天下節目の大合戦
土曜日、昼の15時。
柊さんから言われた、合コンの開始時刻だ。
□
リオ☆『とーまちはちょっと早めに来てー!』
東町一『了解です』
リオ☆『朝3時ぐらい』
東町一『了解です ごめん電車が無い チャリで行きます』
リオ☆『嘘だよ! 大体14時ぐらい!』
□
と、いうわけで待ち合わせの駅前に到着。
10分前だったけど――
「やっほー☆」
「おう」
二人は既に居た。
柊さんは肩出しのブラウスにタイトスカート。オシャレすぎてヤバい。
夢咲さんはパーカーにジャージ。スポーティーな恰好だけど、凄い似合ってる。
……俺浮いてる。間違いなく。
マネキンの服コピーマン(雑魚モンスター)には眩しすぎる。
☆
「……うん、こんなもんかな☆」
「カラオケってこんなスペースあるんだね」
「うん☆ 広めの部屋だとこんな感じになるよ」
合コン会場はカラオケだった。
ぶっちゃけ狭くね? とか思ったけど、全然大丈夫。
余裕で20人ぐらい座れそうな部屋なんだけどココ。
画面もでっか! ミラーボールっぽいのもあるし凄いな(驚愕)。
カラオケなんて、家族でしか行った事なかったから知らなかった。
……クラスメイトとは今日が初めてです。
「つまみ食いしちゃお☆」
「ははは(かわヨ)」
でっかい机には、ポテトフライとかお菓子とかを広げて。
風景だけで見ればパーティー会場みたいだ。
「……」
「ゆ、夢咲さんも幹事なの?」
「……昔のアタシのチームメンバーがな、色気付いてうるせぇからリオに頼んでる」
「ふはは……苺の為とはいえ、今回も中々きつかった……」
「柊さんでもきつい事とかあるんだね」
「うーん☆ 女性陣はすぐ集まるから良いんだけど……男性陣に苦労するんだよね☆ 急に行かないとか言い出したり……意外とチキンな子が多いんだ~☆」
つらつらと話す柊さん。
幹事って大変なんだな……。
「まっ楽しみだけど☆」
「え」
「喧嘩になったら苺が止めてくれるし!」
「ならねぇよ。アイツらがなんとかするさ」
「ふははは! というか逆に倒しそう」
と思ったら楽し気になる彼女。
もう分からん! というか物騒なワードが聞こえたけど――
「――あ、来た」
心の整理など、させてくれる時間はない。
☆
「……(唖然)」
「いやぁ圧巻だねぇ」
「ったく、アイツら結構
俺の目の前。
そこには――
――「レイコお久ー!」「女子校マジ出会いねーわ」「わかる」――
――「き、緊張するぜ……」「可愛い子バッカじゃねーの……」「筋肉は全てを解決する」――
ぶわっと広がるその人達。
男10人。
女10人。
総勢総勢20名――圧巻の景色。
そしてその全ては、世間的に言われる“ヤンキー”っぽい方々。たまーに変な人居るけど、身なりは普通にオシャレだった(敗北)。
熱気立ち込めるこの会場。
まるで、戦国時代の決戦前(人は死なない)。
「え、俺の知ってる合コンと違う……」
「数ヤバいよね☆ わくわくしてきた」
「……コレでも抽選だったんだろ?」
「うん! 流石にこれ以上はね☆」
そう言う二人。
なんでそんな平静を保ててるの?
柊さんに関しては楽しそうだし……。
「……じゃ、時間だし始めちゃおうかな☆」
「おう」
えっ始まっちゃうの?
