虹色の不審者①


「ごめんなさい……貴方誰かしら?」


街中。

彼女に話しかけ、存在すら忘れられていた哀れな少年。


それをわたし――『初音桃』は見ていた。



「あ、桃。おかえりなさい」

「あはは~、さっき誰かに話しかけられてたね」


「ええ。悪い事してしまったかしら……」

「別にしょうがないよ」



実を言うと、彼の事は知っている。

一年の頃からちょくちょくあやのんに挨拶とかしてたけど、会話はゼロ。隣の席にもなっていたがロクにアプローチ出来ていなかった。

ぶっちゃけ不審者みたいだった。



名前を『東町一』。

きっと彼も、あやのんの被害者になるんだろうな~なんて思ってたけど。



「え」


ある日の教室。

目に入ったのは虹色の髪色。


まごうこと無き彼だった。

一瞬で変な人リストに入った。

その時は――恐らく精神的にやられて、ぐれちゃったのかなと思っていた。



「……安価で……カレー……」


「?」



そして。

昼休み、あやのんの前で不可解な言葉を呟く彼を見た時。


これはマズいと思った。

もしかしたら、勝手な私怨でストーカーにでも――



「今の時期なら白菜とか安いから和風カレーとかにしても良いかも——」

「――! えっと、ありがとう」


「じゃ、じゃあ!」

「? ええ」



でも、あやのんの天使力で浄化されたのか……普通に会話が始まった。

一安心したけど。


彼は、警戒するべきだと思った。あれだけ挙動不審なのだ。

もしかしたら警察沙汰になるかも――そんな最悪の事態を思い浮かべる。


それを視野に入れながら。

あやのんは、わたしが守ってあげないと。



そして土曜日。今度は、鉄棒でひたすら回ろうとしている不審者が居た。

全く回れてないけど。

二重の意味で空回り……うん、うまいこと言っちゃった。


で、早朝――こんな時間。

もしかしたらあやのんと、かのんちゃんがよくココへ遊びに来る事を知っているの?


だからコレだけ早くから張り込みを?

分からない。

でもその割には凄く一生懸命で――



――「君ちょっと話良いかな?」

  「あっあっあっ」――



「あの~、その人クラスメイトなんですけど~」


あまりにもソレだと可哀そうだったから。

お巡りさんに職質されている時、思わず助けてしまった。


「わたし、毎日この時間にランニングしてるんだけど~、君は初めて見たなって」

「……今日から始めたんだ。鉄棒」


「……ん~?」

「なんとなくです……」


「っ……そういえば、なんで俺のこと知ってるんだ?」

「『怪しい人』があやのんに話しかけてたからね~」

「えっ」


「というか、その髪色で知ってるも何もないと思うけど?」

「……あ」


「何か変な人だね~東町君。急にカレーの話し出すし」

「……うっ」



問いただしても、まるで何か隠している様子。怪しい。

でも、不思議と『悪い人』って感じじゃなかった。


分からない。


「――助けてくれてありがとう初音さん。この恩はいつか返すよ」

「っ!?」


急にキリッとしだすし。ちょっと引いちゃった。

なんにせよ……まだまだ怪しい人だ。



そして今日。

あやのんのお願いで、映画館にかのんちゃんと一緒に居た。


そして見つける。

東町君を。

この時、やっぱり彼はあやのんのストーカーだと確信した。



「いっけーーーーー!!」



……そして、後ろから観客と一緒に叫ぶ彼の声で――その確信は崩れかけて。



「で――東町君は、何か見てたの~?」

「え?」

「あ、見る前だった?」



悪戯にかまを掛けた。

大天使であるかのんちゃんと仲良くしていた事への嫉妬ではない。


もしストーカーじゃなくても、あの映画を見ていたなんて言えば……あやのんからすればきっとマイナスになると考えるだろう。

『見る前だ』って言った瞬間――後から問いただすつもりだった。流石に可哀そうだからあやのんと別れた後で。


でも。


「実はさっき、○×キュア見てたんだ」

「え」

「え、何で自分から――」

「――にじいろ!」


「面白かったね○×キュア」

「○×キュアー!」

「みんな頑張ってたね」



自らそれを白状して。

あげくにかのんちゃんと仲良く話して。



「あ。俺も、そろそろ次の映画見に行かないと!」

「「え」」

「それじゃ。えっと、かのんちゃんに初音さん、き、如月さん」

「ばいばーい!」



そのまま彼はスクリーン会場へと消える。

……もう、訳が分からなくなった。

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