天下節目の大合戦


土曜日、昼の15時。

柊さんから言われた、合コンの開始時刻だ。



リオ☆『とーまちはちょっと早めに来てー!』

東町一『了解です』

リオ☆『朝3時ぐらい』

東町一『了解です ごめん電車が無い チャリで行きます』

リオ☆『嘘だよ! 大体14時ぐらい!』




と、いうわけで待ち合わせの駅前に到着。

10分前だったけど――



「やっほー☆」

「おう」



二人は既に居た。


柊さんは肩出しのブラウスにタイトスカート。オシャレすぎてヤバい。

夢咲さんはパーカーにジャージ。スポーティーな恰好だけど、凄い似合ってる。


……俺浮いてる。間違いなく。

マネキンの服コピーマン(雑魚モンスター)には眩しすぎる。





「……うん、こんなもんかな☆」


「カラオケってこんなスペースあるんだね」

「うん☆ 広めの部屋だとこんな感じになるよ」



合コン会場はカラオケだった。

ぶっちゃけ狭くね? とか思ったけど、全然大丈夫。


余裕で20人ぐらい座れそうな部屋なんだけどココ。

画面もでっか! ミラーボールっぽいのもあるし凄いな(驚愕)。


カラオケなんて、家族でしか行った事なかったから知らなかった。

……クラスメイトとは今日が初めてです。



「つまみ食いしちゃお☆」

「ははは(かわヨ)」



でっかい机には、ポテトフライとかお菓子とかを広げて。

風景だけで見ればパーティー会場みたいだ。



「……」

「ゆ、夢咲さんも幹事なの?」


「……昔のアタシのチームメンバーがな、色気付いてうるせぇからリオに頼んでる」

「ふはは……苺の為とはいえ、今回も中々きつかった……」


「柊さんでもきつい事とかあるんだね」

「うーん☆ 女性陣はすぐ集まるから良いんだけど……男性陣に苦労するんだよね☆ 急に行かないとか言い出したり……意外とチキンな子が多いんだ~☆」



つらつらと話す柊さん。

幹事って大変なんだな……。



「まっ楽しみだけど☆」

「え」

「喧嘩になったら苺が止めてくれるし!」

「ならねぇよ。アイツらがなんとかするさ」

「ふははは! というか逆に倒しそう」



と思ったら楽し気になる彼女。

もう分からん! というか物騒なワードが聞こえたけど――



「――あ、来た」



心の整理など、させてくれる時間はない。





「……(唖然)」


「いやぁ圧巻だねぇ」

「ったく、アイツら結構洒落シャレてんじゃねーの」



俺の目の前。

そこには――



――「レイコお久ー!」「女子校マジ出会いねーわ」「わかる」――


――「き、緊張するぜ……」「可愛い子バッカじゃねーの……」「筋肉は全てを解決する」――



ぶわっと広がるその人達。


男10人。

女10人。

総勢総勢20名――圧巻の景色。

そしてその全ては、世間的に言われる“ヤンキー”っぽい方々。たまーに変な人居るけど、身なりは普通にオシャレだった(敗北)。



熱気立ち込めるこの会場。


まるで、戦国時代の決戦前(人は死なない)。



「え、俺の知ってる合コンと違う……」


「数ヤバいよね☆ わくわくしてきた」

「……コレでも抽選だったんだろ?」


「うん! 流石にこれ以上はね☆」



そう言う二人。

なんでそんな平静を保ててるの?


柊さんに関しては楽しそうだし……。


「……じゃ、時間だし始めちゃおうかな☆」

「おう」


えっ始まっちゃうの?

