エピローグ:前髪、夕焼けと彼女
テスト後、結果発表後の授業は阿鼻叫喚だ。
それはもちろん答案が帰ってくるから。
その中――満面の笑み(心の中)で結果を待っていた。
「……一位かぁ……」
放課後。
もう何回目か分からない呟き。
夕方、帰宅途中にもそんな声は漏れる。
《――「良かったな」――》
夢咲さんは、柊さんが席に戻ってからそう言ってくれた。
やっぱり彼女はすごく良い人だ。
誰だよ怖いとか言ったの(←)。
□
詩織『おめでとうございます』
詩織『東町君はすごかったんですね』
東町一『いやいやそんな』
□
椛さんからはそんなメッセージ。
嬉しくて消滅するかと思った。
俺、消えるのか……?
ほんと全部夢だったとか止めてくれよ。
ファンタジーモノで、夢落ちでしたみたいなのが俺は一番嫌いだ(個人的な感想)。
「……」
でも。
未だに一番祝って欲しかった
正直ちょっと照れ臭かった。
自分から一位取ったぜYEAR(誰)とか言うのはアレだし。
まあ大丈夫だろう。如月さんから言ってくれてるはず――
――ピリリリリ!
「え」
と思ったら、鳴る着信音。
表示名は『初音桃』。
応答を押す――
「急にごめんね」
「だ、大丈夫」
「今日。いつもの場所と時間で会える?」
通話口、応答を押せば……その言葉。
「分かった」
「ありがと。じゃ、またね」
☆
時計を見れば、19:00。
思えば人生で一番見ている時刻ってコレかも。
待ち合わせの十分前――この時間が。
まあまだ数回だけどさ。
それぐらい、記憶に残ってる。
□
もも『もうすぐ着くね』
東町一『りょうかいです』
□
ベンチから夕焼けを眺める。
日はどんどんと落ちなくなっている。
なんとなく、それが綺麗で写真を撮った。
スマホのフォトアプリで眺めてみる。
「……」
やっぱり自分の目で見る方が綺麗だな。
だって――この虹色が、ね?(ナルシスト並感)。
時間の経過と共に……ほんのちょっとづつ。
東町一という自分自身を、好きになれている気がする。
なんて。一位取ったからって調子に乗り過ぎだね。
思えばこの髪も長くなった。
更に言えば、ヘアアイロン(最近衝動買いした)にてストレート風味にしたせいで視界が髪でヤバい。流石に椛さんほど長くはないけど。
うん、急にオシャレしたくなったんだ。
こう……前髪だけ。本当だ。
我ながら気に入っている。実に陰キャっぽい(陰キャ検定一級獲得者)。
「……いっち」
「あ」
控えめな声。
もはや慣れたそのあだ名。
ベンチの横、立っている彼女に慌てて俺も立つ――
「――人全然居ないし、ここで話そ?」
「え」
そう言う初音さん。
同時に俺の横に座る。
二人用とあって余裕で座れるんだけど……距離が近い!
「いっちはすごいよね。一位だった」
「……あ、ありがとう(照れ)」
そんな風に、近くで言われると視線しか逃げられない。
顔が熱いよ。
いまの気温40℃ぐらいあるでしょ(異常気象)。
「凄く頑張ってたもんね」
「……はは、いやぁ余裕だったよ」
「うそつき」
「ま、まあちょっとだけ頑張ったかな……」
「ちょっとじゃないでしょ」
「……まあちょっとのちょっと上ぐらいで(言語能力崩壊中)」
「……ふーん?」
ああ、嘘が下手くそなんだよ俺は。
ただ如月さんは信じてくれたっぽいし……えっもしかして、バレてた?
「中間テストだよ、しかも一学期。みんな本気出してなかったんじゃないかな」
「……」
「え、えっとですね……ただの自己満足だから」
「……てっきり、わたし達のせいで頑張ったんだと思ってた」
「ははは(高度な会話術:笑って誤魔化す)」
『よく思われたい』。
『頼りにされたい』。
『また誘って欲しい』。
だって、素直に言えば完全に“重い男”だからね。
あくまで余裕スタンスで行かないと。
……本当に。あの勉強会は貴重で、大事なモノなんだ。
それこそ、己の成績なんて下がっても良いと思ってしまう程に。
初めての友達。
初めてのイベント。
心躍って、準備ですら楽しかった。
「……ね、いっち」
「?」
「ありがと」
「! どういたしまして……二人の点数が上がってたら何よりです」
「そっちじゃない」
「え――」
瞬間、暖かいそれ。
思わず初音さんに視線を戻す。
いつの間にか、彼女の手が俺の
「や、やめ……」
力無い声が漏れる。
長くした前髪が目に掛かって、“それ”を隠していたはずなのに。
視界が開け、全てを見られて――
「――酷い“クマ”。ずっと心配だったんだね」
「……ぁ」
「もし五位から落ちたらって考えてたんだよね。ずっと元気なさそうだったもんね。今日まで寝れなかったんだよね」
「ち、違――」
「――違わない」
目が合いながら、初音さんがそう言う。
逃げるなんて出来ない。
己の顔を直視されている。
恥ずかしい。
恥ずかしい。
恥ずかしい。
「全部バレてるよ、いっち」
「……っ」
「目、
「……はい」
ああ。
もう――嘘なんてつけない。
「辛かったよね。ごめんね」
「……だから大袈裟だって、ただの中間テスト――」
「――いっち」
「っ」
「吐き出して良いから。わたしに」
「……!」
「“友達”なんだから――聞かせてよ、全部」
「俺は、何も」
「いっち。聞かせて。我慢しないで?」
その言葉、真っすぐな目。
もう――制御出来ない。
「わたしなら……大丈夫だから」
ため込んで、ため込んで。
奥底に眠らせていたソレは――――今、決壊した。
「……怖かったよ。いくら調子が良くても、間違いはあるんじゃないかって」
「凡ミスも。計算間違いも。応用問題も。全部、不安で仕方なかった」
「不安で押し潰されそうで。もし、五位から落ちたらって――」
「……うん」
「あれだけ大口叩いて、落ちたらって」
「あれだけ楽しかった勉強会が、もう出来なくなると思って」
「二人に会わせる顔がなくて――――」
溢れてくる言葉。
今の俺の表情は、酷く怯えた事だろう。
分かってるよ。でも止められないんだ。
仕方ないだろ。
だから、そろそろ目を離してくれよ。
「ほんと不器用だよね。いっちは」
「……ごめん」
「あはは、そんな顔しないで。謝らないといけないのはこっちなのに」
……ああ、駄目だ。
こんな至近距離で。
これ以上、そんな優しい声をかけないでくれ。
「――ね、いっち。全部知ってるよ」
「わたし達のために、あの日の準備をしてくれたこと」
「わたし達のために、いつもよりテストに必死になってたこと」
「わたし達のために、一人で背負い込んでくれたこと」
「全部、全部。だからね――――」
やめてくれ。
お願いだから。
もう、抑えきれない――
「いっぱい頑張ってくれて、ありがとう」
――夕方。
駅のベンチ。見える彼女と綺麗な夕焼け。
そんな美しい風景は――
今。
全て
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