第7話・まずは水分補給


「えっ!?」


「何ここ……!?」


「岩の中にこんなところがあったの!?」


ホテル・ロビーを進む中―――

子供たちが口々に驚きと感想を漏らす。


「管理者権限で―――

 自販機オールフリー!!


 団体部屋アンロック!!

 カウンターアンロック!!


 管理者部屋も開けてくれ!!」


そんな中で俺は、熱を出した子供を

運びながら―――

矢継ぎ早に『ダンジョン』とやらに対して、

指示を出す。


入り口は元通りの岩にしたから、侵入者は

無いと思うが……

念のため、団体部屋にみんなを誘導する。


「……よし!」


1Fの最奥に団体部屋はあった。

構造は、自分が日本にいた時のビジネスホテルを

再現しているようだ。


一つのベッドの上に病人の子供を寝かせ、


「君と、あと何人かこの子の側に残って。


 他のみんなは俺についてきてくれ」


一番の年長者であろう女の子と、小さな子供たちを

熱を出して寝込んでいる子の側に置いて―――

元気そうな五名ほどの子供たちを連れて再び

部屋を出る。


そしてそのまま自販機エリアへ。

ミネラルウォーター系の飲料をボタンを押して

出していく。


次に栄養ドリンク。

小さな子供に飲ませるようなものでない事は

わかっているが、今は緊急事態だ。

生存率UPを優先させる。


「そこで待ってて!」


俺はロビーカウンターまでダッシュで行くと、

適当な手提げ袋を見繕みつくろい、それを持って走って

自販機コーナーまで戻り―――

各々が持てるだけ飲料を持って団体室へ。


「これ飲んで。

 飲みにくかったら、水と交互に飲んでみて」


と、栄養ドリンクとミネラルウォーターを

それぞれに渡す。


俺はまず、熱のある子供に水を飲ませようと

したが……

子供たちは不思議そうな顔をして、ただ

ビンとペットボトルを眺めていた。


あ、開け方がわからないのね。

俺は子供たちの前にまず水のペットボトルを

差し出すと、大げさにフタを回して開けて見せた。


年長者の女の子はそれでわかったようで、

他の子のフタを開け始め……

俺は改めてベッドで寝ている男の子の頭を

持ち上げ、意識を取り戻させる。


「……ぅ……ん……」


「気付いた?

 とにかく水を飲んで。

 もう大丈夫だから。

 お休み出来るから、ね?」


落ち着かせるようにして、彼に話しかける。

すると弱々しい手でペットボトルを支え、


「……!」


一口飲んだと思ったら、勢いよく飲み始めた。


良かった。思ったより体力は残っていたようだ。

そこで次に、栄養ドリンクのビンを取り出す。


「吐いてもいいから、ゆっくり飲んで。

 無理しなくていいから……

 ちょっとずつ、出来る範囲で」


少し口に含む。すると……


「……ッ、ケホッ、コホッ」


「お、落ち着いて」


未知の味に驚いたのかせき込む。

いったんビンから口を離し、大きく『ハー……』と

息を吐くと、


「……おいしい」


どうやら舌に合ったようでホッとする。

さすが味と飲みやすさ・食べやすさの追求には

手を抜かない民族。

自分が日本人であった事を心から感謝する。


「良かった。全部飲める?

 ゆっくりでいいからね」


やや頭を斜めに起こして、一口ずつ飲ませる。

今度はむせる事なく、時間をかけて少しずつ

飲んでいき……


全て飲んだ後は、残った水を飲ませ―――


「よく飲めたね。大丈夫?」


コクリとうなずくと両目を閉じ、そのまま

静かに寝息を立て始めた。


同時に俺は全身の力が抜けたようになり、

そこで周囲に視線を移すと……

すでに空になったペットボトルとビンを持つ

子供たちの姿があった。


病人であるこの子が飲めたんだから、そりゃ

問題は無いよな。

そして改めて立ち上がろうとすると同時に、


『キュ~~……』


誰からともなく、あちこちから腹の音が。


まあ水と栄養ドリンクはあくまで緊急措置。

これで腹が満たせるとは思っていない。


「パンでも食べよっか。

 でもその前に―――」


人間でも動物でも……

食べて飲めば当然出さなければならない。


俺はみんなに手招きすると、団体部屋の中の

トイレへ誘導し、使い方を教える事にした。



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