100話三題小噺 

明知宏治

2月11日三題小噺【日常系】

 お題:【夕陽】 【ヤカン】 【禁じられた脇役】

 ジャンル:日常系



「私は、禁じられた脇役なんですよ。坊ちゃま……」

 桜色の長い髪を夕陽色に染めた、馬鹿メイドが言う。

「何を言っているんだ、お前……?」

 と、僕は言う。

 数分間、別荘のダイニングキッチンにいる、僕と馬鹿メイドに沈黙のが生まれた。

「いやほら、その…なんですか。この状況でしたら、普通の男の子なら発情して『うおおおお馬鹿メイド!』と抱き着いたりして、メイドと言う脇役的な存在と禁じられた関係に—」

「ないだろう。第一もう、見慣れているから。そういう姿は…」

 そう言って僕はこれまでの、別荘での生活で馬鹿メイドが支給品のメイド服以外の服装で生活している日々を思い出した。

 そしてそのどれもが、肌の露出面積が大きい物だった。理由は、夏で暑いからと言っていたが、別荘は避暑地の林の中に建っている。

 朝になると気温は14度ほど、昼間の気温は上がっても26度くらい。

 どこが暑いんだ。むしろ、僕なんて長袖のシャツを着るか、薄手の服を羽織っている。

 なのに、馬鹿メイドは、風邪をひきそうな、へそ出しのシャツにハーフパンツ姿、背中を見せた服、酷いときはビキニ水着姿を着ていた。

「まぁ馬鹿だから風邪は引かないか……」

 呆れて呟く僕に、馬鹿メイドは少し不満な様子で言ってくる。

「坊ちゃまは、年上の女には興味が無くなってしまったようですね。私は、少し寂しいです」

 それを聞いて少し、ドキリとする僕。

 もしかして、僕の気を引くために今まで露出の多い服を着ていたのか⁉

 だとすると、馬鹿メイドは僕のことが⁉

 ピュー!と音がする。キッチンコンロで沸かしていたヤカンの水が沸騰し蒸気を上げる。

 同調したように僕の顔は、湯気が出るほど熱くなっていた。

 とても動揺している。

 だが、このような経験を僕は別荘に来て何度も味わってきた。だから、この動揺の対処法も熟知している。

「いやいや‼ないな‼絶対にない‼からかっているだけだろう‼馬鹿メイド‼」

 とにかく否定する。絶対に肯定なんてしない。

 肯定した瞬間完全に主導権は馬鹿メイドに持って行かれる。

 馬鹿メイドは、悔しそうな表情をする。

「ちっ、ばれてしまいましたか。お湯も沸いたことですし、夕食にしましょう。坊ちゃま」

 と言ってキッチンスペースに行く馬鹿メイド。

 僕は、その馬鹿メイドの姿を目で追った。

 馬鹿メイドは、エプロンを着ている。正確には、エプロンしか着ていなかった。そのため、馬鹿メイドの背後は、ほぼ裸同然であった。

 僕は、目の保養に窓から夕陽に染まった林を眺めた。

 深い緑とオレンジの光が、幻想的に交わる光景。

 僕は、平静を取り戻す。


 すると、いきなり。

「なにか、面白い動物でもいましたか?」

 という、声とともに僕の後頭部に、柔らかいクッションが当たる。

 驚いて後ろを振り向く僕。クッションが顔に押し当る。視界が暗くなり、甘い香りがする。両手でクッションを掴み顔から離す。

 すべすべとした質感と温かく柔らかな感触が手から伝わる。

「はぁう!」と変な声がする。

 僕の眼前には、エプロンと胸の谷間、そして、胸を脇から揉むように掴む僕の手。

 先ほど以上の動機が僕を襲い、一瞬で顔が茹で上がる。

 僕は、恐る恐る視線を上へ向けた。

 そこには、にんまりとした表情を浮かべる馬鹿メイドが立っていた。

「それは‼反則だ‼」


 僕の叫び声が、今日も別荘に響くのだった。

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