抜けていく。



「コーナーが続くならここで勝てるばい!」



 ここでうちの有利が終わった。

 S字高速セクションに入る。

 ケンメリはスリップストリーム(クルマの後ろに入ることで空気抵抗を減らして急加速する)を使っていき、GTOを追い抜いていく。



「直線で追い抜くとは不本意ばってん、残り少ないけん前へ行かせてもらう」



 最後の最後で逆転された。

 自動車部が同好会になる……。



 衝撃的な抜かれ方をした。

 大柄なGTOのボディを使ってブロックすれば良かった。



 後攻のまま右コーナーを抜けると、うちの負けは確定した。

 バトルは1対2、生徒会の勝利に終わった。

 自動車部の活動は認められなかった



 結果:菊池鯛乃の勝利。



 うちら2台はスタート時点に戻ってくる。

 ドアの前に飯田ちゃんが険しい顔で立っている。

 GTOから降りると、お腹をめがけて涙目でグーパンしてきた。



「どうして負けたのよ! これで自動車部の活動を認められないじゃあない!」



「ごめん飯田ちゃん……うち、負けたもた。ぐは……」



「なに笑っているのよ! 自動車部が死んだのよ! 同好会になるのよ、規模が縮小されるのよ!」

 


 飯田ちゃんは元空手部だから、パンチは痛かった。

 もうちょっと手加減してよ。

 後ろから生徒会長がやってきた。



「いや、死んでなか」



「え?」



 衝撃の一言を発してきた。



「部長の走りは中々やった。私は追い詰められたばい。やけん、部ば認める」



「そうなんですか!? だんだんです!」



「良かったじゃあない、虎美! 部が同好会にならなくて済むわ!」



「わしら安泰ばい……うわ!」



「ひさちゃん、相変わらず運が悪かね」



「虎美……!」


 

 こうして自動車部は部として特別に存続することになった。

 ひさちゃんは喜びのあまり転んでしまった。



 部は認められたが、勝てば良かったと考えている。

 もっと腕を上げないと……!

 複雑な気分だ。

 どうしたらいいやら。



「加藤」



「なんですか!?」



「プレゼントを用意したる。明後日学校が終わったらな」



 その正体は例の時間になってからだ。



 三戸ノ口コーナー。

 4人がさっきのバトルについて語っていた。



「いいものが見れた。あのGTOを追い抜きを見られるとはな。バトルをするのが楽しみになった」



「勝負したくなったッスね」



「久しぶりに闘争心が沸いたでありんす」



「俺ら麻生南自動車部の実力を見せつけないとな」



 4人のオーラがわき出る。

 特に愛羅の光るオーラは4人の中では強力だった。



「来いよ麻生北の連中! 特にGTO乗りは俺がぶっ潰す。そのクルマを見ると叩き潰したくなるんだ!」



 愛羅がGTOに対するそんな感情を持つとは一体!?

 


 4月27日の月曜日、午後4時40分。

 学校の授業を終えたうちは生徒会長に呼ばれた。

 


「こん建物が自動車部の部室ばい。ここはクルマ屋だったばい。これからはこれば使ってもらう」



「むしゃん豪華な部室たい」



 ここがうちらの根城か。

 部活動するのが楽しみになった。

 これからどんなことをするのだろうか?


 

 生徒会長の脳裏にはこんなことを考えていた



「加藤にある仕事をやってもらわんとな……」



 その内容とは一体!?


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