第55話 運び屋として 後編

 靴紐をしっかり結ぶ。

 立ち上がり、運搬する荷物を背負い直す。

 ズシリとした重さを再認識。


 前を真っ直ぐ見ると、巨大な砂嵐が目に見えた。

 ゴクリと唾を呑み込むが、覚悟はできている。


『エネルギー充填。準備完了です』


 飲み干した輸血パックを握り潰し、ライトは僕を包む。


「準備できたか?」


 シルヴィアさんが眉を顰めながら僕の後ろに立っていた。


「はい」


「そうか。……すまないな」


「? 何がです?」


「君に任せっきりにしてしまったことだ。

 本来なら……。

 討伐隊支部長として情けない限りだ」


「……そんな謝らないでください。シルヴィアさんらしくない」


 僕は今できる最大限の笑みをシルヴィアさんに見せる。


「安心してください。必ずします」


 エルガスの住民として、運び屋として。

 この依頼は絶対に成功させ――。


「イタッ」


 急にシルヴィアさんに小突かれた。

 何をするんだ、とシルヴィアさんを見ると、少し悲しげな顔をしていた。


「私の経験上、『必ず成功させる』と言った奴は大抵、死ぬ」


「! あ、いえ。そんなつもりじゃなくて、ですね!

 僕も死ぬつもりなんてないですから」


「わかっているよ。私から言えるのはひとつだけだ。

 失敗してもいい。だから必ず生きて帰ってこい!」


「……! はい!」


「エルガスを頼む」


 僕は何も言わず振り返る。

 荷物の中は『メタルイーター』。

 目指す発達先はケーテン砂漠の中央だ。

 僕はシルヴィアさんから借りたゴーグルをつけると、足に力を込めた。ライトがそれに反応して加速する。


 死ぬなんてごめんだ。必ず生きて帰ってやる。





 シルヴィアさんに作戦は単純明快だった。

 つまりは、五千体のメタルイーターを災害級の機械獣の懐まで運ぶということ。

 シルヴィアさんからはだいたいの状況は聞いた。


 モニターでMEランサーの失敗の一部始終を見たシルヴィアさん。


 すぐに原因と対策を分析していたらしい。

 その直後に砲撃があったからみんなに伝えることも、検証もできていないらしい。


 けれど要となるメタルイーターはなんとか生き残らせた。


 無謀にも砲撃を防ごうとしたのは、討伐隊を護るためもあったが、このメタルイーターを死守するためだったのだ。


 シルヴィアさんは言う。


「機械獣の表面の電撃によって一発目は破壊されたが、その直後に機械獣を砲撃したということは、あくまで電撃は表面だけだと考える。

 内部にまで放電していたらあの虎もまともに動けていないだろうからな。

 そして災害級の機械獣の周りにはが囲んでいる。

 ということはあいつらが入る入り口がどこかにあるはずだ。

 そこから侵入しメタルイーターを内部に置けば災害級を破壊できる」


 そこを見つけてあのバカでかい亀を腹から喰い散らせ。



 その作戦をできるのは――。

 安全にメタルイーターを運ぶのも、大量に闊歩する機械獣を避けるのも、そして災害級の機械獣をスキャンして入り口を見つけられるのも。

 現状、僕しかいない。


 あのシルヴィアさんが頼んできたんだ。

 生きて帰ってこいと言われた。

 けれど、多少は無茶をしても許してほしい。


 これはただ『災害級の機械獣の腹にメタルイーターを届ける』仕事。

 運び屋の範疇に他ならない。


「見えた!」


 一見してかなりでかい山。

 そしてその前には見たこともないほどの大量の機械獣の群れ。

 みんなこっちを見ていた。


 でも考えろ。これはただの障害物だ。

 ライトと一緒にいて数ヶ月。

 建物や人という障害を避け、飛んで、高速に、荷物を運んできた僕だ。


 運びの作業としては変わらない。

 ただ邪魔してくるだけだ!


「突っ込むぞ」


 運び屋として、この依頼は成功させてやる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る