おじvsセミ
ミーンミンミンミーン。
セミの鳴き声がおじの耳をつんざくように響いていた。
「……」
おじはもう限界だった。
ミーンミンミンミンミンミンミンミーン。
「うるっっっっっさいねん!!!!!!!」
おじは怒りに顔を真っ赤にしながら、机をバシン!と叩きつけ、大きな音を鳴らした。
しかし、セミはおじを何の気にすることもなくまるでおじを挑発するように鳴き続けている。
「お前らがそういう態度取るならもう分かったわ。
おじは覚悟を決めたようにつぶやくと何も持たずに拳一つでセミ駆除に向かうのだった。
***
おじが玄関を開けて外に出ようとすると、セミがドアの前で仰向けになって倒れていた。
「死んでも人間様に迷惑かけるなんて罪深い存在やでほんま」
おじがセミを家の前からどかそうと足で蹴ると、思わぬ展開が待っていた。
ジジジジジジジ!
死んだように見えたセミは実は生きていた。セミは急に羽を広げると鳴き声を上げておじに襲いかかった。
「うぉあ!」
間一髪でおじはそれを避ける。セミは部屋の中でバタバタと身体を壁にぶつけながら暴れ始めた。
「この、クソゼミが……!」
ギギギギギギギギギ!
壁に止まったセミが嫌な音を立て始める。
隙を見て、おじはこっそりセミに近づき右手でセミを鷲掴みにした。
「ふんっ!」
その状態でおじは右手の拳を強く握り、セミを粉々に粉砕した。バリバリ!!と鈍い音が響くと蝉だった物体は床に落ちた。
「おじに逆らうからこうなるんやで」
おじは満足げに言った。おじがふと気がついたように時計を見るとすでに午後4時を過ぎていた。
「日が落ちる前に片付なアカンな」
おじは全力で林の方へ向かって駆け出した。
***
ジジジジジジジジジジジジ。
ツクツクボーシ!ツクツクボーシ!
オマエラヤン!オマエラヤン!
カナカナカナカナカナカナカナ。
セミたちの奏でる不快な
林の前まで来たおじだったが、そこで立ち尽くしていた。
というのも、セミたちの数が尋常じゃないほど多いのだ。
「でもおじは負けるわけにはいかないんや」
おじは自分の頬をパチンと叩いて気合いを入れ直すと、ゆっくりと歩きだした。
一歩踏み出すごとにおじを敵だと認識したセミたちは一斉に飛びかかってくる。しかしおじはそれをことごとく避けて、時には潰しながら奥へ進んでいった。
すると、目の前に大きな木が見えてきた。どうやらこれが目的の場所らしい。
「ここか……」
おじは呟くとその大木に向かって歩いていく。そして大木の元に着いたところで、それは居た。
ミ゛ー゛ン゛ミ゛ン゛ミ゛ン゛ミ゛ン゛ミ゛ン゛ミ゛ン゛ミ゛ン゛ミ゛ー゛ン゛!゛!゛!゛!゛!゛!゛
何百匹のセミの大合唱をかき消すような音量で鳴き声をあげているのは、ただ一匹のセミだった。
しかしそれはただのセミではない。サイズが尋常じゃないほど大きく、体長はおじの身長を一回りも二周りも超えていた。
おじはその姿を確認すると、腰を落として戦闘態勢に入った。
「お前がこの街のセミたちを産み出している存在、
おじが叫ぶと、それに応えるかのように主セミは大きく羽を広げた。
そして、次の瞬間―――。
ドォオオン!!! ものすごい轟音を響かせながら、主セミはおじが立っていた地面へと急降下してきた。
「おっそいわボケ!!」
おじはそれを見切って後方に飛び避けると、その勢いを生かし後ろ脚で地面を蹴って主セミに飛び蹴りを食らわせる、
「オラァア!泣く子も黙るおじの膝食らっとけ!」
グシャリという音と共におじの足が主セミの腹部にめり込む。
ミ ゚ィイイーーーン!! 主セミは悲鳴のような鳴き声をあげて巨大な4枚の羽と6本の脚をバタバタと仰け反らせた。
「まだまだぁああ!」
おじはそのまま連続で膝を打ち込んでいく。が、
ぷすっ。
「え?」
このままセミをしばき倒せると思ってたおじだったが、脇腹に違和感を感じた。
おじが恐る恐る確認してみると、巨大なセミの口吻から伸びた針がおじの脇腹に刺さっていたのが見えた。
「アカンアカンアカン」
おじは慌てて引き抜こうとするが、主セミは追撃でお腹から2本目の針をおじに突き刺した。
「アカーン!」
おじは必死に抵抗するが、みるみると体から力が抜けていく。
(気合や、気合を入れ直すんや!)
「パンよりパンチ!おじだおじだおじだおじだ!」
おじはそう叫びながら全身全霊の力を込めて、主セミの口吻に膝を打ち込んだ。
パキッ。
主セミの口吻が折れる。おじはすかさずその隙をついて、セミの身体の上に飛び乗った。
「終わりや。歯食いしばれや」
おじは左手で折れた針を掴んで逃げられなくすると、右手を大きく振り上げた。
「おじがしばき、おじが正す」
おじの右手が光り輝き『拳正』の文字が浮かび上がる。そしておじは右手を思い切り降り下ろした。
「おじパァァァァァァンチ!」
ぐしゃっ。
おじの拳は衝撃波を伴って主セミの頭部を粉々に砕いた。
一瞬遅れて周囲には轟音が鳴り響く。
やかましかったセミたちも一斉に飛び立っていき、林は静寂を取り戻した。
「勝ったやで……」
***
「あー疲れた」
おじは家に帰ると疲れ切った身体をベッドへ倒れこませた。
バリバリ!
「これでしばらくは大丈夫やな」
安心したおじだったが、ふとあることに気がついた。
「窓、開けっ放しで出かけてたやん」
おじは立ち上がると窓を閉めようとしたが、熱かったのでこのままでいいやとそのままにしておいた。
「アカン眠い、おじもう寝る」
おじはベッドに入ると3秒で眠りについた。
しかしおじは大きな過ちを犯してしまっていたのだった。
その日からおじには、セミの鳴く声が絶えることはなくなったという。
BAD END
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