第40話
「――――ケイジさん!」
少女の声が聞こえた・・・。
「んぁ?・・メレキか」
ケイジは・・・まどろみの中から戻ったようだった。
砂漠をぼうっと見ていて、きっと徹夜した所為だ。
「探しました!あっちの黒い車の人達の中にもいなかったし、聞いてみても教えてくれないし、皆さんもう帰っちゃったんじゃないかって思って・・」
「ん、お、おう・・」
なぜかテンションの高いメレキだ、その勢いにケイジは少し押されてる。
「でも、皆がこの辺で見たって教えてくれて、やっと見つけられたんですから!」
息継ぎの為に、ようやく言葉を途切れさせたメレキで。
「おう・・、えーと・・、何か用だった?」
「皆さんにお礼が言いたかったんですっ!!」
「・・あ、ああ、」
「・・?なんですか?」
「いや・・なんか」
一瞬の剣幕が凄かったからとは言えない。
「本当にっありがとうございましたっ!皆さんがあんなに頑張ってくれたから、ブルーレイクは無事だったんだと思います!・・死んじゃった人もいるけど、仕方ないと思います。ケイジさんじゃなければ、絶対に・・あの・・・」
「・・ん?」
ケイジが怪訝そうにしたから、メレキは少し慌てていた。
「夢見るんです、いつも見ちゃう夢みたいの。」
「夢?」
「隠れてる中で、私寝ちゃったんです。その時、夢で・・ケイジさんたちが戦ってて・・・」
「・・夢見んのか。」
「・・・はい、そうです。」
「・・よく寝れんのな。はははっ」
「べ、別に眠いからじゃないですよ・・っ」
「ん、違うのか?」
「・・ふっ、と、気がついたら、眠っちゃってたみたい・・」
「ぷっははは、同じようなもんだろ」
「う~~~~」
少し顔を赤くしてむくれるメレキを見て、笑う。
それを見て更にむくれるメレキだが、それを見るケイジはやはり嬉しそうに笑ってた。
だから、メレキが諦めたように身体から力を抜いて、一息、吐いてた。
良い言葉は探せなかったらしい。
「そんな意地悪だとは知りませんでした」
で、またむくれた。
別に、意地悪していた気は無いのだが。
「そうか?わりぃな」
「・・う、うん。・・あ、他の皆さんはどこに?」
「他の?ミリアとか?」
「そうです。」
ふとケイジが横を見ても、さっきまでいた筈のリースがいなくなっている。
「あれ・・?」
「はい?」
「いや、」
ふらっとどっかに消えるのはリースのいつもの得意技だ。
そうか、リースはいなくなってたか・・・。
「何か用事?」
「はい!皆さんにもお礼を言おうと思って」
「ん、そうだな・・ちょっと無線使ってみるかね」
「え、いいんですか?」
「ん?いいけど・・ちょっと待ってくれよ」
「はい・・・!」
「おーい、誰か、応答してくれ」
『どうしたの?』
「ミリアか?いる場所どこだ?」
『今?今は、ラクレナイの中よ。あ、そろそろ用が終ったから私達は帰れるって』
「お、早いな」
『EAUの方からも言ってくれたみたい。だから、調整するし、戻ってきて?』
「了解、あ、そこにリースとガイもいる?」
『ガイはいるよ、リースは・・・?』
『・・呼んだ?』
「リースか、今何処にいる」
『・・散歩してる』
「散歩ってどこ」
『さぁ?』
「なんでだよ・・・。まぁいいか、そろそろ戻れよ、聞いてたろ」
『聞いてた、問題ないよ』
「どうでした?」
眼をきらきらさせて尋ねてくるメレキだ。
そういや、連絡とったのはこっちが目的だった。
「俺たちが乗ってきた車にいるってさ」
さっき『ラクレナイ』とミリアが言ってたが、確か前にミリアがつけた名前だ。
以前、車にもニックネーム付けるか、って話になって結局ミリアの案に決まった。
まあ、たまにその名前は使ってる。
「車ですか?もう帰っちゃうとか!?」
「まぁ、そろそろだって言って・・」
「あああ・・、早くしないと皆行っちゃう!私、走っていきます!」
「あ、ああ・・」
既に走り始めたメレキの背中に何とか頷いてみせる。
元気でいて、妙に迫力というか雰囲気?気勢で圧す子である。
ていうか、無線使えば良かったんじゃねぇかな、って思ったが。
それに、俺がここにいるからまだ出発しないだろう、とその慌てて駆けていく後ろ姿を・・・見送るケイジだ。
そんなぱたぱたと駆けていく後ろ姿を見ていると、少し微笑める。
なんか、不思議な子だ。
あれが、純真無垢な子ってやつなんだろうなぁ、とケイジは思いつつ。
ケイジは立ち上がり、寝そうになってた身体を、『うーっ』と伸ばす。
そして、歩き出してのんびり帰るのだった。
つうか、歩いてると村中の人達がこっちを見てくる。
少し居心地が悪かったが、傍でこっちを見ていた子供が声を掛けてくる。
『ありがとうね』って。
『ありがとー』って。
