エピローグ:一人っきりのダンスフロア
陰があれば陽がある。
この世界の
『
2つ下の妹で、
兄の俺とは真逆を行く彼女。
親と一緒に海外で過ごしており、あっちに行ってからは声を聞くことはほぼ無かった。
だからこうして電話が掛かってくるのが予想外で――
「――ああっ(携帯落下)」
「電話、壊れちゃうよ……」
「ごめんなさい(早口)、また家族からだ」
「出ていいのに」
「良いの?」
「うん。待ってる」
「ありがとう。じゃ……」
拾った携帯。通話、開始――
『
『!? びっくりした……』
俺とは対象的な彼女。
相変わらず元気でよく通る声だ。
久しぶりに話したな。
……って。
え、どういう意味?
俺が入ってる動画サービスのサブスクリプションのこと?
『つ、月に千円ぐらい……』
『結構安いね』
『そうかな。最近はまた値段上がって……』
『まあ一兄だし値上がりするよね……で、一人だけ?』
『え、一人? そんないっぱい契約できないって』
『それもそうか』
なんか食い違いが起きている気がする。
というかサブスクを擬人化してる妹にもびっくりだよ。
楽しみを提供してくれる彼氏? みたいに見えてるのかな我が妹は。
『いや違うよ(激遅) 友達料金なんて払ってないって!』
『本当?』
『二奈……俺の事そんな目で見てたのか』
『当たり前でしょ』
『……(すいません、何も言えねぇ)』
沈黙。
いや、正しいのは二奈だ。
中学の頃を考えれば。
あの頃。
彼女にしてもらった事を考えれば――
「いっち。変わって」
え?
『え? 誰?』
『あ、いや……』
「変わって」
えっ、めちゃくちゃ怖いんだけど初音さん。
変われば……良いのか?
というか変わらなければヤバいかもしれない(語彙力低下)。
『お、お電話変わります……(コールセンター東町一)』
『えっ』
携帯を、繋いだまま手渡す。
「あの――『いっち』はわたしの大事な“親友”ですから」
そんな怒った口調で――初音さんは通話口に声を上げた。
「友達料金とか……そんなこと言わないで下さい。お願いします」
「わたしは、いっち……あっ、
「だから、大丈夫ですから」
通話口。
俺の耳にそれはないから、妹の声は分からない。
でも。
「――あっ! やっぱりココにいちにー居たー!!」
「ああもう、かのん先々行かないの! あと叫ばないの」
公園、如月姉妹。
いつからかそこに居る彼女たちに、ダラダラと冷汗が流れる。
頼む。今だけはお願いだから静かに静かに静かに――
「いちにー、きょーもいっしょにおやすみするんだよね!」
「ちょっ……かのん!」
「(終了のお知らせ)」
そして。
これから起こるであろう状況が、とんでもなくヤバい事は分かってしまう。
「――はい。それじゃ、その時にまた――あ、いっち。妹さんが変わってほしいって」
「……」
「いっち?」
電話に出たくない。
でも、ここでそうしなければきっと、もっと酷い事になる(絶望)。
『お、お電話変わりました(コールセンター東町一)』
『……ねぇ、一に――』
「いちにー! かえろ!!」
「かのん! 東町君はお電話中なの!」
大丈夫だよ。もう手遅れだからね(達観)。
かのんちゃんに微笑みながら、俺は通話口に耳を傾ける。
『“いちにー”って何』
『か、かのんさん(5)っていう、友達の妹さんがそう呼んでて』
『へぇ。一緒に寝るとか聞こえたけど』
『……』
『警察のお世話にはなってないよね』
『はい(敬語) ……ギリギリで』
『は?』
『すいません、何も言ってません』
ヤバい。
本当にこれはマズい。
彼女の低い声が、その機嫌を表している。
『一兄、もうすぐ……確か来月体育祭だよね』
『は、はい』
『その時までには帰るから』
『いや、二奈達って来年までは帰ってこないって』
『か え る か ら ね』
『はい……』
『切るね。詳細はまた後日』
『分かりました……』
――プツン。
切れるそれに、一息も付けない。
嵐は一時は去ったが、また来日するのが確定していて。
「桃、貴方何話してたの?」
「ん~? いっちの家族とお話ししてた」
「そうなのね」
「気になるなぁ~。もうすぐ帰ってくるらしいよ。わたしに会いたいんだって!」
「かのんもあいたい!」
楽しそうな声。
そんな俺を知らない三人は、仲良く話していて。
「あっそういえば、いっちの髪色って家族は知ってるの? 久しぶりに会うんだよね?」
「(滝汗)」
「え、まさか何も言ってないのかしら」
「……はい」
「うわぁそれは~」
「超ヤバいね(ギャル並感)」
「あはは~」
家族が来る。
一体その時の俺はどうなっているだろうか。
考えただけで恐ろしいけれど。
空を見上げる。
月の明かりが目に当たる。
「今日も綺麗だ……」
視界の中。
それは夜でも相変わらず、虹色に輝いていた。
……。
……なんて思ってる場合じゃなくない?
▲作者あとがき
と、いうわけで次章の匂わせで今章は終了です。
ありがとうございました!
なんかダンスについて書きたいなぁなんて思ってたら、本一冊分越えちゃってましたね。びっくり。
もともとダンス発表ぐらいで終わる予定だったんですが、勝手にキャラ(大体あの二人)が動いてたので、五月病対策に少しでも貢献出来ればと思い増量、ちょっとGWをオーバーしました。蛇足に感じた方は申し訳ない。
個人的に☆が一週間前ぐらいから急に伸びてて(ありがとうございます)この勢いのまま連続更新……と行きたかったですが、質の悪いものを投稿するのも気が引けるので、ある程度の量を書いてから更新していきたいと思います。
それではまた!
次章【東町家騒動編(仮名)】をお待ちくだされば幸いです。
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