33.将来の夢なんて俺にはないと思っていた。
「しかし、まさかあのまま大学のことまで教えてもらえるとはな……」
「美冬さん、結構ノリノリだったね。そういう面倒見がいい所は、やっぱり保育士に向いてるって言えるのかも」
放課後、俺は由佳の家にお邪魔していた。
話しているのは、穂村先輩と話したことだ。俺の将来について、彼女は一つ可能性を示してくれたのだ。
「まあ、元々聞いたことはある大学だったが……」
「うん。すぐ傍にある大学だもんね」
「穂村先輩は、この大学に行く訳か……いや、受験次第ではあるが」
「美冬さんなら大丈夫じゃない?」
「ああ、実際自信満々だったしな……」
穂村先輩は、受験に関してはそれ程心配していない様子だった。
事実として、彼女は教師からも絶対に受かると太鼓判を押されているらしい。三年生の中でも最も成績が優秀な穂村先輩にとって、この大学はそれ程難しいものではないのだ。
「教師か……」
「ろーくん的には、教師ってどうなの?」
「どうなんだろうな? 以前までの俺なら、そんなものは絶対に無理だと言っていたと思うが……」
「今は違うの?」
「ああ、そうだな……」
由佳は、俺に対して軽やかに質問してきた。
それは恐らく、俺が揺れていることをわかっているからだろう。由佳は俺がリラックスできるように、明るく振る舞ってくれているのだ。
それが俺にとっては、とてもありがたかった。やはり由佳は、どこまでも俺を支えてくれる存在だ。それを改めて実感する。
「前に由佳が言ってくれただろう? 俺は面倒見がいいって。それに、俺は色々な人を助けていくって」
「うん。そう言ったね。今でもそう思っているよ?」
「思ったんだ。もしも俺がそういう人間であるなら、助けたい人がいるって……」
「助けたい人?」
「ああ、それはかつての俺のような……俺が助けられなかった人のような、そんな人達に手を差し伸べられるようになりたいんだ。俺が由佳に助けられたように。今度は俺が……」
将来の夢なんて、俺にはないと思っていた。
だが穂村先輩に示されて、俺は理解することができたのだ。自分が、何をしたいのかということを。
きっとその夢は、二年生になって由佳と再会した時から芽生えていたものなのだ。俺は彼女のように、俺のような誰かを助けたい。それが俺の今の夢なのだ。
「ろーくん、ろーくんは私に助けられたって思っているんだね?」
「ああ、そうだが……」
「でもね。私は、私がろーくんを助ける前に、そのずっと昔にろーくんに助けられていたんだよ。ろーくんは私の手を引いてくれた。だから私は、ろーくんの手を引っ張れたって思うんだ」
「それは……」
「だからね、ろーくんには似合っているって思う。私、応援するよ」
「……ありがとう」
俺と由佳は、ゆっくりと抱き合った。
こうして俺の将来の目標は、定められたのだった。
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