瀕死
「いっちってホント読めないよね〜」
「そうね」
パジャマを取りに行くと、彼が家から出ていって30分程。
「いっちの妹もそんな感じなのかなぁ」
「それこそ読めないわね」
《――『いちにーきょうくるんだよね!』――》
ダンス発表を終えて、早々に私は帰宅して。
彼が来る事を伝えたら、かのんは飛び上がって喜んでいた。
桃が家に来るときも喜ぶけれど。
東町君の場合は、まるで――パパが帰ってくるときみたいに跳ね回る。
なんとなく彼は、年下への対応に慣れている気がした。
そしてそれは、あの電話で合点がいったわ。
《——「一兄……もうすぐ体育祭だよね」——》
妹が居たのなんて知らなかった。
彼、あんまり自分のこと話さないから。もっと言ってくれてもいいのに。
でもあの口調では、かのんみたいに東町君へ懐いている訳ではないらしい。
うーん、気になるわ。
東町君が困る様子って、見ていて面白いのよね。
多分電話でアレなら、対面したらもっと困るんじゃ。
なんて。
我ながら性格悪いこと考えちゃったわね。
ピーンポーン——
「あ、いっちだ」
「早かったわね」
「はーい、今開けるよ。あはは〜めっちゃハーハーしてる」
「東町君じゃなかったら完全に不審者ね」
「うわちょっ」
「?」
『…………聞こえてます』
えっ。マイクONになってたの!?
気付かなかったわ……。
「ご、ごめんなさい。失礼過ぎるわね」
『ははっ慣れてるから平気だよ』
じゃあ、大丈夫かしら?
本当に東町君ってタフなのね。
☆
☆
《——「東町君じゃなかったら完全に不審者ね」——》
《——「東町君じゃなかったら完全に不審者ね」——》
《——「東町君じゃなかったら完全に不審者ね」——》
《——「東町君じゃなかったら完全に不審者ね」——》
《——「東町君じゃなかったら完全に不審者ね」——》
《——「東町君じゃなかったら完全に不審者ね」——》
如月家、再度侵入(不審者)。
安心する匂いだ(不審者)。
靴並べてっと(紳士)。
玄関到着。
不法侵入、開始します!!!!!!! (気にしてない気にしてない気にし)。
《——「東町君じゃなかったら完全に不審者ね」——》
《——「東町君じゃなかったら完全に不審者ね」——》
《——「東町君じゃなかったら完全に不審者ね」——》
あああ静まれ俺の両耳!!
ひたすらに頭の中で繰り返される、如月さんの声を抑える。
自分で思うのは良いけど、人から言われるとなんで駄目なんだろうね人って(胃痛)。
やはり人は興味深い。もっと単純にいこうよ。なあ聞いてるか俺の脳?
ああ、神聖な如月家インターホン(価値にして1,000,000円は下らない、多分)なんかに俺の息を掛けてごめんなさい。
300000000000年ローンで払わせて頂きます……(地獄並感)。
はぁ…………。
「だ、大丈夫いっち?」
「はい(いいえ)(はい)(いいえ)」
「どっち……?」
「大丈夫です……寝間着、持ってきました……」
「……と、なにそれ?」
「あら、パジャマにしては大分荷物多くないかしら」
そう言われて気付く。
確かにそうだ。パジャマだけだったらこんなデカイトートバッグはいらない。
しかもパンパンだし。
……言うタイミングとしてはココか?
行くしかねぇ! 乗るしか無いこのビッグウェーブに(アン○ロ○ド派)。
「あああっアルバム持ってきてて……(震え声)」
「……なんでいま? もう終わったのに?」
「? 大きすぎないかしら?」
ああああああああああああ!!!
ミスった? ミスった?
えっ何大きいって!! 俺の痛々しさが?
終わったって何? 友達関係が?
しかしもう止められない。
「あっ、と、せっかくだし、如月さんとか、かのんさん(5)の昔の写真とか見たいな、みたいな。だから俺も持ってきてさ。ははは(早口)」
「? 写真……?」
「?」
ああああああああああああ!!! (2回目)。
もう俺を殺してくれ。
独り言で誤魔化せた安価カレー(ダブルミーニング)(懐かしい)の時とは違う。
逃げられない。
この『?』マークが浮かんだ顔の二人に、俺はもう余命三秒——
「あっ!!」
「え」
「見た〜〜い!!!」
「……え……」
と思ったら、初音さんがそう叫んだ。
「アルバムってCDじゃなくて写真の方か〜〜!」
「あ……ちょっと混乱しちゃったわ。ダンスの授業のせいで、そっちに気を取られたのよ」
「あ、ああ……(復活)」
ああ。確かにそうだ。
安心するとともに何か、実感が湧き上がる。
俺は――なんとか生き残れた(瀕死)。
▲作者あとがき
100万PV達成。ありがとうございます!
1Mになりました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます