【サルの遊び】



今は亡き祖父に教わった“サルの遊び”に興じている

           

願い事が叶う、一種の呪いのようなものだが


この遊びをやる時に気をつけないといけないのは、嘘がつけない事だ


怖気づいたらお終い


建前でも本音でも、一度口にした願いは必ず叶う


蔵の奥の長持の中に隠して


祖父はこの“サルの遊び”を決して父には教えなかった


(我々が猿だった頃……)


布団に入って眠りにつく時に、人がまだ猿だった頃の思い出を手繰り寄せて、叶えたい願い事を口にする


夢の中でその願いが叶えば、近いうちに現実でもその願いが叶う


(我々が猿だった頃……)


外国の小説に「猿の手」という話があるが、あれはきっと“サルの遊び”に失敗した例だ


祖父はその事を教えてくれなかったが、もし教えてくれていたらもっと長生きしただろう


(力のある猿に群れを追い出された若い雄猿は、しばらくの間たった独りで生きていかなければならない……)


祖父の遺産は莫大なものだった


手繰り寄せた猿の思い出の中に祖父と父の確執があった


(我々が猿だった頃……)


怖気づいたらお終い


懲りずに今夜も“サルの遊び”に興じている


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る