事故
「ここ、結構暖かくていいわね」
「猫の気持ち分かった?」
「……ちょっとだけ」
「うそだ~!」
脳がとろける様な会話を楽しみたい所だったが。
今は、手元の液晶のせいで心臓バクバク(余命減少中)。
このスレを立ち上げた時に決めた事。
――『安価は絶対』。
犯罪とか人を不快にさせるモノは流石に除外するけれど。
それこそ、髪を虹色に……なんてレスが来ても実行するぐらいには覚悟を入れていた。
なぜかといえば、変わりたかったからだ。
空気同然、舌打ちされながら席を離されるような一生徒。
そして……誰からも全く覚えられていない、そんな陰キャで終わりたくない。
そう思ったから――このスレを立ち上げたんだ。
□
85:名前:恋する名無しさん
んじゃまず手始めに
「結婚して下さい」
86:名前:恋する名無しさん
展開早すぎwww
87:名前:恋する名無しさん
↓
88:名前:恋する名無しさん
あ
89:名前:恋する名無しさん
ずっと見てました(変態)
90:名前:恋する名無しさん
実はずっと好きでした//////
□
「……」
でも流石にコレは無くない?
というかもう話しかけるの前提なの?
失恋相手だぞ、何告白してんの?
俺としては話しかけるという選択肢から安価にしたかったぐらいなのに。
……でも。
コレぐらいしないと、きっと顔すら覚えてもらえないか――
□
91:名前:1
覚悟は決まった 何でも来い
92:名前:恋する名無しさん
やだかっこいい
93:名前:恋する名無しさん
このイッチ、ガチやね
94:名前:恋する名無しさん
手加減してやるか
95:名前:恋する名無しさん
「今日はいい天気だね」 コレで行こう
96:名前:恋する名無しさん
「良かったらご飯一緒に食べよう」
97:名前:恋する名無しさん
「俺の事覚えてる?」 やっぱ事実確認からよね
98:名前:恋する名無しさん
「好きな本とかある?」 とか
99:名前:恋する名無しさん
「俺の髪色どうよ」 仕方ないなこれで
□
「……ッ」
息を飲み込む。
皆、なんだかんだで優しいもんだ。
これなら。
100も、期待できるはず――
「頼む」
俺はそう呟いて、『
□
100:名前:恋する名無しさん
楽しそうな事やってるな〜
定番だしカレーの具材も安価で決めよう(唐突)
□
「……は?」
□
101:名前:恋する名無しさん
えっ
102:名前:恋する名無しさん
え?
103:名前:恋する名無しさん
おい
104:名前:恋する名無しさん
マジかよ……
105:名前:恋する名無しさん
こんな時に
106:名前:恋する名無しさん
事故ったwwwww
101:名前:恋する名無しさん
えっ
102:名前:恋する名無しさん
え?
103:名前:恋する名無しさん
おい
104:名前:恋する名無しさん
マジかよ……
105:名前:恋する名無しさん
コレあれだよね
106:名前:恋する名無しさん
安価事故wwwww
107:名前:1
……
108:名前:恋する名無しさん
>>100 土下座確定
109:名前:恋する名無しさん
あーあw
110:名前:恋する名無しさん
どうすんの?
111:名前:100
ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんな
112:名前:恋する名無しさん
草
113:名前:恋する名無しさん
どうしようか
114:名前:1
……もう100で良いんじゃない?
115:名前:恋する名無しさん
え
116:名前:恋する名無しさん
マジで言ってんの?
117:名前:1
何でも良いと言ったのは俺だ
100も気にしないで良いよ
118:名前:1
逝ってくる
□
「お手洗い行って来るね~」
「ん。行ってらっしゃい」
今。
如月さんの親友である初音さんが席を立った。
つまり彼女は一人。
その二人用ベンチに座り、弁当箱をつついている。
チャンスなんだ。
だから俺は、壁から身を出しそこへ近付く。
「……」
近くへ俺が来ても、彼女は気付かず箸を動かす。
……『安価は絶対』。
そして過去の『>>5』は、実際に世界を変えてくれた。
だから今回も。
きっと、上手く行くはずなんだ。
「っ……」
「……?」
偶然を装い、彼女の前を横切り第一声。
顔は見ない。あくまで通りがかるだけ。
そしてその――『台本』が掛かれたスマホを見る。
――でも。
今回ばかりは、嫌な汗が止まらない。
しかし止まったらそれまで。
大丈夫。どうせ――俺なんか、訳わかんない事言ってもスルーされるだけだ。
ただの独り言。対面して話すわけじゃない。
行け。
ネタにする覚悟でぶちかませ!
