10月29日 3
それは紛れもなく、先ほどまで共にオカ研の片づけに勤しみ、柔らかな笑みを浮かべ部室を後にし、そして今日は珍しく挙動不審だった快活な少女の姿だった。
まるで
軽く見ただけだが、顔色は悪くない。病気ではないようだ。ましてや死んでいるわけでもない。そこだけは安堵できた。
「そこの女な、昨日の夜ここに倒れとったんや。今の今までわいが預かっとった。助ける義理はないんやが、見つけてしまった以上は無視できへんからな、わいのベッドに寝かせとったわ」
ナーシェが口にする。突き放すような話し方をするが、人助けをする優しさはあるようだった。この白髪の少女は確かに
「なんや
ナーシェの言葉で我に返る。怒涛の非日常が連続で展開していたせいで思考が麻痺していた。考える力が少しずつ戻ってくる。まずは
「巣南さんは、どういう状況なんだ」
「どうもこうもあらへん、倒れとっただけや。わいはどちらかというと
ナーシェは巣南の傍らにしゃがんで、その綺麗な顔を軽く指で突いている。やはり巣南は安らかな顔で眠っているだけで、目を覚まさない。
「本当なのか? あんたがついさっき、巣南さんをここに連れ去った。だから俺が追いかけた時に逃げていったとか、
そもそもこの少女は、禁忌の山の塀の向こうから現れたのだ。
「そういう割には大分落ち着き払ってるやないか、まあでも言いたいことは分かるで。こちとら確かにあんたを締め上げた事実があるからな。今思えば
蒐の言葉にナーシェは素直に事実だけを述べる。蒐の首を締めあげたり、数メートルある塀を飛び越えたり等、規格外の能力を見せるナーシェに、疑いの目が向けられるのは当然だった。しかし先ほどの少女の言葉には嘘がない
「しかしそれ言うたら、あんたらに内緒にして処理するだけやろ、こんな素直にこの女をほいほい渡したりせえへんと思うで」
「ああ、わかってる。可能性を潰しただけだよ。あんたが何もしていないってのは話していれば分かる」
少女はにしし、と笑った。特徴のある笑い方だった。
「そかそか、意外に柔軟な対応ができるんやな。頭いいやろ自分。んでな、わいには専門外やから対処できへんけど、ここにはその鬼がおる」
ナーシェは蒐の後ろにいる
「青行灯、彼女なら何かわかるっていうのか」
「あくまで、可能性の話や。わいも今までいろんな経験してるけどな、怪異譚を収集する、世界を代表する怪異の知識には適わへん。そういう点でいえば、この鬼は相当な脅威やで」
「あまり失礼な言い方をしないでくださいまし。異形の吸血鬼さん。私は私です。ご主人様に仕える忠実なしもべです」
青行灯は蒐を見つめる。
「私は昨日からご主人様の中に住み着いています。故に今朝の出来事はすべて覚えています。ご主人様、この女性は今朝、オカルト研究会の部室で会話をしていた女性で間違いありませんね?」
「ああ、そうだよ。オカルト研究会の部員の巣南瑞穂だ。というか、やっぱり俺の中に居るんだな」
「あまり複雑な顔をしないでください。悲しくなります」
青行灯はよよよ、と泣き真似をする……がすぐに落ち着き払った表情に戻った。
「ご主人様、今朝この女性―――巣南様ですね―――と話したときや一緒にいた時、何か違和感は感じませんでしたか? ご主人様は怪異が視える体質。気配を感じることもできる。ご主人様の感覚は怪異に対してとても
「ま、待ってくれ。そもそも怪異が原因って線で話が進んでるけど、単純に病気ってこともあるだろ、まずは病院に連れていくことが先じゃないか? 巣南さんが二人になったわけでもないだろうに」
「その線も確かに捨てきれませんが、その前に私たちで考えられる可能性は試しておきましょう。私の想像通りであれば、あまり時間をかけるのは賢明ではありません」
青行灯は真面目な顔をして淡々と話す。何か考えがあるようだった。
「なんや、これだけで何かわかるんかいな」
