瀕死



「いっちってホント読めないよね〜」

「そうね」


パジャマを取りに行くと、彼が家から出ていって30分程。


「いっちの妹もそんな感じなのかなぁ」

「それこそ読めないわね」



《――『いちにーきょうくるんだよね!』――》



ダンス発表を終えて、早々に私は帰宅して。

彼が来る事を伝えたら、かのんは飛び上がって喜んでいた。


桃が家に来るときも喜ぶけれど。

東町君の場合は、まるで――パパが帰ってくるときみたいに跳ね回る。


なんとなく彼は、年下への対応に慣れている気がした。

そしてそれは、あの電話で合点がいったわ。



《——「一兄……もうすぐ体育祭だよね」——》



妹が居たのなんて知らなかった。

彼、あんまり自分のこと話さないから。もっと言ってくれてもいいのに。


でもあの口調では、かのんみたいに東町君へ懐いている訳ではないらしい。

うーん、気になるわ。

東町君が困る様子って、見ていて面白いのよね。

多分電話でアレなら、対面したらもっと困るんじゃ。


なんて。

我ながら性格悪いこと考えちゃったわね。


ピーンポーン——



「あ、いっちだ」

「早かったわね」

「はーい、今開けるよ。あはは〜めっちゃハーハーしてる」

「東町君じゃなかったら完全に不審者ね」

「うわちょっ」

「?」


『…………聞こえてます』


えっ。マイクONになってたの!?

気付かなかったわ……。



「ご、ごめんなさい。失礼過ぎるわね」

『ははっ慣れてるから平気だよ』



じゃあ、大丈夫かしら?

本当に東町君ってタフなのね。






《——「東町君じゃなかったら完全に不審者ね」——》


《——「東町君じゃなかったら完全に不審者ね」——》


《——「東町君じゃなかったら完全に不審者ね」——》


《——「東町君じゃなかったら完全に不審者ね」——》


《——「東町君じゃなかったら完全に不審者ね」——》


《——「東町君じゃなかったら完全に不審者ね」——》



如月家、再度侵入(不審者)。

安心する匂いだ(不審者)。

靴並べてっと(紳士)。


玄関到着。

不法侵入、開始します!!!!!!! (気にしてない気にしてない気にし)。



《——「東町君じゃなかったら完全に不審者ね」——》


《——「東町君じゃなかったら完全に不審者ね」——》


《——「東町君じゃなかったら完全に不審者ね」——》



あああ静まれ俺の両耳!!


ひたすらに頭の中で繰り返される、如月さんの声を抑える。

自分で思うのは良いけど、人から言われるとなんで駄目なんだろうね人って(胃痛)。

やはり人は興味深い。もっと単純にいこうよ。なあ聞いてるか俺の脳?


ああ、神聖な如月家インターホン(価値にして1,000,000円は下らない、多分)なんかに俺の息を掛けてごめんなさい。

300000000000年ローンで払わせて頂きます……(地獄並感)。

はぁ…………。



「だ、大丈夫いっち?」

「はい(いいえ)(はい)(いいえ)」


「どっち……?」


「大丈夫です……寝間着、持ってきました……」


「……と、なにそれ?」

「あら、パジャマにしては大分荷物多くないかしら」



そう言われて気付く。

確かにそうだ。パジャマだけだったらこんなデカイトートバッグはいらない。

しかもパンパンだし。


……言うタイミングとしてはココか?


行くしかねぇ! 乗るしか無いこのビッグウェーブに(アン○ロ○ド派)。



「あああっアルバム持ってきてて……(震え声)」


「……なんでいま? もう終わったのに?」

「? 大きすぎないかしら?」



ああああああああああああ!!!

ミスった? ミスった?

えっ何大きいって!! 俺の痛々しさが?

終わったって何? 友達関係が?


しかしもう止められない。

さいは投げられた(自分が勝手に投げただけ)。



「あっ、と、せっかくだし、如月さんとか、かのんさん(5)の昔の写真とか見たいな、みたいな。だから俺も持ってきてさ。ははは(早口)」


「? 写真……?」

「?」



ああああああああああああ!!! (2回目)。

もう俺を殺してくれ。


独り言で誤魔化せた安価カレー(ダブルミーニング)(懐かしい)の時とは違う。

逃げられない。

この『?』マークが浮かんだ顔の二人に、俺はもう余命三秒——



「あっ!!」

「え」


「見た〜〜い!!!」


「……え……」



と思ったら、初音さんがそう叫んだ。



「アルバムってCDじゃなくて写真の方か〜〜!」

「あ……ちょっと混乱しちゃったわ。ダンスの授業のせいで、そっちに気を取られたのよ」


「あ、ああ……(復活)」



ああ。確かにそうだ。

安心するとともに何か、実感が湧き上がる。

俺は――なんとか生き残れた(瀕死)。






▲作者あとがき

100万PV達成。ありがとうございます!

1Mになりました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る