【完結】ゲーセンダンジョン繁盛記~魔王に異世界へ誘われ王国に横取りされ、そこで捨てられた俺は地下帝国を建設する~

アンミン

第1話・ゲーセンダンジョン


「は~あ……

 また金欠になっちまった。


 冒険者稼業は厳しいぜ、ったく」


地球ではない異世界・クレイオス王国の

とある街で―――

皮鎧を着込んだ、苦労していそうな二十代の男は、

とぼとぼと街中を歩いていた。


「よっ、どうしたフッチ?

 シケたツラしてよ」


そこへ、ブロンドの短髪をした、いかにもな

戦士タイプの男が声をかけてきて、


「実際シケてんだよ。

 この前入ったダンジョンもロクなモンはねーし、

 危うくケガするところだったぜ。


 なぁ、ちょっと金貸してくれねーか?」


悪友と思われる同年代の男に―――

彼は金の無心をするが、


「いいぜ」


「……へっ?


 オイ、クラーク。

 聞いておいて何だが、本当にいいのか?」


良い意味で期待外れだったのか、フッチは

思わず聞き返す。


「ああ。

 この前、稼げるダンジョンを見つけてな。


 ちょうど今からそこへ行くつもりだったんだ。

 付き合え」


そう言われて彼は、すっかり暗くなった

夜空を見上げる。


「い、いや……

 今からじゃ門も締まっているし、無理だろ。


 それに稼げるって事はそれなりに危ないって

 事じゃねぇか」


そこでクラークはニヤリと笑い、


「安心しろ。

 そこは命の危険なんてぇダンジョンだ。


 少し金はかかるが、一攫千金いっかくせんきんも夢じゃないぜ」


「……はぁ?」


不審がる悪友を無理やり引きずるようにして、

クラークはある路地裏へと入っていった。




「いらっしゃいませー」


「おっす。

 2人いいかな?」


彼らが来たのは、外見は普通の二階建ての

宿屋兼食堂。

さびれた路地裏にある店内にしては小ぎれいで、

対応する従業員はこの店の身内か子供なのか

年齢は低めだが、身なりはしっかりしている。


「いや、何だよこの店は。

 それにオイラ、金なんてねぇぞ」


「今回は俺がおごってやるから気にすんな。

 あ、『めだるコーナー』で遊びたいんだけど、

 いいかな?」


まだ十才くらいに見える少女の従業員は、

カウンターから身を乗り出すと、


「すぐ向かわれますか?」


「あー、そうだな。

 ちっと腹ごしらえしてから行くか。


 『はんばーがー』セット2つ、よろしく」


そう言うと、クラークは硬貨を手渡す。


「かしこまりました。

 『ハンバーガー』セット2つお願いしまーす!」


奥が厨房になっているのだろう。

彼女は大きな声で後ろに向かって注文する。


そして二人は近くの席に座り、待つ事数分。


「お、来た来た♪」


「早くね?」


慣れた感じのクラークとは対照的に、

フッチは驚く。


「お待たせいたしました」


ウェイターの女性の定型文の挨拶と共に、

彼らの前に料理が置かれ―――


「な、何だよこりゃ」


「いいから食ってみろって」


言うや否や、クラークは手づかみでそれに

かぶりつく。


丸い形のパンに、何かを挟んでいるようだが……

そして皿には芋を揚げたような物も添えられ、

さらに茶色のカタマリもいくつか見える。


何より、食欲をそそる暴力的な匂い―――

フッチは耐えられず、目の前の男と同じように

かぶりついた。


「……!!」


何だこのパンは。

柔らかい。柔らか過ぎる。


そんなパンに挟まれていたのは肉だ。

しかもこの肉もとても柔らかい。

何より味付け―――

食べた事の無い味に、舌と鼻が支配される。


肉の他に野菜も挟まれており、それがいい

アクセントとなって、口の中に充満する。


「……!」


付け合わせの芋にも手を出す。

外はカリカリで、中はホクホク。

味付けは塩のみと思われるが、そのシンプルさが

食感を引き立てる。


さらに、添えられた茶色のカタマリは、

噛みちぎると中から肉汁がブワッとあふれ……


一休みにと水を喉に流し込むと、これがまた

一気に脳を覚醒させる。


コップこそ普通の木製だが、底まで見える

透明度は、不純物と雑味が無い事を表している。


それでいて、果物か何かの酸っぱさがあり、

清涼感で舌が洗い流され、次にまた何かを口に

入れたくなるのだ。


気が付くとオイラは、まるで戦いを終えた

後のように、空になった皿を見下ろしていた。


「な、なあ……クラーク。

