ナヤメル・カメラガール

よずく

第1話 着!

 風に靡く黒髪がチクチクと目に刺さった。サマーバカンスというものは,実はそれほど優雅でない。と,実紀は思う。砂は暑いし,日差しも暑いし…。深くかぶった麦わら帽子から光が差し込んだ。


 実紀の心には少しばかり罪悪感が残っていた。夏期講習をサボったのだから,当たり前だ。本来なら迫り来る高校受験に向けて猛勉強するものだ。

 だがこの青い海を前にして心が躍らない人がいるのだろうか。勉強なんてすっかり忘れて海に駆け出したい気持ちを堪えた。さっきまでの気持ちを取り消しながら。


「実紀!あんまり遠くに行かないでよ。」母の声が沿岸に沿って細く響く。


 実紀は聞こえないふりをした。親の話に耳を傾けるよりは,少しばかり映えそうな写真を撮る方がいい。自慢の一眼レフを掲げた。クリスマスと誕生日のプレセントを合わせて買ってもらった,結構お高い代物だ。壊れて欲しくないので,旅行の時以外はあまり持ち出さない。


 しばらくの間,実紀は絶景を前に一人で砂浜に佇んでいた。真上から日が照りつけ,足元に小さな影を作る。



 その時だった。

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ナヤメル・カメラガール よずく @takawashiyozuku

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