写真
「これが、かのんが一歳の時の写真ね」
と、いうわけで。
時価一億円は下らない、如月さんのアルバムを見せてもらっている。
……正直に言うと、俺はこの安価行動? にちょっと自信があった。
最初はちょっとした勘違いがあったけど。
「で、これが初めて喋った時のかのん」
「かわいいねぇ〜」
「かわいいね(逮捕)」
そう、妹は尊いものだからだ。
特に小さい頃は。
そして、それを自慢したがるのが人間なのだ。
「ま——俺の妹も負けてないけどね(ドヤ顔)」
「うわっコレいっちの妹!?」
「か、可愛いわね……」
「ははは(妹の七光)」
そう、俺の手にあるのは俺(カス)&妹(神)の小さい頃のアルバムである。
別に俺は妹の写真を集めまくるシスコンというわけではない。
親が子供好き過ぎるせいで、大量にアルバムが出来てしまったのだ。
そしてその持っていけなかったアルバムの一部が俺の部屋にある……というわけである。
実際このアルバムも初めて見た。
存在だけは知ってたんだけど。
普通に生活してたら、こういうの見ないから。
「というか、髪の色茶髪なのね妹さん」
「確かに〜」
「母さんの地毛が茶髪でね、多分遺伝したんだと思う」
「ほ〜」
生粋の陽キャ、いや生まれながらの陽キャだろう。
流石俺の妹だ……。本当に俺の妹か? (不安)。
「で」
「?」
「いっちはどこ?」
「え」
「そうね。東町君が居ないじゃない」
「どこ〜?」
……。
そう、このアルバムは多分8割ぐらい妹なのである。
別に親の愛情が無かったなんて悲しい話ではない。
母さんとか怖いぐらい俺に構ってたし……。
まあ、自分に問題があるのだ。
「こ、子供の頃、カメラ向けられるのが怖くて……」
「……え、え〜?」
「ふふっ。東町君らしいわね」
「でも! 探したらあるはず——って」
「あ、あら……」
「あ」
そして、そこには居た。
カメラを向けられて、泣きじゃくる俺(5)の姿が。
何撮ってんだよ俺の親は(激怒)。
見世物じゃねぇぞ(泣)。
こちとら生まれながらのインキャなんだわ(号泣)。
「かわいいー!!!!!」
「可愛いわね」
「や、やめて……(死)」
「もっと! もっと!!」
「ふふ」
幼少の頃の、もう覚えていない記憶がどんどんと
「いっちの寝顔かわい〜!」
「ね、かのんに負けてないわよ」
「……ありがとう(恥ずかしい)」
幼稚園、そして小学生。1年生、2年生、3年生。
ようやくカメラが怖くなくなって、写真に写るのが慣れて来た頃。
不思議なモノで、一度怖くなくなるとなんで怖かったのか分からない。
でも……俺の写真があるのはきっとココまでだ。
それからは、もう。
「——あー。後は妹の写真しかないね」
「え〜ここで終わり〜?」
「うん。ごめんね」
「せっかく泣かなくなったのに〜」
「ワガママ言わないの、桃」
「いやぁ、実はまだまだこの頃も怖くてですね……親もようやく諦めたというか。はは……」
一人が辛くなったのは、きっとこの頃だった。
違う意味でカメラが嫌になったのも。
《——「はじめにーは、ともだちとあそばないの?」——》
沢山の人に囲まれる妹の写真が、遠い昔の声を思い出させる。
陰と陽。
はっきり別れた俺と二奈。
「いっち?」
「あー。俺のじゃなくて、如月さんと初音さんの写真も見たいな」
「え〜」
「あるわよ、桃のとっておきのが」
「ちょっ!」
視線が下に向かっていた中、視界にそれが映る。
かのんちゃんの写真を出す様に誇らしげな如月さんの表情。
「……めっっっちゃ可愛い」
そこには、ちっさい初音さんが居た。
なんと——横に居る如月さんより小さい。
今と真逆である!
髪、ロングヘアー。今のショートボブと全然違う。
ほっぺた赤いし。
目、キラキラだし。
「これ……お遊戯会?」
「そう! 小学校、3年生で演劇やったときにお姫様役だったのよー」
「(天使か?)」
「可愛いでしょう?」
「やめて〜〜!!!」
バタン、と閉じられるアルバム。
すぐさま開かれる(慈悲はない)。
「で、次が雨も降ってないのにカッパ着てる桃」
「うわっコレは……(絶句)」
「新しいの買ってもらって、嬉しすぎてはしゃいでる所撮られたみたいね」
「ヤバ(語彙力喪失)」
「だからやめて〜!!」
閉じる、開かれる。
そう言いながらも、写真の中の彼女達はずっとキラキラしていた。
小さい頃から仲良しだったんだろう、二人は何年もずっとこうして居たんだろう。
「もっと……見たいな」
呟いていた。
この写真は、決して戻らない風景。
思い
大事なのは、昔ではなく現在だ。
それでも大切な友達の、過去を眺めるのは凄く楽しい。
この中に俺は居ないけれど——この過去があるからこそ、今俺は彼女達とココに居られる訳で。
「もうやだ〜!」
「その割に止めないのね」
「そ、そんなことない……」
騒がしい二人を見て笑う。
もし妹が居なければ——今の高校に入る事も無かった。
それは当然、彼女達と出会う事もなかったというわけで。
「次はもう一回いっちのやつ見るから!」
「さっき見たのに?」
「減るものじゃないし良いでしょう」
「えぇ……」
そのまま夜は更けていく。
手元、輝くその写真と共に。
「ね、眠くなってきた(逃)」
「あ〜逃げるな〜!」
「わぁ、もう24時じゃないの……」
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