第6章 最後の命令

第56話 絶望の壁

 機械獣が威嚇する声が聞こえる。

 虎型、熊型、狼型、大猿型、粘液型……。

 様々な形状した機械が僕を排除しようと向かって来る。


 そいつらを一体一体避けていく。

 いつものように。建物や人を避けるように。


 いつもと違うのはやや大きい障害がないということくらい。

 あとはそんなに変わらない。


 メタルイーターは干渉溶液ごと持ってきた。

 少し無茶するくらいなら、破壊されることもない。

 荷物に気を配らなくていい分、むしろいつもよりも楽なくらいだ。


 虎型や狼型が飛び付いてくる時は下に潜り込み、熊型が立ち上がり襲ってくる時はその上を飛ぶ。

 大猿型が岩を投げるなら熊型を盾にして防ぎ、粘液型は触らないように離れる。

 他にも多種多様な機械獣に対して瞬時に判断し様々な方法で避けていく。

 時にはワイヤーと鉤爪型の手を使い機械獣の頭に乗り、そのまま乗り継いでいくこともした。


 心配なのは災害級の機械獣による砲撃。

 だが、


『現状、災害級の機械獣の身体は高熱になっています。鴎型の機械獣も側にいません。

 鴎型の機械獣は給水中だと推測します。

 しばらくはまともに動けないでしょう』


というライトのスキャン結果を信じて、僕らは強気に前に出た。

 鴎型が戻ってくる前に災害級の機械獣の麓まで行けばそう簡単に倒されないだろう。

 灯台下暗しってやつだ。


『目的地付近です』


 突然、機械獣の集団がなくなった。


「熱……っ!」


 更に一気に汗が噴き出るほどの熱気。

 なるほど。災害級の機械獣の熱気だ!


 機械獣はあくまで機械。

 災害級に近づけば近づくほど、この熱気にやられて機能が停止するのか。

 周辺を見ると、所々に動かなくなって熱で赤くなっている機械獣たちが倒れていた。


 ってことは。


「ライトは大丈夫?」


『……問題ありません。限界温度は千度です』


「それってどのくらい?」


『溶岩ほどとなります』


 だとするならこのくらいは問題じゃない。


「災害級の入り口を探そう」


 そう言うとライトは右腕を上げて、掌にレンズ――眼を生やす。

 災害級の機械獣の構造をスキャンしているのだ。


『スキャン完了。災害級の機械獣の内部に入るための入り口を見つけました』


「! よし。なら」


『――しかし……』


「? 何かあるのか?」


 珍しく言い淀むライトに僕は首を傾げる。

 数秒ほど沈黙した後、


『いえ。実際に見てもらった方が早いですね。

 行動を再開します』


「え? あ、ちょっと……」


と足を動かされ始めた。


 僕はライトに駆動部分をほとんど包まれているからライトが動けば自動的に僕も動かざるをえない。

 オートマタなのに言い淀む。

 なんだか嫌な予感がするんだけど。


 その嫌な予感はすぐにわかった。


「……なんだよ……これ……」


 災害級の機械獣内部への入り口は尻側にあった。

 尾の付け根部分というべきか。

 そこに鋼や他の重金属で出来た扉が待ち構えていた。


 しかしその大きさは果てしない。

 更に付け加えると、その扉は。


「どうして閉じてるんだよ……?」


 完全に閉まりきっていた。


『表面温度千度超。厚さ推定1500mm。硬度1200。破壊は困難です』


 開ける手段はひとつしかなく。

 とはいえ再起動それを待てば、更なる被害が出る可能性もある。

 塞がった入り口をこじ開ける手段はなく、シルヴィアさんが立てた作戦は霧散した。


「……倒せない……?」


 僕の頭にはその言葉しか思い浮かばず、立ちはだかる巨大な壁を前にして絶句した。

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