不審者(直球)
「がんばえーー!!!」
「負けるなーー!!」
「びえええええええ!!」
「……」
朝9時。映画館。
スクリーンでは派手なアイドル服のアニメキャラ達が敵と戦っている。
冒頭のバトルシーンから、響き渡る子供達の声。
こういった映画は、話すのとか叫ぶのが全然OKらしい。
初めて知った。映画館って静かに見るイメージしかなかったからな。
「うおおおおおおおお行けーーーー!!」
「負けるな○×! 負けるな○×!!」
「“俺達”が付いてるぞーーーー!!!!」
だとしても、大きいお友達(おっさん)が一緒に叫ぶのはどうなの?
子供達が一緒にはしゃいでるから悪くはないんだけどさ。
……でも。
悔しいが――ぶっちゃけ熱かった。
幼児向けと侮るなかれ、スクリーンのアニメキャラはかなりの窮地に立たされている。
かつての仲間が洗脳され闇堕ちし、主人公は手を出すに出せない。そのまま何も出来ず時間が過ぎ、味方全てが捕らえられた。当然全員洗脳。
しかし今、主人公は覚醒した。
かつての仲間全員、正義の元に倒す事を決意したのだ。
1対5という圧倒的不利。
だからこそ――
「がんばえーーー!(幼児)」
「負けないでぇ……!!(幼児)」
「うおおおおお俺達も一緒に戦ってるぞ!!!(おっさん)」
「○×頑張れ! ○×頑張れ!(おっさん)」
「いっけーーーー!!(俺)」
今、会場は一つになったのだ。
☆
「……楽しかった……」
息は絶え絶えだが。
その後の同時上映である、無事仲間の洗脳が溶けた後の日常編もまた良かった。
一緒にご飯つくるところとかいいね。なんかこう良すぎて泣きそうになりました(感涙)。
素晴らしい緩急。
☆は5個中10個といったところですかね(上限突破)。
「はぁ……」
エンドロールは短めに。
スクリーンが消えて、会場に電気が灯っていく。
この瞬間結構ノスタルジックで好き。
なんというか。
夢から現実に戻ってきた感じがあって――――
「――ッ!?」
さあ出よう。
そう思った瞬間――前方、先に居た『三人』に気が付く。
思わず俺は顔を俯け座席で隠す。
「はぁ~楽しかったね~『かのんちゃん』。あやのんもお疲れ~」
「うん!」
「疲れたわ……」
如月さんに初音さん。
そしてもう一人……周りの幼児達と同じ年齢ぐらいの子供を挟んで居る。
如月さんは制服とは違う大変可愛らしい私服姿。
初音さんも今朝のジャージと違って、レザージャケットを羽織り女の子らしさが――
ってそんな眼福に浸っている場合じゃない!
どうして此処に!?
いや、それはあっちの台詞だろ!
マズい。
今俺が居る事は、絶対にバレてはならない。
入った時は暗くて気付かなかった。
一体何時から――いや、間違いなく俺が入る前から居た! 大丈夫!
どうする?
どうする――隠れるか? 逃げるか?
いや、隠れるって何処にだよ。
逃げるしかないって!
「ッ――」
荷物を一瞬で片付け逃走。
三人をチラッと見て確認――良かった。あの三人は子供が居るから多分まだまだ時間が掛かる。
これなら、余裕で脱出できるぞ。
「よし……」
ゴミを捨てて、会場から出て――息を付く。
ここまで一分掛かってない。
このあと出てくる彼女達は、万が一俺を見つけてもこの映画を見ていたとは思うまい。
ミッション達成。我ながら完璧だ……(恍惚)。
☆
☆
「……どうしたの桃?」
「ん~? バレてないと思ってるのかな~って思って」
「? 何の話かしら?」
「なんのはなしー?」
「んふふ。何でもないよ~かのんちゃん楽しかった?」
「うん!」
「もう~、かわいい大好き!」
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