「そうですね、そのためにはあなたにも確認しなければならないことがあります。あなた……いえ、もうナーシェ様とお呼びしましょう。あなたとは付き合いが長くなりそうな予感がします。ナーシェ様、なぜ今日は旧校舎の近くにいたのでしょう。これは私の予想ですが、巣南様を見に来たのではないですか?」
青行灯の言葉が真実だとすると、ナーシェは巣南を監視していたことになる。蒐を観察して、巣南を監視する。字面だけ見れば怪しいことこの上ない事実であった。そういえば百物語の中に一人、素質があるものがいるとか言っていたっけ。
「あんたの言う通り、付き合いは長くなりそうな気がするで。んで質問の答えやけど、よくわかったな。まず勘違いしてほしくないから言うけどな、この男のことは仕事で観察してるだけやからな、ストーカーでも何でもないで。」
「それは分かっております。私、ご主人様に害を与える女性の匂いには敏感でしてよ」
ナーシェにはすでに首を絞められているのだが、害を与える女性とはどういった女性を指しているのだろうか。
「んで、これは今日だけやが、確かにこの女を監視しにあんたらが旧校舎と呼んでいる場所に行ったで。いつもその男と一緒に居るこの女を確かめにな。今日はちょっと油断して、見つかってしもうたがの」
ナーシェはちょっと子供じみた拗ねた顔をしていた。その前には丸腰に見つかっていたことも教えてやろうか
「なるほど、さらに確認です。その時、巣南様は旧校舎と、この禁忌の山の向こう、ナーシェ様が
青行灯の言葉に、白髪の鬼はにやりと口角を上げた。
「ああ、その通りや。たしかにこの女は今、二人存在している」
蒐の目の前で青白い鬼と白髪の鬼は、決してあり得るはずのない現実を告げた。
「巣南さんが二人いるってことか?」
禁忌の山の門の前。学生服を着た少年と青白い着物を着た黒髪の鬼、欧州の民族衣装を模した服に身を包む白髪の鬼は、少し飛躍した問答の末、一つの結論に着地した。
「あくまで今ある情報だけでの仮説ですわ、ご主人様。実際に目の前に二人いる状況を観なければ結論付けたくはないですが、私の見立てですと、二人いるのは確実かと。ナーシェ様も嘘をついているようには思えません。そして同じ時間軸に同じ存在が実体として二人いるとなれば、だいぶ原因や仕組みは絞られます。そしてここに倒れておられる巣南様は間違いなくご本人かと。
青行灯は気絶している巣南の元に
「ご主人様も触ってみてくださいませ。ご主人様であれば、ここにいる巣南様が人間か否か判断が出来ます」
「いや、判断って……それに気絶しているとはいえ
「何をおっしゃいますか、倒れているご学友を救おうとしておられるのです。多少の不可抗力は許されますわ。そうですね、今朝は熱を測るために額を触っておられましたね。今回も同じように額に触れてみましょう」
さあさあ、と青行灯は蒐の背中を押して促す。ナーシェは何も言わず、暇そうにあくびをして成り行きを見守っているようだった。そもそも怪異に触ることなど、今日のナーシェが初めてなのだ。だというのに触れただけでわかるなど有り得ない話だ。蒐は遠慮しながらそっと、巣南の額に触れる。女性特有のやわらかでとても白いきれいな肌だった。温かい体温が生きていることを感じさせる。この巣南が人間でなければ何を信じればよいのであろう。それほどの確信が持てるほど、目の前にいる眠り姫は紛れもなく巣南瑞穂本人である。
「ご主人様。今朝、オカルト研究会で巣南様に触れられた時と、何か違いはありますか?」
額に手を置いたまま物思いに耽っていると、後ろから青行灯に話しかけられた。思わず我に返って勢いよく手を放す。
「いや、違いがあるかって云われても……」
「では、私に触れる時のこの感覚を、今朝の巣南様から感じませんでしたか?」
そう言って青行灯は蒐を後ろから抱きしめるように、その両手を自らの両手で包み込んだ。青行灯に触れられると同時に蒐は微かな違和感を感じる。それは今朝、巣南に触れた時と同じ感覚だった。
「何かこう、背筋をなぞられるような、ちょっと嫌な感じがするな」
