第4話


 フェンスと村の境には、所々壊れた縁が一周ぐるっと敷地を回っている跡があるようだ。

外側にあるフェンスから200mほど離れてるのか、ぐるっと周るようなレール後の様なそれはこの村の目印、というよりは以前に作られた遺跡の名残か。

乾いた土を踏んでその境を跨いだミリアは手の合図で軽装甲車を止め、手で伝えて車中からリースとガイが夕焼けの景色に出てくる。

ケイジがその間、案内をしてくれている成年、ルッソと言ったか、彼に質問していた。

「さっきのあれは何だったんだ?」

「あぁ、あれはガキどもですよ。元気が良すぎてね、悪いことはしない奴らですが、何か失礼な事しませんでした?」

「ふ~ん・・、じゃ、あの先頭にいた、一番背の高いやつは?」

「あいつ、ガキ大将ですよ。ドーアンって言って、でもまぁそろそろ成人して、ええ」

「ん?」

「それより、お仲間は4人ですか?」

と、ルッソはケイジ達をちらっと見たようだ。

「ああ、そうだ」

「そうですか・・」

ルッソが目をやる向こうでは、そうしている間に寄ってきた残りの2人、ガイとリースの姿も見える。

ミリアが、次にルッソに聞いてみる。

「あれ検問所でしたか?見張りも誰もいなかったみたいですが」

「ええ・・、少し時間が悪かったもんで」

「時間が・・?」

「ええ、はい。」

「よ、さっきのは?」

ガイがケイジに聞きながら、アサルトライフル、『ジェスオウィル』をミリアに手渡してくれる。

軍部から警備部まで正式採用されていて、性能も信頼性も高い銃だ。

正直、使うような状況かはわからないけれど、用心に越したことはないだろう。

「ここのガキ達だと。」

ケイジが素っ気無く答えながら、リースから同じくアサルトライフルを手渡される。

「ほぉ、度胸あるな」

「あぁ、すいません。そんな事しましたか?どうか気を悪くしないでくださいよ」

「いえいえ、全然、大丈夫ですよ」

ミリアが慌ててぱたぱたと横に手を振る。

「そんな器の小さい奴なんてうちにいないもんでね」

ガイは人懐っこく笑って見せた。

「そうですか・・」

幾分、ほっとした様子の案内人、ルッソだ。

まあ、子供にケンカを売られたから仕事を放棄する、って駄々をこねる人はどうかと思いながらも、ミリアはアサルトライフルを肩に掛けてから、村の様子を見渡してた。

「必要ないかもしれないがな、」

「ううん、ありがと。」

と、ガイが言ったのでミリアは返したが、ルッソがこっちをちらっと見たようだったので、彼に聞こえるように言ったのかもしれない。

それに、ルッソ、彼がどうやら、こちらへ気を使って顔色を窺うような様子が、なにか気になるが・・・とりあえず、責任者から話を聞くべきだろう。



 その一軒は、村を見渡して数十件ある家屋の中でも、年季の入ったというか、所々色褪せた部分もある二階建てのどっしりとした家屋だった。

その家の前でミリアたち4人はその一軒を見上げていた。

どうやら村の中心近くにあるこの家屋は、どこの家とも少し離れており、1つぽつんとある。

ここまで歩いて村中を通ってきた様子からして、周囲の家屋は同じような形式のほぼ同年代に建てられたものが整列している。

「なんだこりゃ・・、」

って、ケイジが言っていたけれど。

村の家屋たちは一見、木造のようにも見えるが金属などで補強されている部分も見える古い建物が多い印象だ。

作りかけの家も一軒は見たが、砂風で色がくすむ村に新築の区別は金属板の補強があるかないかでしかほぼわからないだろう。

そうじっくり村中を見る時間も無かったが、実際に見た感じだと、この村は敷地も含めて相当大きい。

村の中を歩いている最中にも、ミリアが見回しながら、小さく「うゎ・・」と感嘆の声を洩らしていた。

夕暮れの遠目に見えただけだが、大きなプリズム色の傘が差された敷地、柵で囲まれ家畜のいる牧場らしき場所や、土を耕しているらしい畑のようなものなどがあるようだ。

他にも村人達が住む家々が村の敷地内に固まって点在しているが、軒を並べる家々も幾つかあり、村の景観の方針も有るような無いような、まばらのようだ。

ミリアが見回して、遠くを見ようとすればいろんな様相を見せてくれる村の景色で。

それらの隙間には緑色の低い草が生えている。

そう、草がちゃんと生えているのだ。

荒野で育む景観、開発し発展させていくための村として、心に微かに響く、その景観は。

ドーム育ちには信じられない光景であろう、荒地の中のオアシス。

そういった表現がぴったりであろう、ここは立派な村だ。

「すごいな。噂には聞いていたが・・」

ガイも驚いているようだ。

「俺も初めて来た、」

気が付けばそう言ってるケイジも、リースも周りを物珍しそうに見回している。

まあ、補外区をパトロールするようになってから日は浅いし、最初の頃は何もない砂漠を車中から見ているだけでも、ちょっと興奮してたケイジたちだったのはミリアも覚えている。

