フェックス番外編 〜彩葉(19歳)と彩葉(7歳)〜

天王寺 楓乃

成長した娘の姿を父に…

東京都昭島市。

4月2日は彩葉の誕生日で19歳となった。


東京の大学に進学した彩葉は、東京の生活にようやく慣れてきたところだ。

厳密には東京自体には3月から引っ越して来ていたが最初は生活の環境が変わって大変だった。

茨城と違って車やバイクがなくても公共交通機関で生活が出来てしまう東京は、多摩エリアとはいえ茨城なんかよりずっと交通のインフラが整っている。

その為、ちょっと買い物に行く程度だとバイクを使うより自転車か徒歩の方がよっぽど効率的だったりする。

逆に車やバイクを利用すると駐車料金が発生して無駄な出費となってしまう。

それが理由で気軽にバイクに乗れなくなったのが彩葉にとっては寂しいような悲しい気分だった。


時刻は21時。

多摩川を見渡せる彩葉のアパートは、目の前が川沿いのサイクリングコースになっていて部屋の窓から彩葉の愛車のZ750FXがカバーをかけられて停まってるのが見える。


「最後に乗ったのは…先週だったかな…」


彩葉がそう呟くと、スマホのLINEの通知が鳴った。

LINEの相手は高校時代のバイク仲間で親友の二階堂愛琉だった。

愛琉は、親族のゴタゴタで1人で生きていくしかない従姉妹の妹の祖父からの頼みを守る為に単身で静岡に行っている。

愛琉からのLINEの内容はこうだ。


「おっす!オラ愛琉!バイク乗ってっぞー(笑)……冗談はさておき久しぶりね、彩葉?最近の調子はどう?」


相変わらずふざけたやつでちょっと彩葉は安心した。

LINEのやり取りを続けてると、愛琉は従姉妹の妹のことを話してくれた。

どうやら愛琉は従姉妹といい感じの距離感で付き合って行くことになったらしくアイツなりに楽しくやってるようだった。

それに比べて今の自分は楽しくやってるんだろうか…


果たして東京に進学したことは正解だったのだろうか?

生活の為に高校の時に普通二輪免許を取得してバイクの便利さと同時に走る楽しみを覚えた。

それが東京ではどうだ?

地方に行く時はバイクがあった方がいいが、日常生活ではほとんど必要にならない。

悪いことではないが、今の自分のバイクライフ的にはどうなんだろうと考えるようになった。


「うーん、ここ最近はなんかバイクもろくに乗れてないし微妙」


とりあえず愛琉にLINEを返信すると、すぐに既読がついたと思ったら急にLINE通話の着信が入った。

「もしもし、急に何よ?」と彩葉が電話に出ると、久々にアホなテンションの愛琉の声が電話越しに聞こえてきた。


『しもしもー、何よ何よバイク乗れてないの??まぁ東京だから乗る頻度は減るよねぇ…てか、誕生日おめでとう(笑)


愛琉とのくだらないやり取りをするのも久々でなんかホッとしたし安心した。

愛琉に今のモヤモヤする気持ちの原因を話してみると、人生には自分が思ってるのと違うと思う瞬間や時期が必ずあるものと言われた。

確かにその通りかもしれない、なんでもかんでも自分の思い通りにはならないし我慢することもある。

愛琉とはなんだかんだ1時間くらい電話してしまい、明日はやることがあるらしいのでぼちぼち電話を切った。


彩葉もそろそろ寝ようと思い、部屋の電気を消して就寝した。

いつもならすぐに寝れるはずなのに、今日に限って寝れなかった。

すると、青白い光の玉のようなのが仰向けで横になっている彩葉の目の前に突然現れた。


「如月彩葉さんですね?私は時を操る者です、突然ですが如月さん?あなた過去に戻って会いたい人がいたりしませんか?」


彩葉はめちゃくちゃ不思議な気分だった。

目の前の意味不明な光の玉が、自分の考えを見透かすように喋りかけてきた。

何なんだ?この不気味な光の玉は…


「あなた何者なの?まぁ…いいわ、私が1番会いたいのは亡くなった父よ」


光の玉にそう言うと「かしこまりました、それでは過去に戻りましょう」と光の玉が言うと白い光が強く発光すると彩葉はある場所にワープした。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜 12年前 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


彩葉は目を覚ますと天気の良いどこかの山のパーキングの木のベンチの上で横になって寝ていた。


「うぅ…どこ?ここ?」


周りには人がそれなりにいてこんなところで寝ていた自分を不思議そうにチラチラ見ている人もいた。

なんで私はこんなところで寝ていたんだろう?とまだうまく働かない頭で状況を整理すると、自分の部屋で寝ようと思ったら謎の青白い光の玉に過去に連れてこられたんだっけ?


