如月家にて


「お、お邪魔します……」


「さっきまで居たじゃん〜」

「ふふっ、変ね東町君」


「……はい……」



時刻は22時前。

かのんちゃんはもう起きる気配がなさそうな程に熟睡。


彼女を背中におぶったまま靴を脱げるかどうか玄関で考えていた所、如月さんがかのんちゃんを受け取ってくれた。



「じゃ、シーユーネクストタイム(音ゲ)――」

「いちにー……」

「!?」


……そのままドアに手をかけようとしたら、暖かい、小さい手がちょんと首に触れて。



「ウッ(絶命)」


「えっ」

「あっ」



服、首の後ろが掴まれてそのまま首が締まった(死)。見てないけど二人の反応で分かった。これはかのんちゃんだ。


「グオ……」

「かのん! やめなさい!」



そんな引っ張らないで! というか怖い(切実)。

今寝てるよね?

第三の目でも開眼してるのか? 


シックス・センス?

カノンちゃんはまだファイブ・エイジ5歳だけど(爆笑)。



「ォ゛(首が締まっていく)」


「いっち!」



ごめんなさい!





「かのんちゃんスヤスヤだったね」

「もう夜も遅いから。東町君を追いかけてた時にはもう限界超えてたのよ」

「あはは~」



もはや少し慣れてしまった、如月さんの家。

リビング、俺たちは椅子に座った。


アレから、かのんちゃんはウトウトしながら歯磨きしてた(かわいい)。

そのまま布団イン。子供ってホント一瞬で寝るね。充電が切れたみたいに。


枕をコアラの様に抱いて寝る姿が印象的だった。それを写真に撮って額縁に飾れば、恐らく万国博覧会に展示しても違和感がないだろう(題名:世界平和)。



「で! ついにこの日が来たんだね〜」

「別にいつでも良かったのだけど」


「いや、友達の家に泊まるのなんて初めてだし……そういう選択肢無かったし……というか家近いし……(陰キャ三連コンボ)」


「え~」

「東町君、いつも遅くに帰すの悪いと思ってたのよ」



……まあ、悲しいけど彼女達の中で俺は男ではない何かなのだ。

妖精みたいな。こんな髪色だし(熱い自画自賛)。


ある意味信頼を得ているんだ。

喜ぶことにしよう。


よく考えなくても、友達の家に泊まるなんて夢みたいな話だった。

夢通り越して存在すら忘れていたけど。

……あと。



《――「ほんとに一人で大丈夫なの?」――》



蘇る妹の声。

夜を誰かと一つ屋根の下で過ごすのは、家族と過ごした中3以来だ。

あの頃の俺に今の状況を話しても『は? 妄想乙(笑) それなんてギャルゲ(激寒)』で終わることだろう。


もうすぐ家族が帰ってくる、そんな手前でこうなるとは。



「本当に良いの、如月さん」

「! い、良いわよ?」


「じゃあ朝まで、お邪魔します」

「ええ。かのんもきっと喜ぶわね」

「そうかな?」

「もちろんよ」



彼女は笑う。

その笑顔に偽りは無いように見える。


だったら、その好意を受け取らないのは……逆に失礼ってもんか。



「……ふ〜〜ん……」

「(焦燥)」

「わたしには許可取らないんだ」

「すんません帰ります(直帰)」

「わ〜もー違うって! 泊まって! 泊まってよ!」


「一応私の家なのだけど……」

「う~……」



困る如月さん。

初音さんが変な事言うから(何様)。



「あっそうだ。せっかくだし、お茶出すわね」

「わたしもお菓子持って来た~」

「おおおおかまいなく(動揺)」

「いつも桃が居る時はこうしてるから。気にしないで」

「気にしないで~」


「はい(気にしない方が難しい)」

「?」



そう言いながら二人はキッチンへ。


夜22時。

テーブルから、彼女達の背中が見える。



「……」



夜は過ぎるのに、家に一人じゃない今が。



《――「一兄は気にしないで。私がこうしたいだけだから」――》



ふわふわと、まだ現実感がない。

それなのに、どこか昔を思い出すような――



「いっち?」



天井を見上げて、ぼーっとしていたら。


時間が経っていたらしい。

前から、彼女の声が聞こえて目をやる。



「!」

「あはは~、ついでに着替えちゃった」



そして、見えた初音さんは……さっきまでの制服とは違っていた。

白色の……いや、ピンクが掛かった白の、ゆったりとしたデザインの寝間着。

肌触りが良さそうなそれ。



「?」

「ぁ……」



距離が近い。

触っていないのに、なんとなく質感が分かる程に。

無防備というか。いや、寝る服装なんだから当たり前だ。


でもこれは流石に――心臓が、持たない。

何をしてしまうか自分でも怖くて。


これは駄目だ。

この身体の熱さは、初夏の暑さによるものではない。



「っ」



ふわふわとした、夢心地はパチンと消え去った。

その現実が、浮かれた己に覆っていく。

よく考えろよ俺。自分は今から女の子と……一夜を同じ家で過ごすんだぞ?


“家族”じゃない。

何を勘違いしてた?


今更、本当に今更だ。

もう、断るなんて駄目だ。

なら、ほんの少しだけでも。



「?」

「あっ、あのさ!」



時間を稼いで、一度冷静になるべきなんだ。

今夜何事もなく過ごすには。



「やっぱり! おっ、俺も自分のパジャマ取ってきます!!」




まずは、冷たい夜風に晒されるところからだ。

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