エースの雄姿


朝10時。

創作活動とボトルシップ制作はほどほどに、電車に乗り込んで。

あのインド料理店の最寄り駅からさらに二駅ぐらい離れた駅にて降りる。



「……でっかい」



そして歩いて数分――辿り着いたのは大きな体育館。

どうやら市が運営してるものらしく、バスケ以外でも陸上競技とかテニスとか色々大会をやっているらしい。


……俺?

髪色多い奴選手権にでも出てやろうか(そんなものはない)。



「ま、ニット帽被ってるんだけど……」



残念不戦敗者です。

でも、コレを解放したら“最強”なんで……色だけ……(実力隠し系主人公)。


はい。

突っ立っていても、残念ながら大会の中にワープとかしないようだ。

……だって仕方なくない? 緊張するよね。同じ学校の女子バスケットボール部の試合を見に来る男子生徒だぞ。


やっばい身バレしたらどうしよう。女子バスを見に来る変態(不審者)の完成だ。

というかこのニット帽装備状態がすでに不審者では――



「行こう」



そういえばもともと俺不審者だったわ。

何も恐れる事は無い。

泣いてはない。





「……あ、居た」



11時前、観客席に到着。

結構空いていたから、とりあえず適当に歩き回っていると――陰キャレーダーにより(感度MAX)初音さん発見。

選手たちと肩を組んで……円陣? 作ってる。


それ以外全員知らない人だ(当然)。

……と思ったら、クラスメイトっぽい人いる? 分からないけど。

俺未だにクラスメイトの顔と名前が憶えられてないからね。ボッチだから覚える必要なかったからね(カス)。

話しかけてくる人、柊さんだけだったからねずっと(号泣)。



――「ぜったい勝ーつ!」


――「「「オオー!」」」


――「星丘、ファイト―!」


――「「「オー!」」」



「……おお(小並感)」



中々に迫力がある。

初めて見たよ、星丘女子バスケットボール部の円陣。

なんかこういうの、部活してない俺からすると凄い新鮮だ。


そして少し寂しくなる。

……なんて。試合も始まるし、初音さんを見守るぞ。





――「ナイッシュー!」「ナイスリバウン!」――



「……」



そして、試合開始後数十分。

分かったことがある。



――「桃ナイス!」



初音さん、めっちゃバスケ強い。多分。

素人だからあんまりわからないけど、なんかめちゃくちゃ敵防いでる。ディーフェンスディーフェンス! みたいな(違う)。


あと遠くからのシュートが上手い。シュート精度? 的なアレが高い。



「……す、凄いな」



なんか敵チーム、明らかに初音さん一人に警戒し始めたし。

……漫画で見たことある展開だこれ!



――「っ」――



「……おおっ……」



と思ったら、お相手チームが一気に攻めるもののシュートを外した。すかさず初音さんジャンプ。


板に当たり跳ね返るボールを奪い取って……リバウンドって言うのかな、そのまま味方に渡す。ゴール。


攻めだけじゃなく守り側も強い。凄いね。

あのジャンプ、相手チームよりもかなり高かったぞ。



「……思ってた以上だ」



謎のスカウト的コメントを呟いて、俺は背もたれに寄りかかった。

ほとんど誰も居ない隅の席。ココなら誰にも見られない。



「はぁ……部活か」



だから。

大きく俺はため息を付いた。


輝く彼女が、自分には眩しすぎて――



――ポーン



そう思っていると、コートからのブザー音。

結局この試合で星丘高校は二倍の差をつけて勝利。


整列を始める選手達。

それが終わると、チームメイト達と喜びを分かち合う――



――「!」



その時に。

コートの中の彼女だけが――俺の顔を見つめ、手を振っていた。

ニット帽の、輝きゼロの己のはずなのに。


虹色じゃないのに。

昔の、俺のままなのに。




「……お、お疲れさま」




震えたそれは、会場の中に響いていく。

もちろんこんな声は聞こえるはずがないんだが。


代わりに力なく手を振り返す。

程なく、他のチームメイト達が初音さんを取り囲んだ。



――「!!」



そんな中で。

未だ、その子は遠くの俺に手を振っている。

嬉しそうなその顔をこちらに向けて。



「はは……」



思わず零れたその笑みも、きっと彼女は見ているだろう。


なんで気付けるんだよ。

こんな影の薄いモブ野郎に。


初音さんはバスケ部のエースだ。

あんなに慕われて、仲間も居て。

なのに、こんな俺に……そんな笑顔を、どうして俺に向けてくれるんだ?



「ほんと、敵わないな――」



やっぱり、彼女は俺には眩しすぎる。

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