聞こえぬ声


「……今日、東町元気なかったよな?」

「だね☆」


「……」

「だから言ったじゃん☆ まーまだ二日だけど」



火曜日、放課後。

二人は街をいつもの様にぶらつきながら。



「……なんで。あんなに良い奴なのに?」

「んー。悪目立ちってヤツかな☆」

「自分で言うのはアレだが……昔のアタシみたいな感じか」

「そ。まっ比べ物にならないけどね」



(学年一の好成績、それに対してあの髪色。学年一の美女と仲が良い……家まで行く仲)


(後――“月曜”の事もあってよりいっそう。特に男子に敵が多いね、ほんと彼は)


(ただまあ……男子全員ではなさそうだけど。やっぱりまだ壁はあるかな)



教室、クラスメイトの雑談。通り行く別クラスの男子の声も。


あの月曜の体育で――直接見てはいないが――何があったかは、柊はほぼ知っていた。



「……流石に来週からは、普段通り接するか」

「おっやったー! リオ、やっととーまちと話せるの?」

「嬉しそうなこって」

「そりゃねー☆」



(苺が納得するまで、リオがどんだけ我慢したと思ってんの!)



「……何考えてんだ?」

「ふはは! リオが居ないとあんな顔するんだなーって思ってね☆」



隣の隣。

見るからに寂しそうな彼の表情。

休み時間は消える様に教室から出て行ってしまうから見えないけれど。


そんな東町に、真実を告げるのが楽しみで仕方ない……そんな柊の心境。

来週のその日が、待ち遠しく。

ドッキリをバラす気持ちに近いだろう。

安堵して笑うのか。もしかしたら喜びで笑ってしまうかもしれない。



「アイツにも男友達が出来たら良いんだが……出来なければ来週からはいつも通りだ」

「うんうん☆ いっぱい構ってあげようねー☆」



楽し気に街行く二人。

その声は、彼には届く事はない。






「ひゃーつっかれたー!」

「お疲れ様です」



遅くなった学校の帰り道。

すっかり意気投合した、椛とその友達の立花六夏たちばなりっか


彼女は大きな声。


椛の方は……声が小さいが。

これでも頑張っている。



「詩織ちゃん結構体力あるねぇ」

「な、え、そうですかね……」

「このちっさい身体にどこにそんなエネルギーがー……」



今日は、創作ダンスの練習にて二人で遅くまで残っていた。

椛が山で得た体力は、本人は自覚なしだが……こんなところで発揮されている。



「ダンスはちょっと下手だけど!」

「す、すいません……音楽とかあまり聞かなくて……リズム? が掴めなくて」

「ははは、良いよ良いよー。アタフタする詩織ちゃんかわいいし」

「ど、どうも……?」



……ダンスは苦手ではあるものの。

持前の愛くるしさで、立花の方は悪い気はしていない。



「そういえば、詩織ちゃんってあの人と仲良いんだよね?」

「と、東町君ですか?」

「うん!」


「あんな変な人、大丈夫なの?」

「……え?」

「ちょっと怖いし……」

「そっ、そんなことないです!」

「!?」

「あっ……ごめんなさい」



今日一番の大声。

出した本人も、出された本人も驚いてしまい。

お互いに目を丸くして、見つめ合った。



「びっくりした……そんなに?」

「東町君は、凄く優しくて。僕の憧れです」

「ぇ……」



信じられない――そんな顔をする立花に、椛は続ける。



「凄い人なんです。東町君は」

「ま、まあ学年一位だしね……」


「その――学力もですが。もっと違う、いろんな所も凄いんです!」



図書室、文通? を提案してくれた事も。

口を開けない自分に、ずっとそれを続けてくれた事も。

山で遊んだ日、己の道を示してくれた事も。



「……そっかー、ちょっと勘違いしてたかな」

「はい。少なくとも僕にとっては、本当に憧れなんです」


「ふーん……幸せモノだねー彼は」

「え?」


「こんなに強く思ってもらえる人が居てさー」

「そう、でしょうか」

「当たり前でしょう! しかもこんな可愛い詩音ちゃんからー!」



立花が笑ってそう言った。

その顔に、さっきまでの彼への疑いは無い。


椛があまりにも、真剣な表情だったからだ。



「今度また一緒に遊ぶ? 東町君なら良いんじゃないー?」

「はい、ぜひ!」

「三人で図書館とか行ってもいいかもねー」

「とっても楽しそうです!」

「声おっきくなったねー」

「!」



(また、東町君のおかげで……)



発する事すら出来なかった声は、気付けば驚く程に出るようになった。


色んなトレーニング本の効果もある。

それでも、一番は彼のおかげ。


一か月。

たった一か月で――椛は大きく変われた。



「ダンス発表が終わったら、また考えようかー」

「はい! 頑張って頑張ります」

「ははは、詩織ちゃんに珍しく日本語がおかしい」

「し、失礼しました」


「休み時間と放課後、頑張って練習しようね」

「はい!」



(新しいお友達と一緒に東町君と遊ぶの、とっても楽しみです)



そんな楽し気な二人の会話も。

当然、彼には届く事はない。






200:名前:恋する名無しさん

深夜一時となりました


201:名前:恋する名無しさん

……もう確定だな 月曜のアレで


202:名前:恋する名無しさん

そうね


203:名前:恋する名無しさん

嫉妬は見苦しいねぇ ダンス部さんよ……


204:名前:恋する名無しさん

女子ばっかりと仲良い 加えて学年一位 多分ダンスも上手


そりゃーそうなるよね

1は何も悪くないんだがな


205:名前:恋する名無しさん

並べてみると そりゃそうだわ


206:名前:恋する名無しさん

友達が居るのが救いだけど 


207:名前:恋する名無しさん

大丈夫かなぁ


208:名前:恋する名無しさん

何かあれば1も言うだろ そん時は全力で対応するよ


209:名前:恋する名無しさん

1、自分の事あんまりわかってなさそうで……


210:名前:恋する名無しさん

爆発する前にこっちが言うか?

最近1掲示板にも顔出さなくなってきたし 思い詰めてそう


211:名前:恋する名無しさん

どうしたもんかな

今日イッチ来なかったし……


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