だから、こんな村や開拓地を訪れるのでさえもみんな今日は初めて尽くしだろう。


そんな4人の反応を見てる案内人のルッソは、嬉しそうに笑った。

「こんなに豊かな村は滅多に無いですよ。長い年月を、ここを、この村を我々は守ってきたんですから」

得意げに言う彼だ。

村ではいろんな困難があったんだろう。

素人でもわかるから、牧畜をするのでさえここでは最悪な環境だということは。

「ディッグからか?ここの?」

って、ケイジも少し食いついたようだ。

「え、ディッグ・・?そうですね、ディッグもあったようですね。勇敢に戦ったと聞きます。さて入りましょうか」

そう言ってルッソは目の前の扉のノブを取って開けた。

「連れてきましたよー」

「おそおぉいいっっ!!」

家の中から大きな声で怒鳴られた、みたいだった。



 「軒先でぺらぺらぺらぺらぺらぺらとっ!!待ちくたびれるってんじゃっ!」

「すいません・・」

ミリア達が家の扉を覗き込んでみれば、老年の男性が興奮していて、ルッソが平謝りしている。

「まあ、俺はいい、俺は。だがな、なあ!?ゲンよっ!?」

振り向いた彼に・・・、・・・・・奥の、こちらを見てる数人の中年の男性女性は、誰1人返事をせずに、ちょっとどきっとしたように周りを見るようで。

そわそわしているような彼らはそれから一斉に、奥で誰かが膝まづいている後ろ姿、大きな体格の男の背中を視線を集中させたようだった。

全く動かない後姿でわかるけど、筋肉質でその男の体格はとても良い。

しかし、一向に・・・、誰1人として動かない、というか、苦笑いを向けてくる者もいた。

「あと数分、いや数十秒早ければ・・・早ければ挨拶くらいはできたものをっ・・・!!」

「まあまあ村長、」

状況のわからないミリアたち4人は、事の成り行きを見ているしかないのだが。

「どうせゲンさんがお祈りに入ったらお話はできないんだし、」

「そうですよ、」

「そうだ、オルゲンさん抜きでやってましょうか」

奥にいたおじさん1人が冷静にそんな事を言って寄越す。

彼は鋭い目でそのお爺さんを睨み付けた、たぶん。

ちょっと薄暗い家の明かりの中でミリア達も様子を窺っていたが、入口からは、やたらテンションの高いおじさんの表情がちょっと赤いのが見えるくらいだ。

・・・しばしの沈黙だった・・・。

あれ?と、ミリアが思ってまた覗き込むと。

「・・・そうですな。」

お爺さんの初めての穏やかな声も聞こえた。

「いいのかよ・・」

反射的に呟いたようなケイジの声は他の仲間3人にも聞こえていたが、ミリアが家の中の様子を見つめたまま小さく頷く程度の反応しか示さなかった。

「今はちょっと間が悪かったんで、」

と、4人だけに聞こえるくらいの声で、傍の苦笑いのルッソは言って寄越してた。

さっきからの『間』が悪い、ってなんだろうか。

「さあさ、どうぞお客人方。わざわざ遠い所をようこそおいでくださった。」

「さぁ、座ってください」

温情的な笑顔を浮かべて男性女性の方々が、扉を入ってすぐの広間にあるその長い大きなテーブルの席を勧めてくる。

ミリア達4人は勧められるままに椅子に座って、その場の全員、1人除いて席に着いていった。

「・・この4名方だけでよろしいのかな?」

「はい、全員です。」

ルッソがミリア達の代わりにしっかり頷いていた。

「そうですか。ごほん、」

金属製のテーブルの前で一つ咳払いをした、さっき興奮していた男性だ。

「では、まず挨拶させて頂こう。私がこの村の長であるコントギュール・マダック。それから、村の『賢き』として補佐などをしているのがここに座った面々です。おっと、ルッソと彼は『賢き役目』ではないですが。えー、こちらからパドリック、ルヂュ、トラド。ああ、トラドは以前はドームの方に勤めていたのですがな。今はこうして立派にこの村で家庭を築き・・・」

先ほどから、薄々と感じてはいたが。

今、4人は確かに感じていた。

「お茶どうぞ~。あ、コーヒーの方がお好き?」

「あ、いえ・・どうも。」

ミリアは目の前に置かれたティーカップにお礼を言って。

この人たち、・・・なんて、のんびりとした方々なんだろうと・・・確信していた――――。

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