第14話

「っははははは!面白いなそれは!」


 私が伸びるのは確定だから今のうちに唾を付けておきたい。単純で分かりやすい結論じゃないか。


 そして同時に合点がいった。どうしてVtuberではなく顔出し配信者なのに自分を極限まで偽っているのか。


 本来の性格を丸出しにしたら伸びないから、注目をされないから徹底的に隠し通すことにしたんだ。


『どうして笑うんですか』


「面白いからに決まっているだろ。今話している女性が目標の達成の為にプライドも自身の本性も捨て、伸びるためだけに努力しているのだと知ったのだから」


『馬鹿にしてます?』


「いや、誉めているんだ。世の人間は同じ目標を立てたとしても、そこまで徹底することは出来ない人間の方が多い。だからこそ目標に向かって突き進む執念、本当にあっぱれだ」


 目的に向かって邁進する人間は大好きだ。是非とも応援したい。


『褒められているのか馬鹿にされているのかよくわかりませんね』


「とにかく、私はサキが伸びるためにどんなコラボでも受け入れる。たった今サキの大ファンになったからな。私はサキが報われる姿を見たい」


 推しの為なら何でもできる。それがファンである。


『えっと……』


「とりあえず、チャンネル登録、SNSのフォロー、現在発売されているグッズの購入、チャンネルのメンバーシップ加入、FANBAXのサキとずっと一緒プラン加入、来月開かれるオンラインライブのチケット購入を済ませたぞ」


『えええええ?????』


「当然だろ。ファンなのだから、全てのコンテンツに課金するに決まっているだろ」


『いや、大学生ですよね優斗さん!?!?!?』


「大丈夫だ。元より金には余裕があるからな。ファンの財布の心配してくれるなんて嬉しいぞ」


 数字にはかなりこだわっているのに、配信でもここでもファンのお財布事情を大事にするあたりいい人である。より一層好きになった。


『ええ……カモとかそういうレベルじゃないですよ……』


「サキ自身の魅力で勝ち取ったファンなんだ。胸を張ってくれ」


 この通話もファンを新規ファンを獲得するための行動なのだから、結果としてファンが生まれたことを誇りに思ってくれ。


『わかりました。そういうことにします』


「というわけで、明日夜9時から配信をしても構わないか?」


 スケジュールを見た感じ明日は配信が無いらしいので丁度良いだろう。


『突然ですね……何をするんですか?』


「当然、サキの宣伝だが。明日中に見られるだけ配信を見て魅力を皆に伝える予定だ」


『正気ですか?視聴者からしたら見知らぬ女ですよ?』


「問題ない。視聴者からしたら私も見知らぬ男だ」


 なんだかんだで人気を博してはいるものの、私の顔出し配信は始まってから1か月ほどしか経っていない上に回数も時間も大したことはない。


 だからこのチャンネルに女性が突然現れても嫌がる人はさしていないだろう。


『十分有名人ですけどね……』


「まあ、それはお互い様だ。というわけで来てもらえるだろうか?別に来なかったとしても勝手に配信をする予定ではあるが」


『絶対に来ます。何をしでかすか分からないので』


「じゃあ決まりだな!」


 何をしでかすつもりもない、と反論したかった所だが、感情が爆発して話すべきではない所まで話してしまいそうな事を完全に否定はできなかったので何も言えなかった。



 翌日、その日に取っている授業の欠格条件は問題ないので一日学校を休み、サキの配信を複数同時に鑑賞しつつ、切り抜きで目立つイベントをおさえることにした。


 今の状態でも楽しめてはいるのだが、本気で楽しむなら一配信一配信しっかり見た方が良いので、今日の配信が終わったら一から見ていこうと思う。


 サキの配信歴は非常に長く、尋常じゃない量のアーカイブが残っているため全てを見返すのに果てしない時間がかかると予想されるが、イラストを描きながら見ればいずれはどうにかなるだろう。

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