第34話 最前線の野営地 前編
「ほら、食いな!」
「あ゛り゛がどう゛ござい゛ま゛ずぅぅ……!」
ケーテン砂漠の討伐隊野営地にある炊き出し場。
そこにいたおばちゃんから器を受け取る。
暖かいシチューの匂いに食欲がそそられる。
1日ぶりのまともなご飯!
強烈な飢餓感があるからか超久しぶりにありつけるような感じがして、自然と涙がこぼれ落ちた。
「いただきます! ……あれ?」
おかしい。
さっきまで暖かいシチューが器の中にたっぷりと入っていたはずなのに、もう無くなっている。
口には付けた。口の中にもほのかに潤いが戻っている。
けれどまだお腹が空いている。
となれば、次にする行動はひとつ!
「おかわりをお願いします!」
「!? もうかい? さっき注いだばかりじゃないかい!?」
おばちゃんは目を丸くして、驚いている。
だけど、すぐにおばちゃんは厳しい目つきに戻る。
「でもダメだよ。ここの食料には限りがあるんだ。
あんたがおかわりしてしまったら、エルガスを守ってくれる討伐隊に満足な食事を与えられなくなってしまうよ」
「そんなぁ~……」
でも確かにその通りだ。
僕はただの運び屋。
僕よりも討伐隊の方が重要だ。
僕のせいで食料がなくなってしまったら、彼らの命にかかわることになってしまう。
ぐうぅぅ……。
お腹が鳴った。シチューを食べたことで胃腸が働き始めた。
でもまだ栄養が足りないから、身体が悲鳴を上げているのだ。
『エネルギーが不足しています』
ライトももう機能停止寸前だ。アラートの感覚が短くなってきた。
『殺しますか――』
ダメだよ。
早く。どうにかして、ご飯を……。
「なんとかなりませんか?」
「こればっかりは無理だよ。討伐隊の兄ちゃんたちも我慢してるんだ。
あんたも我慢しな」
おばちゃんは厳しくそう言う。ここでは諦めるしかないか。
仕方がない。少しここで休ませてもらったら、すぐにエルガスに帰らせてもらおう。
「――そう言ってやるな」
そう考えていると、後ろから冷静な声と共にこちらに歩いてくる声が見えた。
「シルヴィアさ~ん……!」
振り返ると、白銀の髪を綺麗に靡かせた戦闘服姿の支部長が僕の前にやってきた。
おばちゃんはスープの器を持ち、もう片方の手で持ったおたまでシチューをかき混ぜると、
「シルヴィア支部長。あんたもシチュー食べるかい?」
だけど、シルヴィアさんは「いや、いい」と首を振り、
「それよりもレオにもっと上げてくれ」
「えぇ? でもあの子はさっき食べたばかりだよ?」
「構わない。こいつは運び屋だが、優秀だ。
エルガスからここまで重く精密な荷物を持ちながら、私にくらいついてきた。
おかげで半日も短縮して、荷物を届けられたのだ。報酬を与えてやらないとな」
「!? あのシルヴィア支部長に、かい!? そりゃあ頑張ってねぇ」
おばちゃんはまた目を見開いて、僕を見てきた。
シルヴィアさんの走る速度は討伐隊では周知の事実なのだろう。
「荷物も整備班に確認させた。問題はなかったそうだ。
報酬が食事なら安いものだ。好きなだけ食わせてやれ」
「でも支部長? ここの食糧にも限りがあるんだ。それをこの子に食べさせちゃったら、すぐに無くなっちゃうよ?」
「それも問題ない。こんなことがあろうかと、エルガスを出る前に備蓄の追加を頼んでおいた。
2、3日もすれば、また元に戻るよ」
2,3日以内に作戦が終えるかもしれないしな、とシルヴィアさんは付け足す。
「そういうわけだ。存分に食わせるといい」
「……そういうことなら」
おばちゃんはため息を吐くと、僕の器を奪い取る。
「なら、腕によりをかけて作ろうかねぇ!
ちょっと待ってな! それまでは二杯目で我慢しておきな。大盛りにしておくから」
器いっぱいにシチューを注ぐと僕に渡し、腕まくりして調理台へ戻っていった。
「ありがとうございます!」
僕は器いっぱいに注がれたシチューを両手で持ちお辞儀すると、シルヴィアさんの方を向く。
「シルヴィアさんもありがとうございます」
「なに。問題ない。ここまで私についてこれたんだ。しかも荷物も無事だ。
この頑張りに対しては何かしなくては、採算が合わない」
シルヴィアさんは表情を変えずに言う。
「それより早く食べるといい。冷めてしまうぞ」
「はい。それじゃ……」
スプーンを手に持ち、今度はゆっくりとシチューを飲む。
うん。おいしい。
「それじゃあ私は行く」
シルヴィアさんはそれを見届けると、僕にそう言う。
やはり最前線の野営地。
着くや否やシルヴィアさんは忙しそうにあちこち行ったり来たりしている。
その合間を縫って、僕に挨拶しに来てくれたのだろう。
シルヴィアさんは僕に挨拶し終えると、作戦室も兼ねたテントに足早に向かおうとしていた。
「あぁ。そうだ」
と思ったらすぐに立ち止まり、僕の方を振り向く。
「なんでしょうか?」
「食事を終えたら、私のところに来い。
エルガスまで君を送り届ける手筈を整えておく」
「! わかりました。ありがとうございます」
僕は感謝の意を伝えると、シルヴィアさんは軽く手を振って今度こそ去っていった。
僕はシチューをもう一度飲む。
これで僕の仕事は完了だ。
初めての外での運び屋作業は成功と言ってもいいだろう。
エルガスを護るため、ここにMEランサーのパーツを運んだ。
ここからは討伐隊の仕事だ。
きっと僕の運んだパーツを組み込んで、早々に災害級の機械獣を倒してくれるはずだ。
あとはゆっくりとエルガスまで戻ろう。
行きは急ぎだったから外の景色をあまり見れなかったから。
帰りは景色を楽しめればいいな。
あ、でも機械獣を倒すのを見届けるのもいいな。
いや、でも邪魔になったらいけないし……。
そんなことを考えながら、僕はゆっくりシチューを食べた。
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