第19話
「305,000円になります」
「クレジットカードの一括払いでお願いします」
想定外の出費になったが、これでサキの悩みが多少なりとも解決できるのであれば安い買い物だ。
「ええ……しかも一括……!?!?」
「別にこのくらいなら一括で払える奴はいくらでも居るだろ」
会計の額が100万とか200万とかを超えているわけではないしな。
「そんなものなんですかね……?」
「とにかく、今から今買った服で目的地に行くぞ」
「はい……」
会計を済ませた後、再度買った服に着替えさせて店を出た。
「これで大丈夫なんですか……?」
「ああ、安心しろ。じゃあ行くぞ」
私はサキに大丈夫だと伝え、そのまま収録スタジオへと向かうことに。
「そういえば気になっていたんだが、配信やこの間通話したときと今のキャラ、全く違わないか?」
これよりも重大すぎる問題が目の前にあったのでスルーしていたが、サキにしては内気すぎた。
「オンライン上だったら顔が見えていようが見えてなかろうがいくらでも強気に行けるんですけど、実際に誰かと対面するとなると緊張してしまって……」
「そうなのか」
「がっかりしました……?」
そう聞くサキは今カッコいい服を着てばっちり決めているのに、今までで一番弱々しかった。
「別に、配信内外でキャラが違う人なんていくらでもいるだろうから気にする所はない。むしろ、そういう性格なのに配信では頑張ってあの性格を見せているんだなと感心した。端的に言えば、もっと好きになった」
「……!!!」
と正直な感想を述べると、サキの顔は真っ赤になっていた。
「収録を私の家にしなくて正解だったみたいだな」
ボカロを歌わせるよりも自身で歌ったものを録音した方が早いということで作曲機材のついでに収録機材も揃えたので実は家でも収録が出来る。
しかし、ここまで褒められることに耐性が無い女性を家に連れ込むのは大問題である。
横着せずにスタジオを予約していてよかった。
そして歩くこと10数分、目的地であるスタジオに辿り着いた。
「本当に話しかけられませんでしたね」
「言った通りだっただろ?」
「ここまでしてくださって本当に感謝しかないです……」
「その分収録を頑張ってもらえれば十分だ。始めるぞ」
「はい!」
というわけで歌の収録が始まった。
それから約3時間後、
「これで全パート終了だ。お疲れ様」
「え?これだけ!?」
終了を告げられたサキはまだまだ収録が続くと思っていたようで目を見開いて驚いていた。
「ああ。完璧な歌だったぞ」
「普通一曲分だけでも4時間くらいかかるのに……」
結果としては大体3時間ちょいくらいで全ての収録が終わっており、今までの歌ってみたとの違いでサキは驚いていた。
「そりゃあサキの歌が良かったのと、事前にオリジナル曲を聞きこんできてくれたからだ」
流石に知らない曲の収録になるので時間がかかることが想定されていたのだが、サキはほぼ完ぺきに覚えてきてくれていた。
「それはあの曲がとてもいい出来だったから、ついつい聞いちゃったんだよ」
「一応ボーカロイドに歌わせていたのが功を奏した形だな」
「うん」
「念のために作っておいて良かったな」
「ありがとうございます」
「別に構わない。全て私がやりたいからやっていることだからな」
と私が言うと、サキは深々と頭を下げてきた。本当にいい人だな。
「歌部分はあとMIXだけですかね?優斗さんの収録は既に終わっているようですし」
「いや、私の収録はこれからだ」
「え、既に歌っていましたよね?収録の時に聞ける音声には既に歌声が入っていましたし」
「ああ、あれか。あれはサキが収録の時に歌いやすいように声を入れていただけだぞ」
「滅茶苦茶上手かったですよね……?」
「そう言ってもらえるのは嬉しいな。しかしあのままMIXすると私の主張が強すぎるからな。あのまま使うとこちらが圧倒的主役になってしまう」
あくまで主役はサキであり、私はただの引き立て役だ。いくら他が崩れようと、この鉄則だけは決して破ってはいけない。
「本当に私のことを中心に考えてくれるんですね」
「ファンだから当然だろう」
もし他のサキファンが似たような状況になったとしても、全員が全員同じような行動をとるだろう。
それが一番ファンは喜ぶし、一緒に歌ったファン側としてもサキの歌唱部分が大きい方が聞いていて幸せだ。
「本当にありがとうございます……」
と私が言うと、サキは顔を真っ赤にして再びお礼を言ってきた。
「ありがとう、その言葉のお陰でもっと頑張れる」
推しからのお礼の言葉はやる気を掻き立てる最高のスパイスだ。
「というわけで私は家に帰って収録とMIXを始めようと思うが、何か行きたいところとかやりたいことはあったりするか?」
「いえ、これまでで沢山もらってきたので十分満足です」
「そうか、それは良かった」
その後サキをタクシーに乗せ、私は電車に乗って帰宅した。
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