まだまだ心の準備が――――
「――はーい! それじゃ皆さんちゅーもーく!」
「「「!!!」」」
マイクを手に、柊さんが声を上げる。
その瞬間――静まり返るその者達。
……凄い。きっと彼女のカリスマか……誰も雑談とかしない。
というか、もし喋ったら殺されるぐらいの緊張を感じた。
魔王だ、魔王が居るぞ(敬服)。
ぶっちゃけ校長より強い(ごめんなさい)。
「ふはははは、静まりすぎ! えー、皆集まってくれてありがと! 大体は自由にやっちゃってもらって良いんだけど」
笑う彼女。
未だ鎮まるその会場。
「とりあえず最初だけは、皆一人づつ簡潔な自己紹介していきましょー☆」
「……我こそは一番に自己紹介を――なんて子は居ないね?」
「んじゃお手本。私の名前は柊莉緒! 趣味とバイト兼用で、モデルやってまーす☆ 軽ーくリオって呼んでね! 以上!」
「もう一度言うけど、関ヶ原状態なんで自己紹介は手短にお願い☆」
「……じゃ、そっちから時計回りでゴー!」
20名を前に、段取りよく進めていく柊さん。
俺なんてもう手が震えてるのに、マジで緊張とかしてない。
いつも通りだ。末恐ろしい。
そして、その挨拶のおかげか会場の人達の緊張も溶けたようで――
――「おっ、オレは〇×▲。趣味でボクシングやってます」
――「ワタシは〇×。〇〇高校出身、好きなタイプは筋肉!」
――「柔道の大会で最近優勝しました」「ジム行きませんか?」「単車弄るのが好きで――」
20名となると、自己紹介だけでかなり長い。たまにおかしい人いるけど。
というか。
「――キックボクサー目指して……」
「――中国拳法を……」
「――アームレスリング大会で……」
さっきから、格闘系の趣味多くない?
ココ本当に戦場じゃないよね……?
ああ、でも。コレだけ強そうな女の人達(失礼?)だと、力を誇示した方が良いんだろうか。
「――最近料理を……」
「――オシャレな人が好きで……」
「――いつも休日はカラオケで……」
対して、女陣営は普通だけど。
夢咲さんの元チームとか聞いてたから少し意外だ――
「――以上です!」
って。
あれ、今20名終わったけど。
順番的には――
「……」
隣には黙り込む彼女。
……夢咲さん、挨拶まだだよね。
腕組んでそのままなんだけど。
「ラスト、とーまとだよー☆」
えっ自分がトリ?
まさかの一個飛ばしかよ!
「は、はい!」
やばいやばいやばいって!!
全然心の準備出来てなかった!!!
――落ち着け。
この時の為に、住民に手伝ってもらったんだろ!
目に焼き付けた自己紹介シートを、今こそ役立てる時だ。
彼らの努力を無下にしてはならない。
「え、えー……」
行け。
そのまま、口を開くんだ。
「初めまして、ポロです(意味不明)」
「「「……?」」」
――
《――「もう一度言うけど、関ヶ原状態なんで自己紹介は手短にお願い☆」――》
その柊さんの言葉が強くあったせいで、全てを省略して訳の分からないことになってしまった)。
これじゃ俺東町ポロだよ(お母さんごめんなさい)。
もしくはポロ一(先代の皆様ごめんなさい)。
「「「…………?」」」
会場が静まり返る。
自分はエスパーかもしれない。この人達が思っている事が手に取るように分かる。
とにかく訂正しなくては――
「すいませんポロは名前で趣味が東町一です! 失礼しました!」
……あれ俺今なんて言った? 何か逆になってなかったか。
しかしそんな事気にしていられない(ポロ連盟の方ごめんなさい)。
今、この合コンで。
俺は止まる訳には行かないんだ(激熱)。
『終わり良ければ
最後ぐらい完璧に決めて終わるぞ。
全てをひっくり返す勢いで――
「俺の事は――『思い立ったが吉日』と呼んで下さい(キメ顔)。以上です」
決まった。
恐らく人生で最高の挨拶だ。
見てるかスレ住民達。俺……やったよ。
「――ふっ、む、むり……っ! ふはははは!!」
「……ッ」
横で吹き出す柊さんと夢咲さん。
そして未だに固まっている20人。
やりきった。
間違いなく、これでモテる事はなくなったぞ(歓喜)。
ミッション・コンプリート……(恍惚)。
「ふふっ、あー……と、とりあえず! 今から自由時間!」
「気になった人のところに行って色々お話しちゃってね!」
「意気投合して、ココから二人で出たい! ってなったら一声かけてくださーい!」
笑いながらマイクで叫ぶ柊さん。
そして――
「それじゃ、どうぞー☆」
ついにそれは開戦した。
あ、一人は既にリタイアです。
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