月曜15時、タイムリープ

夜道



「疲れた……」



帰宅。

時計を見れば、既に夜、22時前。


アレから色々片付けたり、色々してから電車に乗って帰って――家に着いて。



詩織『ごめんなさい、遅くなりましたよね 大丈夫ですか?』

東町一『今帰ったところだよ そっちこそ色々あったのに大丈夫?』

詩織『全然平気です』

東町一『そうなんだ……』




「そうなんだ……(恐怖)」



これが全く嘘じゃないのが凄い。

聞いてると、俺が森林浴で寝ている時はずっと本を読んでいたらしいし。


片付けも俺の3倍ぐらいテキパキ動いてたからね。

自分が遅すぎるだけなんて言ってはいけない。

……あれだ、童話で出てくるめちゃくちゃ働き者の小人を思い出した(失礼)。


俺と別れるまで疲れる素振りを見せなかったが、実際全く疲れていないんだろう。

自分も体力を付けないと駄目だなと思いました(小並感)。


……最近サボってた鉄棒ガチるか……。

明日の初音さんとの集合時間は15時だからね。早起きする必要はないんだ。

思う存分回れるぞ (不審者情報)。





「こわっ」


時刻は22時、夜の公園。

ポツンとある外灯が照らすその場所は、ホラーゲームでよくありそうな光景だ。


そしてまた、誰も居ないのがよりホラゲー感を増大させる。

徒歩3分だから最悪怪異かいいが出ても走って帰れるぞ(フラグ)。

まあこの髪色じゃお化けなんて出てこないだろうけど(フラグ)。

鉄棒してる奴に近付いたら危ないし来ないだろ蹴り飛ばすぞ(フラグ)。


……ヤバい、マジで怖くなってきた。

誰だよホラーゲームとか最初に考えたの……なんで金払って怖い経験してるんだ。

楽しいからだね(解決)。



「——っと」



もはや逆上がりは余裕になってしまった。

つまり別の技に挑戦の時。


まずは、手を交差させた状態で、足を鉄棒に掛けてぶら下がる。

そのまま足を抜き——



「……でき、た」



グルン。

半回転したら、『地球回り』の完成である。


……お、おいおい。1発で出来ちゃったぞ(興奮)。

俺天才かもしれない(逆上がりに1時間掛かった男)。



「……」



今なら。



《——「○○くんすごーい!!」——》



小学生の頃。

ウンドース・ゴクデキル君(名前忘却の為仮名)がやっていた技がある。


『グライダー』。またの名を『飛行機飛び』。

その名の通り鉄棒から飛び立つ技。

とにかく目立って、クラスメイトから注目されていたのを覚えている。


そんなテツボーメッチ・ャスゴイ君(ry省略)の技を、高校2年の俺(雑魚)がやってみようというわけだ。



「……ふー」



息を整える。

動画で見たとおり、まずは鉄棒を腰の辺り持ってきて。


グルン――グルン。

勢いを付け、足裏を鉄棒の上へ!


……ヤバイ、めっちゃ怖い。

目線を下にやったまま固まる。



「…………」



そのまま多分三十秒ぐらい経った。

飛び込むだけだがそれが怖い。逆上がりの比ではない。


視界には、やけに高い地面。



「……いや……いける——っ」



今の俺は過去の俺じゃない!

そのまま、上から下にグルンと回って——飛び立つ!!



「お、おおっ……がっ!」



思っていたより飛んだ。

そして、迫る地面。

衝突。ゴロゴロと転がり、何とか受け身を取って――



「……君。あの時の鉄棒少年だね?」



その、背筋が冷えるような声。

あの時。

初めて、逆上がりを成功した時も聞こえたそれ。



「お勤めご苦労様です……」



目の前。

何時ぞやのお巡りさんが、すぐそこに立っていた。

……はい終わった(逮捕)。



「髪色変えた?」

「アッハイ」






「はははっ学生の頃を思い出すなぁ!!」


「えぇ……(唖然)」



目の前。

その一番高い鉄棒にて、お巡りさんがグルングルン回っている。



「よっ——」



そして今。

なんと、鉄棒の上で倒立している。


……同じ人間かこの人。きかい人間(解説:器械と機械をかけた激ウマギャグ)かな。



「まっこんなもんだ。23時になる前には帰ること。良いね?」

「は、はい」


「言っておくが無茶な技はするなよ、こんな時間じゃ怪我しても誰も助けてくれないからな」

「分かりました……」


「じゃ、頑張れよ少年!」

「どうも……」



そしてそのまま帰っていった。

仕事中だよね? あの人。


……でも、悔しいがカッコ良かった。


子供の時、クラスで目立っていたのは間違いなくああいうタイプだった。

心の底では羨ましく思っていたんだろう。

そして早々に諦めて、自分には出来る訳ないと信じ込んだ。



「もうちょっと頑張ってればよかったな……」



逃げ込んだネットの海。

そこで掴んだ、よくある教訓。


『記憶は無いが、今貴方は人生をやり直す為に未来からやってきた。さあどうする?』。


そんなの答えは決まってる。

でも出来ないのが人間だ。いや――俺か。



「……帰ろ」



空を見上げて呟いて。

そんな台詞は、夜の公園に消えていく。


――前に。



「……じー……」

「!?」


「あはは。びっくりしすぎ〜」



スポーツウェアに見を包んだ彼女。

公園。あの日と同じように――初音さんが、俺の傍で立っていた。





「……いやぁ、前みたいにおまわりさんから詰められると思ったら~」

「ははは……」



二人で、外灯が照らす夜道を歩く。

ちょっと距離離れてるけど。どうしたんだろうか。



「い、今汗かいてるから……。あんまり、近くこないで」

「了解です(こうそくいどう)」



どうも拙者はデリカシーゼロ男。

失敬!(ドヒューン)。

服装から察せよバカか?



「で、でもこんな遅くまで走ってるんだね」

「……明日試合でさ。居ても立っても居られない……みたいな?」


「なるほど」



そういえば彼女はバスケ部だったな。

部活……部活か。


そういえばそんなのあったね(生涯帰宅部)。

というか、だから集合時間遅めだったのか。



「うん。ごめんね、試合のせいで遊べる時間少なくなっちゃって」

「いやいや、誘ったのは俺だし」


「――ね。もし、良かったら、なんだけど……」

「?」


「あ、あの、さっきのおまわりさんみたいに……凄いことは、出来ないけど」

「え」



珍しくモジモジしてる初音さん。

何だ? やっぱり明日は駄目とか(絶望)。

諦めてアリさん捕まえに行きます……。



「よ、良かったら! 試合見に来ませんか……なんちゃって」



夜道、立ち止まる彼女に俺は振り返った。


次の返事は――もちろん決まっている。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る