「そうでしょう。これはご主人様が人間である証でございます。人間が怪異に触れると、微かな不快感があるのです。それは人間の本能に根差した、怪異への根本的な恐怖心が元となっています。どのような人間でも、どれだけ親しい怪異が相手でも、触れれば必ず違和感があるのです」
青行灯はそのまま蒐の手を甲の形を丁寧に優しくなぞる。不快感以前にむず痒い感覚が蒐の背筋を駆け巡った。青行灯は慌てて蒐から離れる。
「申し訳ありません、つい愛おしくなってしまって。さて、今私に触れた時の違和感を巣南様にも感じませんでしたか」
「巣南さんに、違和感……」
確かに感じた。熱があるのかと額に触れた時に、思考が停止するほどの言いようのない違和感。あれは怪異に触れた時の根源的な恐怖だったのか。
「どうやら感じたようですね。当たりですわ」
「なんや、ほぼ確証が出たようやな」
事の成り行きを見守っていたナーシェが、話の進展を察して会話に入ってきた。
「ええ。恐らくですが、巣南様は昨日の夜、ドッペルゲンガーに出遭ったのでしょう。そして気を失い、もう一人の自分にここまで連れてこられたのだと思います。多少気がかりなところはありますが、大筋は今言った通りでしょう」
「ドッペルゲンガーって、あのドッペルゲンガーか? 自分にそっくりな姿をした妖怪で、出会うと死んでしまうっていう」
昔から語り継がれているメジャーな話だったはずだ。
「そうやの、わいも話だけ聞いたことあるわ。実際に見るのは初めてやけどな。今日監視してみた感じ、特に悪さすることもなく、なんや戸惑ってるみたいやったな」
「戸惑っていた……ですか。そうですね、そこが私の違和感なのです。ドッペルゲンガーとは、自分と
青行灯は一気に解説を語り終えた。怪異譚を収集する怪異という触れ込みは伊達ではないみたいだ。だが、青行灯の持っているドッペルゲンガーの知識も蒐の持っている知識と大差なかった。世界中でドッペルゲンガーという存在は、ほとんど似たような性質なのだろう。
「今回のように、対象同士が遭遇して誰も死んでいないようなレアケースは類を見ませんが、巣南様がこのまま気を失っている状況は危険です。ドッペルゲンガーも私たちと同じ、意志の疎通ができるレベルの怪異でもあります。なんとかドッペルゲンガーに接触をして目的を知らねばなりませんね。目的を果たせば巣南様を目覚めさせることが出来るかもしれません」
「その目的とやらが、自分がその女に成り代わることやったらどうするんや」
ナーシェは厳しい意見を言う。
「巣南様本人が生きた状態で発見され、ドッペルゲンガー本人が介抱している以上、その可能性は低いと思いますが……その場合は退治するしかないでしょう」
青行灯は退治といった。怪異の対策のうちの一つ、戦うという選択肢のことだ。
「退治って戦うってことか? 話し合える相手なんだぞ?」
「何言うてんねん。お前、この女とこの女の真似した怪異どっちが大切なんや。綺麗ごとだけ言うてたら両方とも失うぞ。」
ナーシェは甘い考えだと言わんばかりに蒐の言葉を
「ご主人様、ご安心ください。そしてナーシェ様、暴力で解決するのは最終手段です。どうしようもない状況になってしまったときは、お願いいたします」
「わいにやれってのか。あんたらでやったらええやろ。こいつにもこの世界の渡り方ってやつを教えたほうがええで。今回はかなり簡単な部類やろ」
ナーシェは顎で蒐を指した。怪異の対応の一つである逃げるが不可能であり、かつ意志の疎通ができる怪異相手であれば、残りは対話か戦うしかない。しかし今後はそうとは限らない。逃げられず対話もできない怪異だっているだろう。その場面も考えたうえで、戦う方法も知っておいたほうがいいという、この少女なりの不器用な優しさなのだろう。
「確かにそうですね。しかしご主人様の場合、私と同じく戦う能力がありません。なのでまずは手本を見せていただければと思います。戦う機会があればそのときはお願いいたします」
