第22話 フリーランスの運び屋

「良いんじゃない? 別に」


 武器工房トランスに戻った僕はさっそくキャリ姉にさっきの出来事を話した。

 つまり、タンクさんのところの荷物も運べ、と頼まれたことだ。


 キャリ姉は今の僕の雇用主だ。

 さすがにそんな人に相談なしで決めることはできない。

 それを名目にタンクさんのところから逃げてきたんだけど。


 で、そしたらこの一声だ。


「え? 本当に?」


 僕は目を丸くしてキャリ姉に聞き返した。


 作業場で武器の整備していたキャリ姉。

 ひと段落したのか、立ち上がり伸びをしながら僕の方を向いた。


「うん。レオが良いなら全然」


「で、でもそしたら僕は専属じゃなくなるし、トランスの荷物を届けるのも遅くなるよ」


「それくらい別に平気だよ。うちは個人店だしね〜。

 最近は多いけど、発送も少ないからレオにそんな頼むことはないし……」


「えー……」


「レオだってちょっと暇そうにしてたじゃない」


「そりゃ……そうだけど」


 トランスから発送される頻度は1日に3〜4回程度。

 キャリ姉が1人で作業してるからしょうがない。


 そんなわけだから、僕は時間を持て余す日が割とあった。

 ライトのおかげ、ということもあるけど。


「レオはエルガス内をほとんど担当してたでしょ?

 そんな運び屋をこんな小さな工房で使い余すのはもったいないなぁってちょうど思ってたのよ」


「そうなの?」


 でも今、エルガス内ではフェデック以外の運び屋は信用されていない。

 従業員ではなくとして僕が働けばモグリ認定され信用されずに受け取ってもらえなくなる。

 そんな懸念をキャリ姉に伝えると、


「それってサムエルが勝手に言ってるだけでしょ?」


「!!」


「別にフェデック以外の運び屋がいちゃいけないルールなんてないし」


「いや……それはそうなんだけど」


 シルヴィアさんにも同じようなことを言われた。

 だけどこれまでは武器工房トランスの従業員という大義名分があったから。

 それが無くなるとなると、一気に不安が増す。


 僕はまだサムエルさんを裏切ってはならない人物と感じている。

 元とはいえ、僕の勤めていた会社の社長というイメージがなかなか払拭できないのだ。

 それに恩義ある先代社長の息子さんというのもあった。

 なるべく波風は立たせたくない。


 そうやって口をもごもごとさせていると、キャリ姉が大きくため息を吐いた。


「あのね、レオ。私の商品を運んだ時点でもう亀裂はできてるからね」


「うぐ……っ」


 痛いところを突かれてしまった。

 てかそれをわかっていながら、荷物を僕に運ばせたのか。

 そういえば一番初めの討伐隊への荷物の発送。

 時間がないって言ってたけど、まさか!


「そのまさかよ」


「ちょっとキャリ姉!」


「こうなったら一社や二社、増えたところで大して変わらないよ。

 それにそろそろサムエルさんにも気付いてもらわきゃね」


「何を……?」


「あの暴走オートマタだよ。この街で走らせても損にしかならないってわからせなきゃ」


 それは直談判じゃダメなのか、と思ったけど、サムエルさんのことだ。

 聞く耳を持ってくれないだろう。


「そもそも! エルガスで運び屋会社がひとつしかないのがダメなのよ」


 だんだんと白熱してくる。

 うん。なんだか、嫌な予感がするな。


「このままじゃサムエルはどんどん傲慢になる。

 この街にはフェデック以外の別の運び屋が必須!」


 拳を握って熱弁するキャリ姉は、それから、僕を指差す。


「だからあなたがなりなさい」


「ぼ、僕……? 会社なんて作れないけど……」


「いや、会社なんて作る必要ないよ」


「え?」


「要するにフェデックに所属しなければいいんだから。

 というかどこにも所属しない運び屋になればいい。

 云わば、フリーランスの運び屋ね!」


 なんかすごい話になってきたぞ。


「それだったら個人でもできるでしょ? 身ひとつあればいいんだから」


 いや、でも待て。


「で、でもそれってもしキャリ姉やタンクさん以外のとこともそういう契約したら、忙しすぎるというか、一日で全部運びきれなくなる!」


「あら? レオは私達以外とも契約してくれるの? それは願ったり叶ったり」


「そういうわけじゃなくて……!」


「安心しなよ。レオはひとりなんだし、そこら辺は緩くても許してくれるって!

 そもそもライトちゃんだったら可能よね?」


『可能です』


「ラ、ライト!?」


 キャリ姉が僕の右腕に話しかけると、ライトは即答する。


『エルガスの敷地内であれば、250件であれば当日発送することが可能です』


 それって業務時間8時間内で、てことだよね? ね?


「よし。じゃあ決まりね!」


 キャリ姉は腰に手を当て、ニヤリと満面の笑みで僕を見る。

 はぁ。こうなったら説得は無理だ。梃子でも動かない。


「そう落ち込まないでよ! 私もスケジュール調整とか宣伝くらいだったら手伝うしさ」


「……わかったよ」

 

 僕は観念したように項垂れながら、返事をした。

 まぁ、キャリ姉の言う通り、ライトがいるならなんとかなる……かな……。


「よし。そうと決まれば行動あるのみ!

 明日、知り合いのお店、色々回ってみるね~!」


 こうして僕は専属運び屋からフリーランスの運び屋になった。

 この日から僕はフェデックとは関係のない運び屋として、エルガスをあちこち飛び回ることになった。

 キャリ姉が営業上手なせいで死ぬほど忙しくなったのは、また別の話だ。

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