「……た、しそ……事やって、な……」
「カレーの具材も、安価で決めよう」
「(唐突)」
最初はもう言葉にならなかったが、最後は言い切った。
いやもちろん括弧の中は心の中だけども(チキン)。
そして当然彼女の顔なんて見れる訳もなく、そのまま歩き去る。
これでただの独り言を言う通行人として周りからは映るはず。
それでも。
虹色の前髪から汗が滴る。
すまん住民達。
チキンな俺を許してくれ――
「――あの、あなた……」
しかし。
その女神は、俺を許してくれなかった。
冷や汗が止まらない背中に――その美しい声が投げ掛けられる。
「……なん、でしょうか?」
ヤバい奴だと思われた。
そう思って、俺は振り返る事が出来ない。
「安価で、カレーって、言ってたから……」
聞こえてくる声。
あれ?
全然きつい感じの言い方じゃない。
「えっと……」
振り返る。
見れば、天使が居た。
ベンチに座ったまま、自分に目を合わせてくれていて。
鼓動が。
爆発しそうだ。
「安く作れる方法、知ってるの……?」
あの。
これなんか勘違い起きちゃってない?
「あ――」
――考えろ。
彼女は、『安価スレ』なんて言葉を知らない。
というか掲示板の存在も知らないだろう。
だから、俺の独り言を『安く作れるカレー』の事だと勘違いした。
……間違いない。
どういう食い付き方だよと思ったが、もう今は何でもいい!
「そっ、そうそう」
「――どんなレシピなの?」
「……」
「?」
固まる(二回目)。
そして脳をぶん回す。
思い出せ。
過去に眺めたそのレスを――
――――【トップ】――【料理専用板】――【カレー超好き! 59皿目】――
□
340:名前:ばくばく名無しさん
だから何度も言ってるだろ インドに『カレー』は無い
そもそもあっちで香辛料を使った飯が『KARI(カリ)』、そっから英語で『カリー』になって日本に来てカレーになった
インドのレストランでカレー下さいって言ってみろ
□
□
345:名前:ばくばく名無しさん
>>340
あのさぁ
もう何度目か分かんないけど、カレーって名前じゃないだけじゃん
カレーという用語が無いだけで、実際インドにはカレーはあるだろ?
これ以上無駄な議論させないで
□
ああああああああああああ!!
違う!
俺が求めているのはこんな
□
370:名前:ばくばく名無しさん
以外とお肉なくてもカレーって美味しいんだね
玉ねぎさえあればなんとかなるわ ルーって凄いね人類の叡智だわ
最近肉高すぎて暫くこれにしよ
□
376:名前:ばくばく名無しさん
>>370
この前はめんつゆと白菜厚揚げぶっこんで和風カレーにした
むしろ肉いらない
多分邪魔
時代は肉無しですね(おにくたべたいおにくたべたいおにくたべ)
□
つい最近、カレースレを見ていてよかった。
半一人暮らしの俺だからそういったスレは見ていたのだ。
「あ、あー。意外と肉が無くてもカレーって美味しいんだよね」
「でも玉ねぎだけは入れたほうが良いかな」
「今の時期なら白菜とか安いから和風カレーとかにしても良いかも……」
そのままレスを変換して口から吐く。
……どうだ?
「――! えっと、ありがとう」
「い、いえいえ」
「
「それは、どうも……」
コレは褒められているのか?
それとも
分からない。
でも――初めて挨拶以外の言葉を交わせた。
それだけで。
今は、心臓が爆発してしまいそうで。
「……」
「……」
この沈黙に、殺されてしまいそうだから。
「――じゃ、じゃあ!」
「? ええ」
そのまま逃げた。早歩きで。
行先も無く。
……俺、
頑張ったよな……?
――「あんな不審者っぽい人に声掛けちゃダメだよ! 前から言ってるでしょ~!」
……やがて、背後で聞こえたその声は。
今は――聞こえないふりをすることにした(涙目)。
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