転がり落ちる



キーンコーン――



体育は終了。

授業以外はできるだけ教室に入りたくなくて、すぐに図書室へ駆け込んだ。

授業開始ギリギリになったらそこへ入る。


6限、HLが終わればすぐに帰宅。

誰からも、今は視線を浴びたくなかった。



「っ」



制服を脱いで、着替えて……座り込む。


ずっと、心の奥底にあったモノ。

初音さん、如月さん、椛さんに夢咲さん、柊さんも。

全て女の子だ。


異性。

同性ではない。

彼女達から見て、俺はどう見えているのかと。



《――「あの“五人”で満足出来ないのかよ」――》



そして、“それ以外”から見てどう見えているのかと。


……当然、そんなの決まってる。

“普通じゃない”。


髪が虹色なのも、学年一位のテスト順位も。

この、創作ダンスも。



《――「狙ってるぞアレ」――》



でも俺は、そんな“それ以外”の目は気にならなかった。

なんでかと言えば――五人の彼女達は、俺と仲良くしてくれたから。

テストの勉強会も。波乱だった合コンも、山遊びも、カラオケから初音さんも連れ出した時も。

色んな事があって、彼女達と遊んで――笑った記憶がある。


楽しかった。

友達として――ずっと、このまま。



でも。

そうは、ならない。



《――「……おう」――》



最近の、夢咲さんと柊さんの反応も。



《――『ごめんね 今日からあやのんとダンスの練習するから』――》



最近、露骨に距離を取る初音さんも。

当然、その親友の如月さんも。



《――「お休みに遊んだりしても大丈夫、ですよね」――》



同性の友達ができた椛さんも。

その、常識に。

きっと――この“異常”に気が付く。



「……」



嫌でも想像してしまう。


金曜日――ダンスの発表の後。

俺から離れて行く、五人の彼女達の事を。



「……っ。くそ……」



自宅、時計の音が鳴り響いている。

イヤホンを耳に突き刺しても、それは消えない。


最悪な未来も、当然このまま。

それは既に、明後日に迫っているけれど。


この針の音をかき消す為に――俺は、家を出た。

衝動的に。

欠かさず身に付けていたニット帽を、忘れた事に気付いたのは電車に乗った後だった。





《――♪》



暗闇を刺す光線に、流れる爆音のミュージック。


今はそれが心地良い。

居心地が良すぎて、逆に怖い。


一人でいる事が、おかしくない場所だからだろうか。



「――っ」



基本のステップを刻みながら、音の波に溶け込んでいく。


……気付けば一時間は経っていた。

自分でも少し怖いほど、のめり込んでいた。

ずっとこのままで――そう願うものの、そうは言ってはいられない。


明日も学校だ。

帰って……授業の予習をしないと――



「――やっほー★」



なんて。ひとしきり踊って、帰ろうかなと思った時だった。

シックな黒のワンピースに身を包んだ――ずっとここで声を掛けてくる女の人。


羽織さんだった。

正直、今会いたくなかった。

全てを見透かされそうで。



「なんかあった?」

「っ!?」



……やっぱりこの人怖い。思考を読まれている気がする。

雰囲気もなんか重圧感? あるし。



「そんな驚かんでも。顔見ればわかるかな。顔見なくてもわかるけど」

「……そうですか」

「うん」



不思議な人だ。

前は怖い印象しかなかったけど、今は優しい雰囲気を受ける。


海の向こうの母親も、きっとこんな風だった。



「抱え込んじゃダメだよ、そういうの」

「……はい」

「人ってのは、落ち込むと視野がどんどん狭くなるからねー」

「……」

「ちょっと、聞いてる?」

「はい」

「もー。とにかく誰かに話してみな、友達でも誰でも」

「……はい」



その友達が離れて行っている――とは言えなかった。



「赤の他人でも★」

「いやいや……」

「キミには居るでしょ、たくさん。聞いてくれる人が」

「え」

「もちろんこのハオさんでも——」


「――オーナー! 〇×の社長さんがVIP席で呼んでます」

「あっ……結構急用? 今はちょっとなー」

「例の新事業の話したいらしく……」

「ああ……マジか」



……これ聞いてていいの?



「ごめーん、呼ばれたからまた今度ね!」

「は、はい」



その疑問が解決する間もなく、人込みに消えていく彼女。

オーナーだったのかよあの人。道理で怖いわけだ。



「帰ろ……」



ああ。なんか、ここにきて一気に疲れが来た。

帰ったらすぐに寝よう。

スレ住民に相談しようかなと思ったけど……安価で決めた趣味でこうなったと思われそうで止めた。


それに。

友達全員女の子なんて言ったら――住民すらも、離れて行ってしまいそうで。




《――「君には居るでしょ、たくさん」――》




その言葉の意味は、未だに分からない。








そして、翌日。

朝。

また、HLギリギリで教室に入る。



――瞬間。



――「アイツ、クラブ行ってたってマジ?」――



そんな声が、俺の耳に入って来た。

背筋に冷たい汗が流れた。









▲作者あとがき


今日は20時ごろにもう一話登校します……(吐血)





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