小話

星多みん

愛傘去

 バケツをひっくり返したかの様な雨が学校帰りの私に立ちはだかる。

「よりによって…傘持ってない日に仕方ない止むまで待とう」

 濡れてない地面がちょうどあったのでそこに座り込むが、その間にもジメジメした空気で汗を掻いていると、次第に辺りが暗くなるが雨は一向に止む気配がない。

 最悪だ。早く家に帰らないと行けないのに…もう濡れながら帰ろうか?そう思い立ち上がると「お姉さん!」と声を掛けられる。

 声の主の方を向くと5歳くらいの男の子が大きな傘を大事そうに抱えてながらこちらにキョトンとした顔を向ける。

「お姉さん。やっと気づいてくれた!」

 どうやらさっきからこの男の子は私のことを呼んでいたらしい。それにしてもいつから? 私が玄関を出た時には居なかったし、もしかしたら先生のお子さんかな?  などと軽く不思議に思い考えるが、ジメジメした空間に居て気分が落ち込んだせいか頭がが回らない。

 とりあえずどうしようか? 流石にこの子置いて帰れないか…と考えていると男の子が「お姉さんごめんなさいは?」と声を荒らげて言う。

「お姉さん悪いことしたから謝らなくてはダメだよ?」

 そう言われても私は何もしていないぞ?ってか急に声掛けてきてそれは無くないか?初対面だぞ?と思ったが、子供相手に怒るのは気が引けるので「えっと…何をしたのかな?」と聞いてみる。

「無視したこと謝って!」

「無視?嗚呼〜雨で聞こえなかったからか。ごめんね?」

 そう言うと男の子は満足した顔になり、しばらく雨の音だけが耳に流れる。その間、男の子は私の隣に座り込み口を開く。

「もしかしたらお姉さん傘ないの?」

「あぁ〜そうなのよね。傘忘れちゃってさ」と適当に返事をすると、男の子は暫く考え込んだ後持ってた傘を私に差し出す。

「これ…良かったら使って」

「いや…いいよそれは君のでしょ?」

 流石に申し訳ないと感じつつ言うと、男の子は押し黙った表情で受け取れと言わんばかりに私の目をじっと見つめる。

 わたしはその目に根負けしたので仕方なく、その傘を取って「わかったよ。でも君も着いてきて外はもう暗いしお母さ帰ったと思うから、途中まで送るね」と言うと、男の子はコクッと頷いたので、傘を持って男の子の歩くスペースに合わせながら道を進む。

それにしても、さっきまでは普通の傘と思っていたが、いざ持って開いてみると、竹と紙だろうか?ビニールでは無いもので作られた古い和風の傘だと言うこという事に気づくと、結局男の子と一切話さずに家の前まで着いてしまった。

 男の子に「ちょっと待ってね自分の傘取り入ってくるね」と言うと男の子はこちらを見上げて「お姉さん。もし誰かの心に雨が降っていたら傘をさして一緒に乗り越えてあげてね。雨は絶対に去るからさ!」と意味が分からないことを言うと、男の子は傘から飛び出すので追いかけようとすると男の子は「お姉さんまたどこかで会おうね」と空を指さして霧が晴れる様に消えて行った。


 それから数年後の雨の日

 私にも恋人が出来てその不思議な経験を思い出し、彼氏に話すと「多分それって愛傘去じゃないの?」と言った。

「そのアイガサって何?」

「愛に傘、去るの去と書いて愛傘去。意味は確か家族の愛でその人に降る災いが去るまで守るって意味。ほら!その時お前勉強とか親の虐待で悩んでただろ?」

 確かに振り返ってみるとその日から虐待や勉強の心配も不思議と無くなった事を思い出す。その時は単なる偶然かと思っていたが。その話を聞いて妙に納得して、その傘を見ながらありがとうと呟く。

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