ケイジは苦笑いしながら、頭の後ろをぽりぽりと掻いてしまう。
「・・なんか・・むずむずすんな・・・」
そう1人で呟いてた。
「―――でもですね、大切なお客様をお見送りする時は、皆で丁重にしないといけないって」
「でも帰投命令出ちゃってるしなぁ・・さっき、挨拶はしたから、伝えといてくれないかな?メレキが代表ってことで」
お家の軒先の日陰の中で、メレキが足止めしたがってるのを、ミリアはちょっと困ってたけど。
「私がですか?」
「うん、色々お持て成しもしてくれてありがとう、って。ちゃんと挨拶できないのは悪いなって思うけど」
ガイやリース達も、そこの日陰でのんびりしている。
お持て成ししてくれるのはありがたいけど、ずっと長居していたらたぶん、警備部から新しい仕事を割り振られそうなので、それだけは遠慮したい。
それに、軽く汚れを流したとはいえ、早くちゃんと身体を洗いたい。
血の臭いもまだ残っている気がする・・・。
「いえ、悪いなんて。それは、大丈夫です。お父さんや、アシャカさんや、皆感謝してるし、みんなにも言っておきます」
「ありがとうね、メレキ。あ、これ、返しといてくれるかな、アシャカさんに」
ミリアは前に手渡された黒くてごつい無線機をメレキに手渡す。
「はい!」
返し忘れてたそれを受け取ったメレキは、ずしっと少し重たそうに両手で受け取った。
「よ、」
歩いて戻ってきたケイジが、メレキとミリアたちに声を掛けた。
メレキは振り返って、ケイジにはにかむような、でもそれから真剣な眼差しを見せた。
「・・あの」
「?」
「あのね、いつか、私もドームに行ってみたいって、思うんです」
「ドームに?」
「うん、いつか。・・その、見に行くだけじゃなくて、・・ううん、行きたいんです、きっと」
「・・そうか、行けるといいな」
「はい!・・でね、もし行けたら、訪ねていってもいいですか?皆さんのとこ」
訪ねると・・・。
「・・訪ねるね」
「・・・無理ですか?」
「いや、そういうわけじゃないんだが・・」
「リプクマを訪ねればいいんじゃないか?」
ガイが後ろから声を掛ける。
「そうか?」
「総合病院やってるし、いいかもね」
ミリアも賛成のようだ。
実際、リプクマは政府が支援する総合病院としてもリリー・スピアーズの社会に貢献している。
けれど、複雑にシステム化する一方、プライバシーは軽々と教えられない部分もあるらしく、EAUでは規則もあり許可も必要だろう。
一応、ケイジ達もリプクマのスタッフのような扱いにはなっているらしいが。
「どういうことですか?」
「ん-とな、」
「ちょっと正確じゃないけど、私たちには私たちのお家が無いの」
「気軽に会えるような、な?」
「そうなんですか・・?」
「うーん・・、よっしゃこうしよう。そのリプクマっていう所はドームで調べればすぐに場所がわかる。もし、それでも会えないなら、この番号に連絡してくれ」
「番号?連絡?」
「ん?アドレス、」
「あ、はい。知ってます。使ったことないけど」
「なに!?」
「・・すいません」
「ケイジ、怖がらせてる」
「あぁ・・、わりぃ。ここじゃ必要がないもんか。」
「ドームに知り合いがいなけりゃ、使わないだろうね」
「よし、じゃあ、それも調べろ」
「えぇ」
ミリアが驚いたような。
「ドームじゃみんな使ってるぞ。他にも面白いもんいっぱいあるしな。美味いメシとか、スタジアムとか、ゲームとか、他になんかあるか?」
「なんだろう?」
「女の子なら可愛い服とか、お菓子のお店とか」
って、ガイが。
「それだな。目に入った店から片っ端に入るといいぞ。面白そうだろ」
「えぇっと、・・よくわかりません・・・」
って、メレキは言ってたけど。
「だろうな。」
にっとケイジは、許容範囲を超えたのか頭を抑えているメレキに笑ってみせる。
「俺もよくわからんし」
って。
「適当に教えてんじゃないって」
ミリアがケイジに言っといてた。
「ま、わからないんだから、楽しんでいこうぜ」
「あ、はい!」
ミリアはケイジを呆れた目で見ているけども。
「あ、っていうか、携帯持ってる?」
「あ、その、ないです。」
「ああやっぱり、そっか。」
「携帯ないのか、つらいな。」
「あ、暗記します」
「紙とかボードがあれば・・」
「取ってきます!」
って、メレキが凄い急いであっちのお家に飛び込んでいった。
知り合いのお家に頼むんだろう。
「携帯ねぇのか・・・」
ケイジが呟いてた。
「この辺だと守秘義務があるからね。カメラ・通信とかで情報漏洩する可能性があるのは無理なんでしょうね。」
「そっか。携帯が無いなんて・・・暇でヤバそうだな」
「だな」
ガイもにっと笑ってた。
「友達とかは多そうだけどね」
ミリアはそう、村の景色に目を細めてた。
