第2話

「いらっしゃい、事前に伝えられていた住所で構わないかい?」


「はい、お願いします」


「了解」


 どうやらドライバーに目的地すら事前に伝えていたらしく、乗った瞬間に車は走り出した。


「本当にどこに行くんだ?」


「着いてからのお楽しみだよ。といっても別に特段驚くようなものでは無いかもしれないけど」


「なら言って欲しいんだが」


 ものによっては私が全て購入して解決する方が早いまであるから、知っておきたい。


「だめ、こういうのは何も聞かずに期待しておくものだよ」


「分かったよ」


 何をしようが答えを言ってくれないと分かったので、大人しく幼馴染の顔を見ていることにした。


「どうしたの?急に私の顔をじろじろと見て」


「直前まで見せたくないってことだから、それに配慮しているだけだが」


「なら下を向くとかスマホを弄るとかあるでしょ」


「酔うだろ」


 そうしたらタクシーの中を汚すだろうが。


「そういえば車にそこまで強くなかったね。なら私の顔を見ていていいよ」


 酔い止めが必須な程に車酔いしやすい体質ではないのだが、一般的に酔いやすい行動をしたら確実に酔うレベルに弱いだけだ。


 これは私に与えられた欠点というよりは人間に広く与えられた弱点なので仕方ない。


「ありがたくそうさせてもらう」


 本人からの許しを得たので、私は改めて次葉の顔を鑑賞させてもらうことにした。


 相変わらずカッコいいな……


 イケメンながらも、所々女性らしい部分が垣間見えてより一層魅力が増している。


 元々魅力的だったのだが、大学生になって化粧という技術を覚えてからはより一層レベルが上がっていた。


 で、


「どうして次葉も私の顔を見ているんだ」


 次葉は別に車酔いしないだろうが。


「見られているならこっちも見ないといけないからね」


「何だその対抗心」


 別に次葉が私の顔をいつ見ようがどうでもいいだろ。


「まあ、単にどんな感じで私の事を見ているのか気になっただけだけど」


「別に普通に見ているだけだが」


「確かに普通に見ていたね。でも、その普通の見方が女の子を見るってよりは芸術品を見るに近かったけど。私は女性なんだよ?」


「ああ、つい」


 次葉の顔は芸術的と言っても過言では無いからな。思わずそういう目で見てしまった。


「着きましたよ」


 なんてことを話していると、どうやら目的地に着いたようだ。


「じゃあカードでお願いします」


「あいよ」


 そのままカードでの決済をした次葉は私の目を塞いだ。


「じゃあ転ばないようにゆっくりと降りてね」


「ああ」


 そのまま二人で降りた後、車が発進する音が聞こえた。恐らくタクシーだ。


「じゃあ早速目的地を見てもらおうか、どうぞ」


「おお、ん?」


 目の前にあったのは恐らく一軒家と思われる建物。


「どうしたの?」


「あまりにこの場所に不釣り合いじゃないか?」


 田舎の駅からタクシーで15分程移動した場所なので周囲には山と田んぼしかなく、何軒か見える家は全て昔ながらの和の木造建築である。


 しかし、目の前にある建物はそれとは大きく異なり、青、ピンク、黄色のパステルカラーで色塗られたメルヘンチックな家だったのだ。


 もし景観条例のような法律がここにあれば真っ先に検挙されること間違いなしである。


「建てた人たちの好みだからね、仕方ないよ」


「まあそうだな。家を建てるのは相当な金がかかるしな」


 こういう家が建てたいからこういう家を建てて違和感のない地域に住もうと考えても、予算が足りないというのはよくある話だ。


 予算と希望を兼ね合わせて現実的な所に折り合いをつけた結果がここなんだろうな。


「いや、お金は沢山あるよ。単に田舎にメルヘンな家を建てたかったからこうなったらしいよ」


「そうなのか」


 なるほど。これは敢えての行動なのか。


 となるとこれはギャップ萌えの一種だろうか。


 そう考えると理解が出来なくも無いな。


 こういう趣味の人間がここの住人だけってことは無いだろうし、覚えておくことにしよう。


「うん。私はよく分からないけどね。とりあえず中に入ろうか」


「そうだな」


 そのまま玄関の前に立った次葉は鍵穴にスマホを翳した。すると、鍵がガチャリと開く音がして、扉が開いた。


「こんにちは~」


「お邪魔します」


 家の中は外のメルヘンさとはうって変わって普通の家のようだった。まあ、居住スペースがメルヘンだと疲れるか。


「にしても、最近はそういうものがあるんだな」


 普通の鍵をスマホで開錠できるようにする機械か。便利になったものだ。


「うん。大人数で鍵を共有する時楽だから便利だよ」


「大人数?」


 そんな人数が出入りするような広さには見えないのだが。


「そうだね、まあ見れば分かるよ」


「そうなのか」


「とりあえずついてきて」


 そういって連れられたのは二階にある一室の前。扉には『収録・配信用部屋』というプレートが付いていた。

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