【遺品整理】



故人の所有物が机の上に死屍累々と積み上がっている


故人との関係は同じ建物内で働いているという事実だけ


顔も名前もよくは知らない薄い繋がりだった


それゆえ薄情ながら特に故人を偲んで何かしてあげようという気持ちにはならなかったのだけれど


それが私に与えられた仕事の一環という事もあり


朝からその山と積み上げられた遺品の整理を手伝った


書類、カタログ、筆記用具、PCなどの精密機器から日用雑貨……


明らかに不要だと判断される物、大事に愛用されていたと見当がつく物、見るからに高価な物……


整理とか言いつつ、


次から次からへと出てくる遺品を前にそれはもはや物色を越えた発掘作業、いや、盗掘作業の大変さでもって坦々と進められた


どこかの土地の権利書なんかも出てきて騒ぎになったり


親しい同僚たちも知らない故人の意外な一面を垣間見る、幾らか悪趣味な玩具なんかも出てきた


故人に何の思い入れもない私は一人盗掘作業に夢中になり


戦利品として


無印のまっさらなメモ用紙と英雄に関して綴られた歴史書を故人から勝手に譲り受けた


多少面倒になって来た時、


使い古された名刺入れの端からポロリと、歪な作りのお守りが出てきた


開いてみると


赤い折り紙に幼い子供の拙い字で書いた


「父ちゃん、ガンバレッ 父ちゃん、ガンバレッ」の文字


数ある遺品の中でその手作りのお守りが唯一遺品らしい遺品のようだった


遺品整理は夕暮れになっても終わらず


手作りのお守りを何故か誰にも言えず、どうにも処理に困った私は


一息入れた喫煙所で


煙草の煙を線香に見立てて


人目を忍んで一人こっそりと思い入れのなかった故人を偲んでみたのだった


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