虹色の不審者①
「ごめんなさい……貴方誰かしら?」
街中。
彼女に話しかけ、存在すら忘れられていた哀れな少年。
それをわたし――『初音桃』は見ていた。
「あ、桃。おかえりなさい」
「あはは~、さっき誰かに話しかけられてたね」
「ええ。悪い事してしまったかしら……」
「別にしょうがないよ」
実を言うと、彼の事は知っている。
一年の頃からちょくちょくあやのんに挨拶とかしてたけど、会話はゼロ。隣の席にもなっていたがロクにアプローチ出来ていなかった。
ぶっちゃけ不審者みたいだった。
名前を『東町一』。
きっと彼も、あやのんの被害者になるんだろうな~なんて思ってたけど。
☆
「え」
ある日の教室。
目に入ったのは虹色の髪色。
まごうこと無き彼だった。
一瞬で変な人リストに入った。
その時は――恐らく精神的にやられて、ぐれちゃったのかなと思っていた。
☆
「……安価で……カレー……」
「?」
そして。
昼休み、あやのんの前で不可解な言葉を呟く彼を見た時。
これはマズいと思った。
もしかしたら、勝手な私怨でストーカーにでも――
「今の時期なら白菜とか安いから和風カレーとかにしても良いかも——」
「――! えっと、ありがとう」
「じゃ、じゃあ!」
「? ええ」
でも、あやのんの天使力で浄化されたのか……普通に会話が始まった。
一安心したけど。
彼は、警戒するべきだと思った。あれだけ挙動不審なのだ。
もしかしたら警察沙汰になるかも――そんな最悪の事態を思い浮かべる。
それを視野に入れながら。
あやのんは、わたしが守ってあげないと。
☆
そして土曜日。今度は、鉄棒でひたすら回ろうとしている不審者が居た。
全く回れてないけど。
二重の意味で空回り……うん、うまいこと言っちゃった。
で、早朝――こんな時間。
もしかしたらあやのんと、かのんちゃんがよくココへ遊びに来る事を知っているの?
だからコレだけ早くから張り込みを?
分からない。
でもその割には凄く一生懸命で――
――「君ちょっと話良いかな?」
「あっあっあっ」――
「あの~、その人クラスメイトなんですけど~」
あまりにもソレだと可哀そうだったから。
お巡りさんに職質されている時、思わず助けてしまった。
「わたし、毎日この時間にランニングしてるんだけど~、君は初めて見たなって」
「……今日から始めたんだ。鉄棒」
「……ん~?」
「なんとなくです……」
「っ……そういえば、なんで俺のこと知ってるんだ?」
「『怪しい人』があやのんに話しかけてたからね~」
「えっ」
「というか、その髪色で知ってるも何もないと思うけど?」
「……あ」
「何か変な人だね~東町君。急にカレーの話し出すし」
「……うっ」
問いただしても、まるで何か隠している様子。怪しい。
でも、不思議と『悪い人』って感じじゃなかった。
分からない。
「――助けてくれてありがとう初音さん。この恩はいつか返すよ」
「っ!?」
急にキリッとしだすし。ちょっと引いちゃった。
なんにせよ……まだまだ怪しい人だ。
☆
そして今日。
あやのんのお願いで、映画館にかのんちゃんと一緒に居た。
そして見つける。
東町君を。
この時、やっぱり彼はあやのんのストーカーだと確信した。
「いっけーーーーー!!」
……そして、後ろから観客と一緒に叫ぶ彼の声で――その確信は崩れかけて。
「で――東町君は、何か見てたの~?」
「え?」
「あ、見る前だった?」
悪戯にかまを掛けた。
大天使であるかのんちゃんと仲良くしていた事への嫉妬ではない。
もしストーカーじゃなくても、あの映画を見ていたなんて言えば……あやのんからすればきっとマイナスになると考えるだろう。
『見る前だ』って言った瞬間――後から問いただすつもりだった。流石に可哀そうだからあやのんと別れた後で。
でも。
「実はさっき、○×キュア見てたんだ」
「え」
「え、何で自分から――」
「――にじいろ!」
「面白かったね○×キュア」
「○×キュアー!」
「みんな頑張ってたね」
自らそれを白状して。
あげくにかのんちゃんと仲良く話して。
「あ。俺も、そろそろ次の映画見に行かないと!」
「「え」」
「それじゃ。えっと、かのんちゃんに初音さん、き、如月さん」
「ばいばーい!」
そのまま彼はスクリーン会場へと消える。
……もう、訳が分からなくなった。
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