青行灯までも、自衛の手段として戦う方法を知っておいたほうが良いと言っている。やがては怪異と戦うことになるのだろうか。ナーシェは青行灯の言葉に文句を言いたげだったが、今は話を進めることにしたようだ。
「わかったわい、戦うことがあれば呼びや。あとはまあ他になんかあれば手伝うたる。こっち来てからというものの、待機や観察ばっかで暇やったからの」
「あら、やはりナーシェ様も魂レベルでお優しいようですね。軽く魂を覗き見て、数巡言葉を交えただけですが、そう伝わってきますわ。貴方様がここに居られる理由はわかりませんが、私たちに害をなす者ではないようですね。今後は頼りにいたしましょう。さて、それでは巣南様のことです。ご主人様、今回はおそらく戦うことにはなりませんのでご安心ください。対話にて、ドッペルゲンガーを成仏、ないし消滅へと導きましょう」
ナーシェは反論したかったようだが、青行灯は無理やり言葉を続けて蒐に語り掛けている。ここまでの長い会話で日が暮れ始めていた。青白い着物が夕日に交わり、紅く光る。彼女の頭に生えている角が眩しかった。
白髪の吸血鬼は夕日を眩しそうに見つめた後、木陰のほうに入っていった。吸血鬼と言えば太陽の光が苦手そうだが、ナーシェは日中も活動している。平気なのだろうか。
「まず、巣南様とドッペルゲンガーを引き合わせるのは駄目です。これまでの推測ですと、彼女自身に被害を与えるようなことはないでしょうが、ドッペルゲンガーである以上、引き合わせた場合何が起こるかわかりません。ご主人様とドッペルゲンガーが二人きりになり、リラックスして対話できる環境を整えるべきです」
対話を最優先で巣南救出作戦を練っていく。リラックスして話せる場所と言ったらオカ研の部室しかないだろう。
「できるだけ早いうちがいいです。今日これからは厳しいでしょうから、明日の早い時間帯ですね」
青行灯が日時の指定をする。場所と日が決まれば、あとは話す内容であった。
「話す内容として、まずは日常会話から。順を追ってだんだんと核心に迫っていくように。そうですね、何か悩みはないか……などでいいはずです。ドッペルゲンガーとして現界している理由が分かるでしょう。しかし相手がどう出るかわからない以上、具体的な話す内容を決めても意味はないです。その時の展開に合わせて柔軟に対応していきましょう」
巣南に
「ご主人様と巣南様の今まで
「それ、ちょっと無理が過ぎないか?」
蒐は正直な感想を口にしてしまう。ほぼ初対面の女性を相手にして悩みを聞き出す対話テクニックなど持ち合わせていない。しかもなまじ相手のことを知っているだけにやりにくいことこのうえない。
「ご主人様のイケメン魂、略してイケ魂であれば私は問題ないかと思っています。巣南様も少なからずあなたを思っているでしょうからね。ドッペルゲンガーのほうも恐らく同じはずです」
「いや、あんたのその評価もどうかと思うんだが?」
「大丈夫です。ご主人様であればできます。信じて実行しましょう。ご学友を助けるのです」
蒐は傍らにいる巣南に目を向けた。できるかどうかではなく、自分がどうしたいかを考えよう。このまま彼女が目覚めないとしたら、この学園での生活は
「ご主人様、覚悟は決まりましたか?」
「ああ、決まったよ。今日は何だか本当に意味の分からないことだらけだったけど、巣南さんに何かが起きて、自分なら彼女を助けられることは分かった。だったら、助けないなんて選択肢はないんだ。頑張ってみるよ」
「ああんっ、それでこそご主人様です。最高ですう」
青行灯は歓喜の声とともに抱きついてくる。求めていた答えだったのだろう。上機嫌な彼女は今にも頬ずりしそうな勢いで蒐を抱きしめている。
「明日は頑張りましょう、ご主人様は一人じゃありません。私も憑いております」
「あ、ああ、そうだね、一緒に頑張ろう」
まだ離れる様子のない青行灯を好きにさせながら蒐は答えた。憑いているのジョークはシャレになっていないと思う。そこにナーシェの言葉が続く。