 オイラよぉ、ここまでしてもらえるとは思って

 なかったんだが。


 もしかして、ヤバい仕事でも紹介するつもり

 なのか?」


あまりに次元の違う料理をおごられ、

及び腰になるフッチに、


「あー、『はんばーがー』セットは1つ

 5エンダールだぞ?」


「……は?」


オイラは耳を疑った。


この街は物価はさほど高くはないが、

田舎でもない。

パン一個で二エンダールはする。

子供はともかく、冒険者や肉体労働であれば、

一食でニ・三個は食べる量だ。


そういえば、彼は硬貨を店員に渡していたが、

銅貨一枚で一エンダール、銀貨一枚で十エンダール

になる。

つまり、銀貨一枚だけ渡していたのか。


「どういう店だよここは?

 周辺の飲食店とか、商売あがったりじゃ

 ねぇのか?


 この味とボリュームなら、20エンダール……

 いや30エンダール取ってもおかしくはないぜ」


「それなんだが、客層は限られていてな。

 俺たちみてぇな冒険者か、ダンジョンに入る

 人間限定なんだよ」


言われてみると、店内にいる客は荒くれ者と

いうか―――

それっぽい人間で占められている。


「一般人も入れるらしいが、そっちは『割高』に

 なるって話だ。


 さてと、それじゃそろそろ行くか」


クラークは立ち上がると、カウンターにいた

店員の少女に手を振る。


「それではごゆっくりどうぞ」


そう言って彼女は―――

店内の奥の廊下へ手の平を向けた。




「は……!?

 何だよここは!?」


奇妙な移動式の部屋に乗せられたかと思うと、

到着した先の空間の強烈な光と音の歓迎に、

フッチは目を丸くする。


床はなめらかで、石材で出来ているであろう壁は

どこまでも直線を保つ。

いったいどれだけの最高峰の技術が使われて

いるのか―――


そして各所には円形、長方形様々な形の魔導具が

置かれ、自分と同じ冒険者稼業であろう人間が、

それを操作していた。


「ここはあの店の地下だよ。


 で、このフロアは『めだるフロア』って

 ヤツさ。

 ダンジョンの地下一階にあたる。


 他の階や『本店』にも少し歩けば行けるが、

 まあ初心者はここで稼ぐのが無難だな」


クラークの説明に、彼はどんな顔をしていいのか

わからずにいると、


「おっ、アンタらも来てたのかい?」


「ミントじゃねえか。

 お前がここにいるのは珍しいな」


赤毛の短髪の女性冒険者が片手を振って挨拶し、

クラークも片手を挙げる。


「最近は『本店』の『しゅーてぃんぐフロア』に

 ハマっていたんじゃねぇのか?」


「いやーありゃ今ちょっと離れている。

 さすがにクリア出来るのが少なくなってきて。


 そんでココの地下五階の『対戦格闘フロア』

 行ってみたんだけどさ……

 何か『盛り上がったで賞』ってのを

 もらったんだ!


 見ろよ、コレがその賞品さ!

 また貴族様に高く売れるぜぇ♪」


そう言って彼女が見せて来たのは―――

陶器ともガラスとも異なる、見た事の無い

素材の容器に入った何かで……

他、おかしな形状の道具もある。


「ここでしか手に入らない化粧品に、

 肌や髪の洗浄液―――

 調味料、酒。

 それに小型の魔導具がいくつか。


 これ売っぱらったらアタシ、しばらく『本店』で

 暮らすんだ……♪」


うっとりとした顔で語るミントを見て、

そういやここ、外観は宿屋っぽかったな、と

思い出す。


「なるほど。

 それでお前もこの階で少し遊んでいたって

 わけか」


「ま、ほどほどにしておくけどね。

 田舎のチビどもにも仕送りしなきゃいけねーし。


 それじゃまた」


そこでミントと別れ、その会話を聞いていた俺は、


「なあ、何を話していたんだ?」


意味不明過ぎるやり取りに、オイラは

頭を抱えていたが、


「とにかくやってみな。

 『めだる』借りてくるからよ」


そう言って移動し、彼はこれまた奇妙な箱型の

魔導具から―――

硬貨らしき物を取り出してきた。


そしてオイラはダンジョンという名の、まるで

高級宿のようなフロアの中、いろいろなタイプの

魔導具を試してみたのだが……


その一つで『じゃっくぽっと』というのが

当たり―――

それでオイラとクラークの人生が一変するとは、

思いもよらなかった。


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