彩葉はそんなアホなことあるわけないと思って周りを見渡すとなんと明智平ロープウェイと書かれていた。


「えっ…ここってもしやいろは坂!?」


慌ててスマホを取り出してカレンダーを確認しようとしたらさらに驚いた。

なんと圏外だったのだ…

彩葉がいたのは2025年の令和7年、もし過去にタイムスリップしてるのであれば!?と思ってすぐ近くのお店に入りカレンダーがあるか確認したところ、2013年のカレンダーがあった…


「嘘でしょ…本当に12年前…しかも10月20日!?……私がお父さんといろは坂に行ったときだ…」


彩葉はようやく状況を飲み込めた。

本当に過去にタイムスリップしていたのだ、しかも彩葉が7歳の時に父親の啓司とツーリングしたときだ。

ちょうど紅葉のシーズンだったし、10月に行ったことも覚えてる。

確かあのときは、啓司が1人でいろは坂の下りを思いっきり走りたいと言うからここの駐車場で顔見知りになったライダーさんに7歳の彩葉が興味津々になり少しの間、面倒を見てもらってる間に啓司がいろは坂の下りに行ったことを思い出した。


とりあえず彩葉は、先ほど寝ていたベンチの方に歩くと近くにはなんと自分のFXが停まっていた。

そして少し離れたところには、彩葉にとって絶対見間違えるはずのないバイクが停まっていた、Z400FX…啓司のFXだった。


高1の時に不慮な事故で大破してしまった父の愛車が綺麗な状態の姿で停まっているのを見て、つい見入ってしまった。

啓司のFXを少し離れた所から見ていると、太ももを指でツンツンされたのでそちらを振り向くとサラサラボブヘアの美少女がいた、というより7歳の彩葉だった。

彩葉は子供の自分を見て思わず「え!?」となってしまったが、なるべく不自然な振る舞いをしないように気をつけて対応した。


「ねぇねぇ、この大きなバイクってお姉ちゃんの??かっくぃぃ!」


7歳の彩葉が無邪気に聞いてきた。


「うん、そうだよ!…お嬢ちゃんはバイク好きなの?」


19歳の彩葉は、7歳の自分に目線を合わせて言うと「うん、だいすきいい!!」と満面の笑みではしゃいでる姿を見て我ながら昔の自分が可愛すぎると思ってしまった。

こんな天使が、今ではナナハンのライダーなんて考え方を変えたらどこで道を間違えたんだろうと思ってもおかしくはない。


「シートに座ってみる?」


19歳の彩葉がそう言うと「いいのー!すわるー!」と言うので7歳の自分を抱き抱えてシートに乗せると「お父さんのバイクよりおっきいい!」と喜んでいる。

7歳の彩葉が満足したのかバイクから降りたいと言うので、19歳の彩葉は再び抱き抱えて降ろしてあげた。

7歳の彩葉に「お父さんは??」と聞くとタイミング良く向こうから歩いてくるのがわかった。

啓司の姿を見たときに彩葉は、久々に目の前で父の姿を見ることができて泣いてしまいそうになったがグッとこらえた。


「彩葉ここにいたのかー、ダメじゃねぇか!勝手にふらついちゃ!……いやぁ、どうもすみませんね…うちの娘が」


いや、自分もあなたの娘なんだが…と内心思ったが自分の正体を言うわけにいかないので、ここはあえて他人のフリをした。


「いえいえ、私は全然大丈夫ですよ〜。彩葉ちゃん…だっけ?お父さん来たよー」


19歳の彩葉が7歳の自分にそう言うと、膨れっ面で「もっとお姉ちゃんとお話したいー」と駄々をこねるので19歳の彩葉は啓司に「もう少し娘さんとお話しますよ」と言うと7歳の彩葉がやったーと大喜びで騒いでいる。


