第31話
「これが控室……意外と普通ですね」
「別にホテルでもなんでもないからな。内装自体はこんなものだろう」
「ですね」
控室の中身自体は特に何の変哲もないテレビでよく見るようなレベルの部屋だった。
一つおかしな点を挙げるとすれば、男女のペアを二人っきりで同じ控室に放り込んでいることだな。
ペアで延々と配信をしているからどのペアもある程度は仲良いだろうが、絶対にオフで会うのは今回がほぼ初めてみたいなペアも居るだろ。今回はVtuberのペアも居るんだから。
まあ、こんな事くらいは私が心配しなくとも企業なんだから考えているか。
「もう少し経ったら他の配信者も来るだろうから、そうしたら参加者に挨拶しにいこう」
それよりも今はサキが無事に大会を乗り切ることが出来るかどうかを考えることの方が重要だ。
「分かりました」
「ここがキンカとみる子ペアか」
「そうですね」
最初に向かったのはキンカ&みる子ペア。二人ともFPSをメインとする配信者で、キンカの方は去年までVALPEXのプロプレイヤーとして活躍していたらしい。
登録者数で言えばみる子の方が100万人で、キンカが55万とからしい。
「じゃあ入ろう」
「そうですね。サキと優斗です、挨拶に来ました。今お時間良いですか?」
とサキが声を掛けると、数秒後に良いですよと返事が返ってきた。
「「失礼します」」
「初めまして。サキと言います。今日はよろしくお願いします」
「優斗です。今日はよろしく」
「こんにちは、キンカです。こちらこそよろしくお願いします」
「やあやあいらっしゃい、みる子だよ。ささ、優斗君はここ、サキちゃんはここに座って座って」
「は、はい」
と挨拶をすると流れるように私はキンカの前に、サキはみる子の前に座らせられた。
そして、さも当然かのように二人は腕相撲をしようと構えてきた。
「「勝負だ!」」
「どういうことだ?」
「私たちの部屋に来たってことは腕相撲をしに来たんじゃないの?」
とさも当然のような表情でこちらを見てくるみる子。なるほど、だから二人共半袖の白Tな上に若干汗ばんでいたのか。
「なあサキ、知っていたか?」
「いや、初耳。そんな話見たことも聞いたことも無いよ」
割と自信満々に話しているので私よりも配信者に詳しいサキに聞いてみたが、そんなことは無いという。
「そりゃそうだよ。僕たちは配信上で一度もその話をしたことがないし。知っているのは一度でもあった事がある人だけ」
なるほど、それは分かるわけがない。
「というわけで勝負だ!二人とも!」
「分かりました。やろう、優斗さん」
「そうだな」
正直ここで腕相撲をする意味は分からないが、断ることも出来なさそうなので私は目の前の男と腕相撲をすることになった。
「レディー、ファイ!!!!」
とみる子の元気な声によって腕相撲が始まった。
そしてキンカは全力を込めて私を倒そうと頑張っていたのだが、あまりにも非力だった。
私が男の中でも筋力がある方だったのもあるのだろうが、それにしても弱い。これだと女性と同等とかそのレベルじゃないだろうか。
ゲームの配信者は基本的に外に出ないので力が弱いという話は聞いたことはあるが、ここまでか。
「ふん」
流石にこれに負けるわけにはいかないので遠慮なく倒させてもらった。
「強くない!?鍛えてる!?」
するとキンカは大層驚いた表情でこちらを見てきた。
「別に特別体を鍛えているわけではない。単にキンカが弱すぎるだけじゃないか?」
「僕プロゲーマー同士での腕相撲なら負けたことなかったんだけどなあ……」
「それが本当ならプロゲーマーが軟弱すぎないか?」
女子の中では力が強い方の次葉より弱いのは仕方ないとして、一般的な女性であるサキよりも弱いような気がする。
そしてこいつがプロゲーマー最強という事は……
「くっ負けた……」
「ええ……」
当然のようにサキはみる子に完勝していた。
サキはこんなにあっさり勝てるとは思っていなかったらしく、軽く引いていた。
「……」
「……」
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