まだまだ心の準備が――――




「――はーい! それじゃ皆さんちゅーもーく!」



「「「!!!」」」



マイクを手に、柊さんが声を上げる。

その瞬間――静まり返るその者達。


……凄い。きっと彼女のカリスマか……誰も雑談とかしない。

というか、もし喋ったら殺されるぐらいの緊張を感じた。


魔王だ、魔王が居るぞ(敬服)。

ぶっちゃけ校長より強い(ごめんなさい)。



「ふはははは、静まりすぎ! えー、皆集まってくれてありがと! 大体は自由にやっちゃってもらって良いんだけど」



笑う彼女。

未だ鎮まるその会場。



「とりあえず最初だけは、皆一人づつ簡潔な自己紹介していきましょー☆」


「……我こそは一番に自己紹介を――なんて子は居ないね?」


「んじゃお手本。私の名前は柊莉緒! 趣味とバイト兼用で、モデルやってまーす☆ 軽ーくリオって呼んでね! 以上!」


「もう一度言うけど、関ヶ原状態なんで自己紹介は手短にお願い☆」


「……じゃ、そっちから時計回りでゴー!」



20名を前に、段取りよく進めていく柊さん。

俺なんてもう手が震えてるのに、マジで緊張とかしてない。


いつも通りだ。末恐ろしい。

そして、その挨拶のおかげか会場の人達の緊張も溶けたようで――




――「おっ、オレは〇×▲。趣味でボクシングやってます」


――「ワタシは〇×。〇〇高校出身、好きなタイプは筋肉!」


――「柔道の大会で最近優勝しました」「ジム行きませんか?」「単車弄るのが好きで――」



20名となると、自己紹介だけでかなり長い。たまにおかしい人いるけど。


というか。



「――キックボクサー目指して……」

「――中国拳法を……」

「――アームレスリング大会で……」



さっきから、格闘系の趣味多くない?


ココ本当に戦場じゃないよね……?

ああ、でも。コレだけ強そうな女の人達(失礼?)だと、力を誇示した方が良いんだろうか。



「――最近料理を……」

「――オシャレな人が好きで……」

「――いつも休日はカラオケで……」



対して、女陣営は普通だけど。

夢咲さんの元チームとか聞いてたから少し意外だ――




「――以上です!」




って。

あれ、今20名終わったけど。

順番的には――


「……」


隣には黙り込む彼女。

……夢咲さん、挨拶まだだよね。

腕組んでそのままなんだけど。


「ラスト、とーまとだよー☆」


えっ自分がトリ?

まさかの一個飛ばしかよ!



「は、はい!」



やばいやばいやばいって!!

全然心の準備出来てなかった!!!


――落ち着け。


この時の為に、住民に手伝ってもらったんだろ!

目に焼き付けた自己紹介シートを、今こそ役立てる時だ。

彼らの努力を無下にしてはならない。



「え、えー……」



行け。

そのまま、口を開くんだ。



「初めまして、ポロです(意味不明)」



「「「……?」」」



――迂闊うかつ、だった。


《――「もう一度言うけど、関ヶ原状態なんで自己紹介は手短にお願い☆」――》


その柊さんの言葉が強くあったせいで、全てを省略して訳の分からないことになってしまった)。

これじゃ俺東町ポロだよ(お母さんごめんなさい)。

もしくはポロ一(先代の皆様ごめんなさい)。



「「「…………?」」」



会場が静まり返る。

自分はエスパーかもしれない。この人達が思っている事が手に取るように分かる。


とにかく訂正しなくては――



「すいませんポロは名前で趣味が東町一です! 失礼しました!」



……あれ俺今なんて言った? 何か逆になってなかったか。

しかしそんな事気にしていられない(ポロ連盟の方ごめんなさい)。


今、この合コンで。

俺は止まる訳には行かないんだ(激熱)。


『終わり良ければすべて良し』、そんな言葉があるように。

最後ぐらい完璧に決めて終わるぞ。

全てをひっくり返す勢いで――



「俺の事は――『思い立ったが吉日』と呼んで下さい(キメ顔)。以上です」



決まった。

恐らく人生で最高の挨拶だ。

見てるかスレ住民達。俺……やったよ。



「――ふっ、む、むり……っ! ふはははは!!」

「……ッ」



横で吹き出す柊さんと夢咲さん。

そして未だに固まっている20人。


やりきった。

間違いなく、これでモテる事はなくなったぞ(歓喜)。


ミッション・コンプリート……(恍惚)。



「ふふっ、あー……と、とりあえず! 今から自由時間!」


「気になった人のところに行って色々お話しちゃってね!」


「意気投合して、ココから二人で出たい! ってなったら一声かけてくださーい!」



笑いながらマイクで叫ぶ柊さん。

そして――




「それじゃ、どうぞー☆」




ついにそれは開戦した。

あ、一人は既にリタイアです。

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