「はぁ…やれやれ(笑)、ちょっと自分いろは坂の下りを走ってきたいんですけど…お姉さんが大丈夫でしたら戻ってくるまで彩葉のことをお願いしていいすか?」


啓司が7歳の彩葉の面倒を見ていてくれと言うので「全然大丈夫です」と快く承諾した。

啓司は頭を下げながら自分のZ400FXの所へ行くと、エンジンを始動した。

トーキョー鉄管の激しい集合サウンドが鳴り響いてるのを聞いて、彩葉は高1の時に乗っていた父のFXを思い出した。

啓司はヘルメットを着用してバイクに跨ると第二いろは坂を中禅寺湖の方面に走っていった。


「お父さん、どこ行ったの?」


7歳の彩葉が19歳の彩葉に不安そうに聞いてくるので「1人で走りたい所があるみたいだよ」と言うと納得したみたいで、19歳の彩葉の手を握ると7歳の彩葉が売店の方へ行きたいらしく一緒に行くことにした。


「お団子食べたーい」


7歳の彩葉がそう言うので、日光いろは坂名物の明智だんごを2串買って19歳の彩葉が最初寝ていた木のベンチで座って食べることにした。


「お団子おいしー!ねぇねぇ?お姉ちゃんはなんでバイクに乗りたいと思ったの??」


7歳の彩葉が明智だんごを食べながら聞いてきたので、これくらいは話してもいいだろうと思って話すことにした。


「お姉ちゃんが高校生になった頃には、既にお父さんもお母さんも死んじゃってて…歳の離れたお兄ちゃんがいるんだけどお仕事の都合でちょっと遠くに行くことになって1人暮らしになったから、16歳になったときに免許を取ってバイクに乗って生活用品の買い出しとか学校に通ったりするようになったのがキッカケかなぁ」


7歳の彩葉に話したら「うわー!お姉ちゃんカッコいい!」と嬉しそうに聞いてくれた。

自分自身に話してるのになんだかこっちまで嬉しい気分になった。


「私も大きくなったらお父さんのバイクを運転して、今度はお父さんを後ろに乗せてあげたいなぁ」


7歳の彩葉はそう言うと明智だんごのラスイチを食べて「お姉ちゃん、ごちそうさま」と言うと19歳の彩葉が完食した串を一緒にゴミ箱に捨ててきてくれた。

今度はお父さんを後ろに乗せてあげたいと聞いたときは、涙が溢れそうになった。

それが叶わないことがわかっているから…


「彩葉ちゃんの後ろに乗せてくれたら、お父さんきっと喜ぶよ」


それでも19歳の彩葉は希望を失わせるような発言など絶対にできるわけなかった。

それから2人でいろんな話をしていると、啓司のZ400FXの音がこっちに近づいてくるのがわかった。


「おっ、彩葉ちゃんのお父さん帰ってきたね」


19歳の彩葉がベンチから立ち上がると、啓司は彩葉のZ750FXの隣に停めた。


「いやぁ、楽しかった!お姉さん、彩葉の相手してくれてありがとね!」


啓司は礼を言うと、7歳の彩葉が走って啓司に「おかえりー」と抱きついた。

19歳の彩葉は、これ以上2人と関わるわけにもいかないなと思った時に7歳の彩葉が「お腹痛い、トイレ!」とトイレの方へ1人で走っていった。

啓司と19歳の彩葉が2人きりになったときに、啓司が少し真面目な顔をして聞いてきた。


「なぁ?こんなオカルトやSFみたいなこと普通じゃあり得ないけどさ?、お姉さんって…もしかして彩葉か?」


啓司から驚きの言葉が飛んできて、あからさまに彩葉は同様した。

もうダメだ…これ以上隠すことはできない。

正直に話そうと彩葉は覚悟を決めた。


「…よくわかったね、お父さん。私は彩葉だよ、19歳になったよ」


彩葉の言葉を聞いて「やはりそうだったか」と啓司はバイクに寄りかかりながら言った。


「顔がめちゃくちゃそっくりだし、彩葉?お前って実はオッドアイなんだよ。よく見ると片方の眼が青みがかってるんだ。それを見たときになんとなく確信したんだ」


流石は父親、全てお見通しだった。

彩葉は過去に来た経緯を全て話した。

謎の青白い光の玉によってタイムスリップしたことや東京の大学に進学して19歳の誕生日にこの時代にやってきたことを。


「やれやれ、話してしまったようですね」


突然、青白い光の玉が彩葉と啓司の前に現れた。


「安心して下さい。私のことはおふたり以外には見えていませんし、私と会話してることも周りの人には気づかれていません。彩葉さんに言ってませんでしたが、万が一この時代のお父さんと御自分に未来から来たことを話してしまった時の為に私はその部分だけの記憶を消すことができます。ですからその点はご安心して会話をお楽しみ下さい。では…」