「じゃあ、車を回してこよう」
ガイがそう言って、立ち上がっていた。
「――――書いたのってケイジのプライベートのアドレスでしょ?」
「ん、そうだぞ」
「ふっふ、じゃ私も渡しとこ。メールしてね」
「あんだよ、それは」
「久しぶりの再会、果たしてどっちが先か、ふふっ。ガイたちも渡す?」
「俺の?いるのか?」
「あ、はい!」
「なに?出し渋るつもり?」
「はは、いや、俺のは欲しがらないんじゃないかと思ってな」
「いります!」
「ははは、今書くよ」
「リースは?」
「僕?」
「そっ」
軽装甲車のドアを開けっぱなしの、メレキが中の日陰で覗きながら笑ってる。
リースがミリアをぼーっと見つめる妙な間の後、それから端末を自分のバッグから取り出した。
「番号覚えてないのね」
ミリアがリースの様子を見守りながら悟ってた。
そんな風に、メレキと一緒にのんびり話してた。
周囲の軍部や警備の彼らの目も、何となく引いていていたようだったけど。
たしかに、ちょっと珍しい光景かもしれなかった。
物々しい事後処理が行われている村の中で、そんな少し楽しそうなお喋りたちは。
「――――ほいよ、記念だ。お前ら抜け駆けすんなよ?」
「ふふん、どうだか」
「おいおい」
「あ、ありがとうございます」
喜ぶメレキに、ガイは歯を見せて微笑んでみせる。
「失くすなよ」
「はい!」
そんなメレキを見てるガイもにこにこで、微笑ましそうだ。
「えーと・・」
そんなガイの横では、未だ端末とにらめっこしているリース。
「リース・・、もしかして自分の番号わからないんじゃ・・」
ミリアが聞いて見てた。
「・・んん、普段使わなくて」
「探してあげようか?」
「いい?よろしく」
「ねぇねぇ、ケイジさん、あれも携帯?」
「あれ?あれも携帯端末、俺の触ってみるか?」
「いいんですか?」
「ああ。」
ヒュィン、ヒュィンと、パネルタッチで画面を動かしているミリアの手馴れた手つきだ。
「リースって、一応、情報技術系も分野だよね」
「まあね。でもこれは違う。」
「あはは、はいこれ」
「ありがとう」
「ケイジ、」
「回線が重かったりで繋がらないとかも・・・」
ケイジの薀蓄をメレキがふんふんと聞いているが、あまり理解して無いだろうなと。
ミリアはその2人の様子を眺めてる、なんだかほんわかした光景だ。
「ケイジが偉そうだ。」
ミリアが悪戯げににやっとしてた。
「うっせ」
気が付いたケイジが照れたようだ。
「書いた」
「ほら、リースの終わったよ」
「はい、これ」
「ありがとうございます!」
リースは一つ頷いて見せて、奥に引っ込む。
「なんか、難しい事多すぎで、私の頭、混乱してます・・」
「こういうもんが溢れてるからな、注意しろよ、ドームでは」
「はいー・・」
ほんわかなメレキに得意げなケイジの様子だ。
「なに教えてたの」
「電車の乗り方」
「あー・・・。別に、ドームは危なくないんだから、構えなくても大丈夫だよ。あ、車にだけは気をつけて」
「くるま・・くるまですね。くるまなら避けれます。大丈夫です、はい」
「そういう意味と、ちょっと違うんだけど・・」
ミリアはちょっと、微笑んでた。
確かに、とケイジは、メレキなら車に轢かれる可能性もありそうだ、と思って頷く。
「ドームの事全く知らないのか?」
「ちょっとは知ってます。でも端末が村に3個しかなくて。」
「みんなでそれ使ってるのか?」
「はい。」
「なるほどな。」
ケイジがいろいろ納得したみたいだった。
「さて、と。これで4人渡したね」
ミリアはそれから・・・。
「・・そろそろ行くか」
ガイがエンジンをかける。
「話し残した事、無いな?」
「・・・それじゃね、ドームに来たら連絡してよ?また会いましょ」
メレキは『はいっ』と元気よく返事する。
リースは無表情で、ぱたぱたと小さく手を振る。
メレキも、手を同じように振る。
「じゃな、元気でいろよ」
ケイジはメレキににっと笑ってみせる。
だがすぐに何かに気付いたように。
「あ、頑張れよ、か」
そう言ってケイジは、目を細める。
メレキは睫毛を震わせて、綺麗な目を細めた。
とても印象的な微笑みだった。
別れの寂しさや、悲しみも、きっといつかまた会える日まで、そんな想いの、とても優しい笑みなんだろう。
「もう行こうぜ、ドア閉めろー」
ガイが運転席から振り向いて言う。
ケイジが気が付き、扉を閉める・・その前に。
「・・コァン・テャルノ(精霊が宿るもの)、」
呟き・・メレキの声、微かに聞こえたケイジが、ミリアが、顔を上げて。
見る彼女の姿は笑顔で、閉まるドアに途切れた。
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