願いごとをヒトツ

蝶 季那琥

キミのことを

 ここは、大切なモノをなくす時に願いごとをヒトツ叶えてくれる世界。


 生死に関してのみ叶えられないが、望む願いは大概叶えられる。


 その願いごとを叶えるのは、神の代理を担っている・願い叶える課の天使族だ。


 生き死にに、人間族は関われない。その為神の代理として天使が行っている。


「はじめまして。ボクは願い叶える課の者です」


 喪服を着た男に首から提げた身分証を見せれば、悲しげに笑う。


「遅いから来ないのかと思っていたよ」


 彼は最愛たいせつな人を黄泉の国に送りだし、静かに空を見上げていた。


「貴方の願いごとをヒトツ聞かせてください」


 形式に則った言葉には、なんの感情も込められていない。


「⋯知っていても、言わせるのはをさせる為かな?」


 願いごとを執行する時に迷いの出る人間は少なくはない。が、彼の場合はとは違う。


「彼女の所に行ったのはキミだろう?」


「守秘義務があるので答えかねます」


 淡々と返される言葉に、彼は目を閉じ懺悔するかのように呟く。


「⋯彼女には申し訳ないとんだ。思ったからと言って許される訳もないのに、都合のいい解釈をしたくなる」


天使族ボクらは、ので、懺悔はなしを聞きはしても貴方の言えません」


 天使族は神が人間族の感情に振り回されないように、感情を持たないように作り出したイキモノだ。


「だからこそ、キミ達は出来るんだろう?」


 彼はそう問いかけながら、時間をかけて深呼吸する。


「貴方の願いごとをヒトツ聞かせてください」


 感情の乗らない機械的な言葉。


「愛する彼女との想い出を、愛した事実を、消してほしい」


 震える声で言いながら彼は涙を零す。


なんて出来る訳ない。彼女が居ない世界で、生きなければならない。ならばいっそ⋯方がいい」


 最愛の人と過ごした時間おもいでより、その記憶を消すことを望む。


「貴方の願いごとを叶えましょう」


 指をパチン!と鳴らせば、彼の想い出は無くなり存在しない記憶に塗り替えられる。


「人間の感情ほど、厄介で面倒なものは無い⋯」


 そう小さくごちれば、は一瞬目を見開いて嬉しそうに笑い、涙が頬を伝う。


 と同時に天使族のパチン!と指を鳴らす音が響いた。

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