「方針は決まったみたいやな。んで、この女はどうする」
青行灯はナーシェの言葉に正気を取り戻したのか、蒐から離れた。
「そうですね、今日のところはナーシェ様に預かっていただきまして、明日ドッペルゲンガーと対話している時に、旧校舎の近くに寝かせておいてもらえばよいでしょう。何時目覚めるかはわかりませんが、ドッペルゲンガーが消えた後であれば回収して看病することが出来ますから」
「当たり前のようにわいが世話することになってるが、ちゃんと感謝してるんやろうな。明日失敗したらもう預からへんからな、ワイもいい加減ベッドで寝たいんや」
「わかってるよ、ありがとうナーシェ。明日は絶対に成功させるから巣南さんのことは任せたよ」
ナーシェはふてくされたような困ったような、複雑な表情をした。
「まあええわ、しっかりやるんやで。んじゃ、四つめの質問はこれで終わりっちゅーことでええな」
方針が決まった三者は別れの挨拶をして帰路につく。
辺りはもう完全に日が暮れていた。
学生寮に着いた。手早く着替えや食事を済ませて自室に戻る。あれから巣南や丸腰と遭遇することはなかった。
(ご主人様、今よろしいでしょうか)
直接頭の中に語り掛けるような声が聞こえる。恐らく身体の中に居る青行灯が語り掛けているのだろう。
(直接声に出すか、頭で思うだけでもこちらには伝わります、ご主人様)
(こんな感じでいいのか? いいよ、何か用?)
青行灯の手引きに沿って、心の中で返事をしてみる。上手く伝わったようで青行灯は事務的な返事をした後に蒐の目の前に現れた。
「夜分に申し訳ございません。こちらがご主人様のお部屋ですね。
「ありがとう。けど、元々物が少ないしこんなものじゃないか、それよりも何か用があって話しかけてきたんだろ?」
興味深そうに部屋を見渡す青行灯に、語り掛けてきたきっかけを促す。
「そうですね、巣南様の件です。巣南様にはこちらから連絡を取ることはできないのですか?」
「無理だよ。会う約束だってしていないし、もともと今日は休日だからね。女子寮にこもられてしまえば、こちらから何もすることはできない」
蒐も巣南も、携帯電話は持っていない。連絡を取り合う手段がないのだ。
「では明日、どのように彼女を誘い出すのです?」
「その点については心配ない。今日ドッペルゲンガーは部室に来ただろう? 恐らくだけど、オカルト研究会は休日も活動すると勘違いしたんじゃないかな。本来部活動は休日も活動するものだからね。その感覚で今日は来たんだと思う。片付けのことについても、俺から言及して気づいただろうからね。来ないと逆に怪しまれると考えて、明日も部活動をする感覚でオカ研に来ると思うよ」
そう、あのドッペルゲンガーは最初、どんな状況かと聞いてきたのだ。片付けについて言及はしなかった。そこからすでにヒントは散りばめられていた。
「そんなものでしょうか、でもご主人様が言うのであれば間違いないのですね。では違うことを考えましょう」
一応の納得する姿勢を見せて、青行灯は別の観点から問題を提起しようとする。事前に対策できることについては徹底して準備しておきたいのだろう。青行灯は蒐を心配しているのだ。そんな青行灯の心配を察して蒐は先んじて言葉をつなげた。
「大丈夫だよ青行灯。これでも色々と考えているし、怪異と関わる覚悟は昔からできているんだ。明日のこともどうにかできると思ってるよ」
「はい。私はご主人様と一心同体。貴方様の考えはすべて手に取るようにわかります。こちらから図々しく口を出すことではありませんでしたね」
「いいや、その気持ちは素直にうれしいよ、ありがとう」
「こちらこそありがとうございます、ご主人様。では、きょうはぐっすりとお休みくださいませ。明日は大変な一日になるでしょうから。絶対に巣南様を助けましょう」
一日の終わりの挨拶をして青行灯は蒐の中へと戻っていった。
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