C.S.I.S ~沿岸学校捜査局~ season1

ニセタヌキ

[Pre-Open] 1.1

 時間は正午を過ぎたあたり、休日の繁華街は当然のように活気と騒がしさに満ちているが、今日はひときわ騒がしい。

 騒ぎの中心は街角のカフェ、雑に駐車されたグレーのハンヴィー、ドデカい軍用車のフロントグリルの金属ガードに手錠で繋がれているひょろりとした男だ。

 「ちーがうんだって、話聞いてくれって、嬢ちゃん達からも言ってくれって!」

 先ほどから同じセリフしか喚いておらず、車の後ろで事情を聴かれていた警備員も傍の女子学生二人もうんざりしているようだ。

 「ほんとタダの仕事! ビジネスの話なの! なんで警察が出てくんだよ!」

 「ウルセー! 警察じゃねーよ、CSIS、Coast School Investigative Serviceだ、二度と間違えんな黙ってろ!」

 警備員に話を聞いていた黒いショートカットにセーラー服、小柄な高坂 万莉(たかさか ばんり)、バンは男が繋がれているフロント側に回り、騒ぐ男のケツに軽く蹴りを入れる。

 「ぼ、暴力反対! 弁護士! 第三者機関!」

 「そういうのは唱えてもダメなの! あとやらかした奴が言うヤツだからそれ」

 バンがフロント側で男をシバき倒している間、グレージュでウルフカットですらりとしたスタイルで、バンと同じセーラー服な安城 大那(やすき だいな)、ダイナはひょろりとした騒ぐ男をタブレットを操作するペンで指した。

 「そしたらいきなりそいつが隣の席に座ってきた、と」

 「ちげーんだって! 俺はちょっといい話があるって話をだな!」

 声を張り上げる男はバンに締め上げられて苦痛の声を上げた。

 「……それで?」

 「あ、うん、凄く美味しい話がある、私たちならめちゃくちゃ稼げるぞって」

  時折バンの攻撃を逃れて声を上げる男に驚きつつブレザーにおさげの可愛らしい少女が答える、同じ制服で隣に立つ活発的なポニーテールの少女もうんうんと頷いて同意した。

 「それでポケットから葉っぱのたくさん入った袋を出して、これを売る話だって」

 ダイナはコレだねと、どう見ても乾燥した違法植物がパンパンに詰め込まれた透明な証拠品袋を見せる、二人頷きそうだと答えた。

 「バンー、間違いないってー」

 「じゃあなんにも間違ってねーじゃねーか! 営利目的の大麻取締法違反で現行犯だこのアホ!」

 「使わせるんじゃなくて商売タネ売るのが何が悪いんだよ! 使わせるのよりいいだろうが!」

 「うーん、真正のアホだな」

 様子を見守っていた初老の警備員が苦笑いを浮かべる。

 「もうタカギさんが来た時からあんな感じですか?」

 ダイナは警備員へ顔見知りのように声をかける、タカギと呼ばれた警備員はそれに頷いてから後ろのオープンカフェを指した。

 「私が来た時にはもう騒ぎになっててね、お嬢さん二人が嫌がっていたから声をかけたんだが」

 「抵抗したと」

 「うん、罵倒と同時にジャケットへ手を入れたから制圧したよ」

 ダイナはコレですね、と先ほどと同じような証拠袋に入れられた中型のポリマーオート拳銃を示す。

 「そう、捻り上げて手錠かけたら落ちてきてね、移動させるときも足で蹴ってるから大丈夫だと思う」

 「これも登録刻印の無い完璧な不法銃器ですね、役満ドラドラって感じだなぁ」

呆れたように呟いたダイナはそれぞれの証拠袋をハンヴィーのリアゲート内にあるプラスチックコンテナへ片づけた。

 「しかし君らが警察とはねえ、迷子でよく交番に来てた頃が懐かしいよ」

 タカギにそう言われてダイナは肩をすくめて全くですと答える。

 「でも警察じゃないんで、知名度まだ低いんですけど」

 そういってダイナはセーラー服の袖、縫い付けられた青色ベース、四角形の旭日章にCSISと白時で書かれた所属パッチを示した。

 「Coast School Investigative Service、沿岸学校捜査局、CSISってやつです」

 「回覧板で読みはしたんだが、学校警察みたいな感じかね?」

 「んー、まあそんな感じです、捜査もやる学校警察みたいな」

  そうダイナは濁した、場合によっては先手も取る物騒な仕事であることは昔馴染みの面倒を見てくれた相手に伝えるのはためらわれた。

 「もうこんな時間か、私は巡回に戻ってもいいのかな?」

 「はい大丈夫です、もし何かあったら詰所にかければいいですか?」

 「そうだね、今週は昼勤だから連絡は取れると思うよ」

 「わかりました、ご協力ありがとうございます、会社の方には報告メール出しておきますね」

 「助かるよ、金一封でも出るといいなぁ」

 タカギはそう笑いながらカーボンの義足を光らせ巡回に戻っていった。

 「君達もお昼時に災難だったね、もう行って大丈夫だよ」

 何かあったら学校の寮にさせてもらうから、学校に戻ったら事情を話しておいたほうがいいよと伝え、女生徒二人も解放したダイナ。

 「こっちはOK、そのアホ連れて帰ろう」

 「こっちは全然OKじゃねーよ!」

 ハンヴィーの後方座席に入れられまいと抵抗する男をバンがシバき倒すが、男はなかなか諦めない。

 「ぜってーいかねーからな!」

 「いい加減にしろよてめー!」

ぎゃーぎゃーと騒ぐ二人にダイナはため息をついて男に尋ねた。

 「オニーサン、ペースメーカー入れてる? 手帳ある?」

 「はぁ? なめんな生まれた時から健康体だ!」

 「じゃあテイザー撃つね」

 「え?」

 やべ、と呟きバンが飛びのくと同時にダイナは2歩下がり、腰から抜いたテイザー(発射式スタンガン)をぶち込んだ。

 悲鳴と同時に男がけいれんし崩れ落ちる、ダイナはそれを見てテイザーを解除した。

 「オメーどうした、今日はバイオレンスじゃん」

 いきなりやるとは思わなかったぜ、と驚きながら男を座席に押し込むバン。

 「私お昼まだなんだよね」

 バンを手伝いながら淡々と答えるダイナ、バンはメシの恨みはおそろしいなと思いながら男を後方座席に固定した。

 「んじゃランチ替わりに適当なメシ買ってくか、あいつらの分もな」

 二人は車に乗り込み、エンジンを回す、後ろの男がぐったりしているのを確認して発進させた。

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