銃声



「うーん、やっぱりリオはチェリーブラウンのが良いよね」

「アタシには違いが分かんねえな、髪の色なんて」


「そんなんじゃモデルとしてダメだぞ☆」



2−A、いつも通りの教室。

柊と夢咲もまた、いつも通り話していた。



「……今日遅いな、アイツ」



その、“いつもいるはず”の空席を眺めながら。



「とーまとは大丈夫だと思うかね、ストロベリー君」

「……アタシが東町の母親なら心配する」

「でも一日限定インスタント黒染するんじゃないの?」

「アイツはそんなのしねーよ、多分」

「わっなにその“まぁアタシは知ってるけどな……”みたいなの☆」

「お、お、お前!」



柊が夢咲をからかって笑う。



「マジでこねぇな」

「図書室? “あの子”のとこにもいないしー」



そういって柊は右斜め前を見る彼女。

そこには同じ部活のクラスメイトと話す、初音の姿のみ。



「なんかあったな、あれ☆」



ちらちらとこちら――もっと言えば“彼の席”を見てくる彼女に、柊は気付かないわけがない。

その浮かない表情が、起こったであろう出来事が良くないことだとは分かるのだ。


……ちなみに、最近じゃ『初音桃』の人気は男子の中でも高まってきている事も知っていた。



(可愛くなったもんね、彼女)



「ん?」

「いーや☆ でも、とーまと君そろそろこないとホントに」


――キーンコーン――


「あっ予鈴なった」

「おいおいアイツまた遅刻か?」


「……」


さっき、柊が斜め前を見た時。

居なかったのだ。初音の前の席の人物が――



「――ま、間に合った」

「ふふっ。そんな急がなくても平気なのに」


「はぁ、はぁ。なんでそんな如月さんは余裕なの?」

「いつもこの時間だからよ」

「……なるほど。慣れてるわけだ」



そして、現れる二人。

ドタドタと擬音が聞こえてきそうな登場だった。



「い、いっち……おはよう」

「あ。おはよう初音さん」

「大丈夫なんだよね……?」

「えっあっうん、平気だよ。家族とは軽く話しただけ……それじゃ」



何事もなかったかのように、初音へ返した後一は彼の席へ走る。



「……ふーん」



柊の目には、明らかにいつもと違う制服が目に入った。

普段は、きっちり着ているそれ。

シャツもズボンから出ているし、襟はよれている。



――ドガッ!!



そして今、彼の足が生徒の机に強打。



「痛っっ!! すいませんすいませんすいません」


「……」

「……思いっきり足当てたな」



黙ったまま、柊は笑う。

もはやアレは、いじって欲しいと強請られているようなものだ。



「ほんと、わっかりやすい……」


「なんか変かアイツ?」

「苺はそのままで良いよ☆ 面白いし昼まで泳がすかぁ……」







「やっぱり柊さんはチェリーブラウンが似合うよね。前のブルーブラックも良いけ」

「――はぐらかすな☆ 吐け☆」

「ヒエッ」



昼休み。

俺は、唐突(?)に昼休みで問い詰められた。


これまでは普通だったのに。

いつも通り、柊さんの仕事先の話で盛り上がってたのに。

カメラ持った瞬間人が変わるカメラマンさんの過去話の続きを聴けると思っていたのに(気になる)。


ちなみに食堂だ。

この目の前の超デカポテトスティックが目の前で消費されていく。



「これカレーに付けたらおいしそう(内なるインド人が囁く……)」

「おい」

「ヒ」


「……で、家族にその姿でご対面しちゃったと☆」

「はい……」


「それで、夜中に家から抜け出して女の家に逃げ込んだと☆」

「お、女って言い方は(童貞)」


「リオが親だったらもうドン引き☆」

「(泣きそう)」

「おい莉緒……」

「夢咲さん(感動)」

「アタシもドン引きだぞ」

「 」



流石二人だ。マジで容赦がない。

だが助かる、客観的意見というのは大事だからね。


でも柊さんが母親か……そうだよな、いつか結婚とかしたらね。

子供が羨ましい(激キモ)。



「はじめー、ごはんだよー☆」

「ワッ(幼児退行)」

「食いもんで遊ぶなお前ら」



ポテトスティックが、まるで催眠の様に前で揺れる。



「はじめくんのおとうさんはどんなひとですかー☆」

「……仕事でアメリカにいるすごい人で……でも母さんには頭が上がりません……あと病的な資格マニア……あっあっ」

「おいマジで掛かってねぇかこれ」


「へー☆ おかあさんはー?」

「静かでやさしい……でも意外と厳しいところも……あと茶髪……身長低め……あと翻訳の仕事を――」


「紹介出来て偉いねー☆」

「 バブゥ(幼児)」



ああ、なんかフワフワして気持ちよくなってきた。

魔王おそるべし。

今なら何でも、話してしまう――



「じゃあ……なんでその親に付いていかなかったのー?」



その、優しい声が思い出させる。

あの時のこと。



《――「本気で言ってるの、一兄」――》


《――「ずっと、私達が居なきゃ駄目だったのに」――》


《――「パパも一兄の為なら……いまの仕事も辞めるって言ってるのに」――》



中二の夏休み。

俺が日本に残ると決めた時。



《――「分かってるよ、でも心配掛けたくないんだ」――》


《――「家族にこれ以上甘えたくない」――》


《――「次の夏休みまでに、俺は大丈夫って証明するから」――》



中二のゴールデンウイーク。

何の根拠もない言葉で、宣言した後。


中三の夏休み。

確かに根拠を掲示して、俺は家族と距離を置いた。


あの時の俺を信じたまま、三人は昨日家へと訪れたんだろう――



「――おーい、おーい! なんかマズくない?」

「どいてろ莉緒。目、覚まさせる」

「えっ」


「おらッ」



――バチン!!



「 」



ポテトスティックは離れ、目の前には合わせられた両手。

爆音が、食堂内に響き渡る。



――「おい何だよ今の」「銃声か!?」「伏せろ!!」――



「目、覚めたか?」

「 」



猫騙しを食らったと理解した瞬間、俺は今度こそ意識を手放した――



――バチン!!!



「目、覚めたか?」

「はいはいはい(必死)」


「二回連続……まさかという感じ……」



突き刺さる視線。

とりあえず、食堂から出て行こうかな!










▲作者あとがき


明日も投稿します。

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