それだけ告げると青白い光の玉は消えていった。


「あれが彩葉をこの時代に送ってきたやつか?あんな光の玉が喋ってることが驚きだし、タイムスリップしてくるのもなんか納得だな(笑)…でもよ?こうして19歳になった彩葉と出会えて親父としては嬉しいぞ!しかも、ナナハンのフェックスなんて渋い趣味してんじゃねぇかよ」


啓司は素直に嬉しそうだった。

その姿を見てこうしてタイムスリップしてきたのも悪くないなと彩葉は思った。

啓司は続けて答えにくいことを聞いてきた。


「それはそうと、そっちの時代の家族みんなは元気にしてるか?」


いちばん聞かれたくなかったことだ…

確かに彩葉が元の時代に戻る際に記憶は消されるとはいえ、既に啓司達は亡くなってると伝えるのは気分が良くない。


「あんちゃんは元気にやってるよ、仕事の都合で今は山梨にいる。…お父さんとお母さんは……その…」


言葉を詰まらせて俯いた彩葉を見て、啓司はこれ以上聞いてはいけない気がして「彩葉、わかった…それ以上は何も言うな」と察してくれた。

彩葉は話題を変えるように高校の時のことを啓司に話した。

免許を取るのにいろんな人が協力してくれたこと、ナナハンに乗る前は啓司のZ400FXに乗っていたこと、バイク仲間の親友が出来て遠くまでツーリングしたこと、啓司の親友の剛がやってるバイク屋でバイトをしてたことなど多くの思い出を啓司に話すと、何も言わずに黙って微笑んで聞いてくれた。

