死にゆくものから誰か様へ

小雨(こあめ、小飴)

拝啓、この手紙を手にした誰か様へ

 拝啓、この手紙を手にしたどなたか様へ、これを読んでいるという事はきっと私は決心がついて彼岸よりそちらの世界を覗いているかもしれません、先に結論だけ述べるとこれを書いた本人は死ぬためにこの岬に来ました。考えを変えるつもりもありません。さて、ここまで読むとはなかなかお人よしですね、こんな紙切れ、一瞬の突風で、私の人生みたいに吹き飛ぶのに。どうせ読むなら最期まで付き合ってください。

私の人生は、まぁ酷かったのかな?私はよく父からたばこの火を消すのに使われたり、仕事の錨をぶつけるのに利用されていました。そしてある日突然、

『金が無くなった、あとは何とかしろ』

 と、書置きを残し蒸発しました。親戚の家をたらい回しになる中、プールなどの授業で地肌が露出するほど、行く先々で変な目で見られたのは、覚悟を決めた今でも忘れません。教科書や上履きなど替えの利くものと自らの体という変えられない物のの二つをいじられ初めてできた恋人にも捨てられました。あ、まだ読んでるんですか?相当お人よしか暇なんですね、書くこともなくなってきたし彼岸を渡るとします。向こう側で何が起きるかわからないし、正直怖いです。でも、覚悟を決めてここに来たという事実は変わりません。もし、もしどなた様がこれを見て何か思ったら…

ボトルに返事を詰めて書いてくれると嬉しいです。きっと私に届きます。きっと


 さて、それではどなた様、読んでくれてありがとう、手にしてくれてありがとう、さようなら、                   

                     死にゆく者よりどなた様へ



 彼女の手から紙が突風で舞い上げられ飛んでいく。風向きはビーチの方に向かっていた。それを見た彼女はにこりと微笑み、岬のがけから一歩先へ、踏み出した。

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