四十二、約束したのです、浮瀬くん
「そう考えると、僕らって意外と同じ時間を共有出来てないよね。その次は三年、その次は二年、これだけ長生きしてこれだけ生まれ変わってるのに」
まるで呪いみたいだ。浮瀬くんの言葉に、ふと、久世千代だった頃の記憶が蘇った。
「だから長生きしてもらわないといけないんだよ」
「極力頑張る」
「咳は収まった?」
「それ昨日も聞いてきたじゃん。だいぶ良くはなったよ」
「さすがに同じ死に方されたらたまんないって」
電車が着き乗り込む。席はどこも開いておらず、角に背を預けた私の前に浮瀬くんが立った。
「死に方で思い出したんだけど」
「何?」
「私二回目と三回目、何で死んでたっけ?」
「……それ僕に言わせる?」
「ごめん。でもあんまり憶えてないから」
最初の終わりの記憶は嫌なほど憶えている。けれど二回目と三回目の人生の終わり方が曖昧だった。これが原因だったのだろうというような、思い当たる節はあるが死に方が死に方だったからだろうか、記憶が途切れている感覚だ。気づけば次の人生が始まっていて、気づけば前世の記憶があり、あ、私死んだのかと気づくのだ。
「……二回目は子供を庇って馬車に轢かれて、三回目は通り魔に刺された」
「即死だった?」
「……千歳」
「ごめん。でも即死だったから気づいた時に次の人生が始まってたのかなと」
「死んだって感覚が無かった?」
「そう。最初は、あ、これ駄目だ。死ぬんだって感覚があったの。でも二回目も三回目も、気づいたら次の人生が始まってたから」
「……なるほどね」
一瞬にして不機嫌になった浮瀬くんが顔をしかめている。私も良くない事を聞いたとは思っているが、これは大事な問題である。
「浮瀬くん、死のうとした?」
私の一言で乗客の視線が一斉に向いた。ここで話す内容ではなかったと気づいた時には既に遅し。思わず乾いた笑いを浮かべたが、ちょうど最寄り駅に着いたため彼の腕を引き急いで降りる。浮瀬くんは驚いた顔のまま私に引かれて階段を降り改札を出たが、引いていた腕を離し私の手の平に指を絡めた時、彼の思考はこちらに戻って来た。
「何十回も」
色んな方法を試した。彼は思いつく限りの自殺の方法を上げていく。果てには首を切り落とそうとして失敗しただの言い出したので、私はその口を塞ぎごめんと言う。
彼は口を塞いだ手を取り包み込んだが、私はいくら必要と言えど聞かなければよかったと後悔する。
いくら彼と言えど、傷口を抉るような真似をしなければ良かった。
「……そろそろ教えてくれてもいいんじゃない?」
「何が……」
「図書館通いの理由。受験勉強のためとか言ってるけどそんな訳じゃないでしょ」
足を止めたのはどちらだったか。桜並木から一本外れた道の真ん中で目を合わせたまま立ち止まる。小さな嘘をついていた。彼には恐らく気づかれていたのだろうが、追及してこないのを良い事に調べ物を進めていた。
「聞かないようにしてたけど、今の質問で聞くのを決めた。千歳、君さ」
両手が掴まれたまま、私は何も言う事が出来なかった。
「僕が死ぬ方法を探してる?」
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