彩葉がある程度話し終えると啓司が言った。


「彩葉が元気にバイクを楽しんでてくれて良かったよ。もう俺はそれが知れただけで満足だ!会いに来てくれてありがとう」


啓司の言葉に彩葉はとうとう堪えきれなくなり、眼から涙が溢れ出た。

彩葉は人目を気にすることなく啓司に抱きついた。

泣いて抱きついてきた19歳になった娘の頭を黙って撫でる啓司の目にも涙が浮かんでいた。


「会いたかった…もうずっとお父さんに会っていろいろ話がしたかった!私がフェックスに乗るキッカケになったのはお父さんのおかげだよ!」


彩葉は泣きながら言うと「そうか、気をつけてこれからも楽しめよ」と言うと彩葉は首を縦に振って頷いた。

数分から啓司に抱きしめてもらったあとに、ようやく彩葉は落ち着いた。

すると青白い光の玉が再び現れて彩葉に言った。


「そろそろ元の時代に戻る時間になりました。そろそろ7歳の彩葉さんも戻ってきます。まだ7歳の彼女には、今の話はしない方がいいと思います」


彩葉も確かに7歳の自分には言わないほうがいいと思っていたので、そろそろ元の時代に戻る準備をする。

すると、トイレに行っていた7歳の彩葉が啓司と19歳の彩葉の元へ戻ってきた。


「ふぅースッキリしたぁ!…あれ?お姉ちゃん帰るのー?」


7歳の彩葉が聞いてきたので、19歳の彩葉は自分のZ750FXのエンジンを始動した。

啓司と同じトーキョー鉄管の音が響き渡る。

400ccと違い750cc特有の音圧のある太い音が7歳の彩葉の体に伝わったのか「ふぉぉ!かっこいい!!」はしゃいでいる。


「おぉ!トーキョー鉄管か!マフラーまでいい趣味してやがるぜ!それにしてもナナハンはやっぱ音すげぇなぁ(笑)痺れるぜ…」


啓司も娘が自分が好きなマフラーを付けてることに喜んでいる。

19歳の彩葉は最後に7歳の彩葉へ、ある言葉を送った。


「彩葉ちゃん?ずっとバイクを好きでいてね、あなたは絶対カッコいいライダーになれるよ!それじゃ、バイバイ」


7歳の彩葉にそう言うと「かっこいいライダーになるー!バイバーイ」と両手を振っている。


「そろそろ行くのか?…気をつけて帰れよ」


啓司がそう言うと彩葉が最後に啓司に言った。


「ここ最近ずっとモヤモヤしてたものが、吹っ飛んだよ。ほんとにありがとう!私、1人でもがんばるよ!じゃあね!」


彩葉は啓司にそう言うとギアを1速にいれて、駐車場をゆっくり出て第二いろは坂の本線に出ると一気に加速していった。

トーキョー鉄管の音が明智平ロープウェイの駐車場に響き渡った。


「お姉ちゃん!ばいばーい!」


7歳の彩葉が両手を大きく振ってると、その隣で啓司が小声で呟いた。


「2速から3速に上げる時のダブルの切り方も俺にそっくりだなぁ…流石俺の娘だ……達者でな彩葉」


7歳の彩葉が自分のことを呼ばれたのかと勘違いしたのか「お父さん呼んだ?」と言うので「なんでもないよ」と誤魔化した。


「彩葉?あのお姉ちゃんのように、カッコいい女性ライダーにならないとな!」


啓司が7歳の彩葉にそう言うと満面の笑みで彩葉はこう返した。


「うん!もちろんだよ!だって私はお父さんの子だからね!」


19歳の彩葉のフェックスのエキゾーストノートが姿が見えなくなった後でもしばらく鳴り響いていた。


一方で2人と別れた彩葉は、青白い光の玉と会話しながらバイクを運転していた。


「だいぶあの2人から離れたところまで来たし、誰も見てないからそろそろ元の時代に戻ってもいいんじゃない?」


彩葉が青白い光の玉にそう言うと最後の確認を彩葉にしてきた。


「彩葉さん、もうこの時代に未練はないですか?元の時代に戻ったらお父さんと7歳の彩葉さんは、あなたと出会ったという記憶は消えます。見知らぬライダーと出会ったという流れになり歴史に影響はしないでしょう」


青白い光の玉はそう聞くと「もう満足だよ、ありがとね!」彩葉はそう言うと第二いろは坂の二荒橋前のT字路の信号の手前の細路地を左折すると、人通りがないことを確認するとFXのエンジンを切って停車した。


「それでは元の時代に戻りますが…彩葉さん?大丈夫ですか?」


青白い光の玉が彩葉に聞くと「オッケーよ」と言いながら目を瞑った。

すると、周りの車などの騒音が聞こえなくなり彩葉は意識がなくなった。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 現代 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


眩しい朝日が目に刺さり、彩葉は目を覚ました。

時計を見ると朝の6:30だった。


「う…うーん?私の部屋?……戻ってきたんだ」


謎の青白い光の玉は、彩葉の意識を失わせて強制的に睡眠状態にすると最初にタイムスリップした時間と全く同じ時間に彩葉を元の時代に帰して、あたかも過去に行ったことは夢の出来事のようにしてみせた。


「あれ?過去に行ったこと覚えてる!……そっか、記憶を消されたのは過去の私とお父さんだけなんだ」


元の時代に戻るときに青白い光の玉から、彩葉が過去で接触した啓司と7歳の自分との記憶を消されることになっていたが、どうやら未来から過去に行った彩葉は記憶を消さなくても歴史に支障がないのだろう。


彩葉は部屋の窓から外に停めてある愛車のZ750FXを見るとこう呟いた。


「今日は1日暇だし、フェックスに乗ってどこか行こう」


過去で立派に成長した自分の姿を父に見せることができて、いろいろ話せて今の彩葉には何の悩みもなかった。

彩葉は身支度をササッと済ませると、アパートの鍵を締めてFXの元へ向かう。

カバーを外すとピカピカに磨き込まれた愛車が彩葉を待っていた。


「さぁ、今日は1日乗り回すよ!行くぞ、相棒!」


彩葉はFXのエンジンを始動して暖機を済ませると、アテもないソロツーリングに出掛けていった。


今日は最高のツーリング日和だ!


【成長した娘の姿を父に… 完】




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